(47)戦禍
一夜がまた加わった。
こうなったのは自分の血を輸血したからだと聞いて威咲はショックを受けていた。
一夜の部屋に謝りに行った。
「一夜、今いい?」
「ああ、どうぞ」
ベッドの上に寝転んでいたらしく、起き上がった所だった。
「あのね、…ごめんね」
何のことか察する。
「別に気にすんなって。お前が悪い訳じゃない」
「だけどせっかく元の暮らしをしてたのに、引き戻しちゃったね」
「だからお前のせいじゃねえって。…気にしてねえよ。だからお前も気にすんな」
もうこうなってしまったものは変わらない。
「…うん」
本当に申し訳なさそうな威咲に一夜は少し笑ってみせた。
「ねえ威咲ちゃん、一夜君と別室で寂しい?」
「別にそんなことないよ」
「そう?あたしあやして欲しいー」
多摩が纏いつきたくてウズウズしているのがわかった。威咲はおかしくて笑ってしまう。
「何?」
「ううん、多摩ちゃん可愛い」
後ろで多摩の髪を梳きながら威咲は微笑んだ。鳶色の長い髪に少しクセのある前髪に三角あごにキュッと少し上がった目尻で本当に可愛いのだ。
一夜は宛名書きのバイトを続けている。
列車通で、通勤にオッサンの家の前を通るので帰りにたまに寄っている。勝手に上がって夕飯を作って帰るのだ。
オッサンは婚約者が病気で死んだから結婚しないでいると前に聞いた。それにモテないしよ、と茶化していたが。聞いたのは19の時だった。
4月、ラジオでこの街も市街戦のエリアになる、と知らせていた。
隣の国が攻撃を再開して、いつどこで銃撃戦が始まるか分からない状態になった。街ではあちこちに軍が警備をしている。一夜のバイト中にも近くに砲弾が飛んできて、一時騒然となった。
「最悪、もうなんでよ~。これじゃあまるで戦争だわ。いっそ議会も戦争宣言すりゃいいのよ。配給がいいわ」
散歩がてらクチナ近くまで買い物に出た多摩も銃撃戦を遠目に見て、垂華に文句を言っていた。
「配給じゃお前みたいなのこそ一番不平不満を言いそうだがな。贅沢品が欲しいとかなんとか」
「それもそうね…やっぱり高級お菓子よふぁーあ。…見てクマ。昨日勝つまでゲームに付き合って貰ったの。17回目でやっと勝ったわ」
「わざと負けて貰ったな」
「それはないわ。それだけはしないでって言ってたから」
「じゃあ眠すぎて間違ったんじゃない」
「それはあるかも。ねえどうしたら勝てると思う?」
「分からないな」
多摩はゲームが弱かった。
「カルタなら得意なんだけどな。運が悪いのかしら」
一夜のバイト先は従業員を一度全員解雇にして閉鎖になった。オッサンの印刷所も先日閉鎖になり、オッサンは田舎に疎開することにしたそうだ。
一夜は見送りに行った。そこでオッサンは一夜にメモを渡し言った。
「一夜、これが俺の疎開先の住所だ。いつでも頼ってきていいからな」
それはオッサンの実家で、一夜の故郷でもあるトゥコにある。
一夜は微妙な顔をしたのでオッサンが笑ってその頭をかき回した。
「俺の兄貴の家だよ。お前の祖父母の家じゃねえか、遠慮すんな」
一夜とは血の繋がりはない。だがいつまでも避けている子供ではない。
「わかった」
笑顔を作ってみせる。
「手紙よこせよ」
「あ、俺の方にはよこさないで。こっちも居場所変わるかもしれないから」
「そうか、まあ実家に聞けば俺の居場所は分かるからな」
最後にハグしてオッサンは列車に乗り込んだ。
オッサンは窓から手を振り、他にも沢山手を振っている人がいた。
一夜は手を振った。
オッサンとはしばしの別れです。
こんな理由だけど威咲は一夜とまた一緒にいることになって、良かったね。




