(60)謎の老人
アイルは研究所を出てとある外で風に吹かれていた。
微かに魔物の声が風に混ざる。
その時不意に後ろに気配を感じて振り向くと一人の老人が立っていた。
「お嬢さん死にそうじゃな」
「何?だあれ?」
アイルは面倒くさ気に言った。
「ただの通りすがりじゃよ」
老人は長い髭を揺らして笑った。
アイルはこの老人が妙なことに気づき一瞬目を厳しく細めた。
が、表情を緩めて言った。
「死にそうに見える?当たりかも」
「何があったのかね?」
「…とんでもない失敗で研究所取り上げられそうなの。もしくは殺されるかも」
「だが殺されないかもしれん。少なくともその日まで生きにゃ」
「おじいさん…」
夜風はさすがにこの時間になると肌寒い。
何者なの、と聞きたいのを心の中にしまう。
アイルは前髪をひとつ振ると言った。
「もう少ししたら研究所に戻るわ、責任者だものね」
そう言ってタバコを取り出すとくわえて火をつけた。白い煙を吐き出す。
老人は笑って去って行った。
宙に消える煙を眺めて再び老人を探すと、もう老人はどこにもいなかった。
「一応避難所行く?」
「いや一旦家の方に戻ろう、郊外だから無事かもしれないし。無事なら備蓄あるし」
ということで家まで歩いた。
道中多摩はしきりに威咲の髪の毛を勿体ながった。
「威咲ちゃん髪の毛、あんなに長かったのにね…」
「記憶が無いけど、捕らえられてる間に切られたみたい。短くなってもいいけど、髪の毛を取られて大丈夫かな」
「うーん、危ないと言えば危ないけど、あいつらが何かしたらその時対処するしかないわ」
「そう…本当にごめんなさい」
「ううん、いいわ。それより明日、髪の毛整えてあげる」
「うん、頼むね」
「良かった無事だ~!もう疲れたわ」
「いっそ防空壕でも掘る?」
「いいわ避難所で」
パンを食べて休むことにする。
部屋で二人になって、威咲は着替えると一夜に言った。きちんと伝わるように。
「また今回も記憶が無くて、こんな風に記憶が無いなんて怖いけど、垂華君と話して私…もう逃げないことにしたの。きちんとみんなと戦うって決めたの」
何か隠した目ではなく、落ち着いた決意が感じられる目だった。
「だから、もう心配させるようなことはしないから」
最後、無理に笑ったように見えて、一夜は立ち上がって威咲の肩に触れた。
ビクッと怯んだので、一夜は微笑んで頭をポンポンとしてやる。
こいつは今日傷ついた。無理も無い。
だがやり場の無いごちゃ混ぜの感情が苛む。
「…もう寝ようぜ。疲れただろ?」
そう言って先に横になる。威咲も安心して横になったようだった。
程なくして寝息に変わる。その位疲れたのだ。
手首を切る前から、ずっと悩んで、一人で苦しんできた疲れが溜まっているんだろう。
一夜は威咲の方に手を伸ばして、止めて、目を細める。
自分は微妙な琴線の上にいる、と思った。ともすれば崩れてしまうような。
次の日、威咲は何かふっきれたような感じで、明るい笑顔を見せた。
ようやく悩みを割り切れたのだろう。ずっと見たかった笑顔に戻って一夜はホッとしていた。
そして、多摩の散髪は割と器用で上手だ。
「これでどうかな?」
威咲は鏡を見て頷く。
今回は両頬にかかる髪に合わせてバランスを整えた。切った髪の毛は掃き集めて例の処理をする。
「一夜も見て、どう?」
髪を左右に揺らして見せた。
「ああ、いいんじゃねえの?」
威咲はニッコリ笑った。
それから垂華がみんな集めて言った。
「魔物が目覚めてしまったから、手を打たないといけない。
魔物は夜活発化するから夜になったら魔物退治に出かけよう。チームは俺と威咲ちゃん、多摩と一夜。
俺はこのエリアをやるから…」
役割分担をする。
「…じゃあよろしく」
一夜は自分が威咲にしてしまった既成事実と密かに葛藤してます…
もう告白もしてしまったから、さいは振られたんだけど、こんな悩みに変わるとは。がんば☆




