(48)いっそ触れられたら
ウェストヒルの家からも去ることになった。
そして、前いたバークスの屋敷に戻った。
「部屋割りは前ここを使った時のままでいいね?」
垂華が言い、それでいいことになった。
それぞれ部屋に寝具を運び、掃除した。
威咲はまた髪を結う位置を高くした。
威咲は一夜とまた同室になって、昔に戻ったようで実は嬉しかった。だがそれは言わない。
一夜の方はまるきりいつもと同じ調子だ。当たり前か、と威咲は思った。
何も望まない。きっと私が消えてしまうまで、それまではずっとこうして仲良くしていたい。
気持ちを伝えて、もし避けられたら?そうなりたくない。
それよりはいっそこのままでいたいから。それが私の今の望み。
一夜は威咲とまた一緒になって考える。
一年前別れた時は、漠然と、或いは無意識に、威咲は自分のもののように思っていたかもしれない。少なくともそんな甘えがあった。
だが今はなんとなく踏み出せない。
自分はもう汚れている気がして、威咲がきれいで、いっそ触れられたらいいのに、そんな気にはならない。
それに威咲の態度があまりに何もなくて、分からなくて俺も同じようにしてしまう。
もう自分のものじゃないのかな。
それにやっぱり威咲はきれいなままでいて欲しい。汚したくない。
まるで聖域だな、と思って少し自嘲した。
威咲はまた眩暈を覚えて壁に手をついた。
いつかこんな風にして意識を失って、そしてそのまま戻らないんじゃ…
強く目を閉じ己を叱咤する。
そうなりたくない。負けないように。
気持ちを集中し眩暈を押し返す。
どうにかその場はやり過ごして安堵するがいつまたそれが来るかは分からなくて威咲はそれが怖い。
私の中で育っているの?怖い――――――――
庭にはまた水仙が咲いていて、鈴蘭も小さな蕾が見えている。
季節は間違いなく巡るなぁと感心させられる。
威咲は庭掃除の日以来、なんとなく垂華に優しく接するようにしていた。可哀想な気がして。
同情なのか申し訳なさからかそうしてしまう。
垂華はそれに気づいているが気づかないふりをしながら、一夜のことが好きなくせに、とそっと思った。
あの日の話を一夜は知らない。
部屋で威咲と話していると威咲が、スズミさん達元気かなと言ったので、一度会ってきたと言うと羨ましがられた。
その時の話になったので、土地の話をした。
「そうなんだ。すごいね、自分の土地だね」
「まあな。いずれいつかはあの土地に帰るかもしれない」
「うん」
「まだ決定じゃないけどな」
「うん…」
「…。旭、もう歩いてるだろうな。しゃべってるだろうし」
「いいなぁ私も会いたいなぁ。いつかまた連れていって」
「いいぜ。行けたら、な」
夜行列車の話をしてやると威咲は喜んでグイグイ聞いてきた。やっぱり、と一夜は優しい顔になったが自意識は無い。威咲はにっこり微笑んだ。
「じゃあいつか、約束だよ?」
威咲が小指を出したので指切りをした。
夜、一夜は明かりを消して布団に入って思った。
いっそ触れられたら。
地名出た。バークス。国の首都で国の北西にある盆地。
一夜も威咲も、互いに好きなのにそれを知らない。切ないですね☆
火星大接近を見た!綺麗なオレンジ。火星に限らずだけど、星の何が素晴らしいかって、誰に見せるでもなく勝手に光ってるのがいいんだよね!
見返りも賞賛も求めず、ただひたすら自分のためだけに光る。
自分を強く持ってらっしゃるようで素敵です☆




