(43)また、別れの時/テレパシー
傷もほとんど治り、まだ押すと痛むが普通に動かせるようになり、字も書けるようになった。これなら軽作業も出来るだろう。なのでそろそろまたお別れだ。
そう皆に伝えると笑って励まされた。
最後の夜に軽くお別れ会をしてそれぞれの部屋に戻った後、部屋に垂華が来た。
「一夜、大事な話があるんだ」
咄嗟に嫌な予感がする。
「なんだよ」
「実は言おうかどうか迷ってて観察してたんだけど…何の変化もなかったら言わなくていいかとも思ったけど、やっぱり言うよ」
「?」
「一夜、お前はっきり言ってかなり面白いことになった」
何のことか分からずにいる一夜の様子を見て、垂華は目を軽く伏せて続けた。
「怪我した時、威咲ちゃんの血を輸血しただろ?」
威咲が狙われたのを庇ってした怪我。一夜はハッとする。
「まさか、威咲を狙った奴に俺も狙われるってことか?」
「そうかもしれないし、何もないかもしれない。それは奴らが何を考えるかによる」
「奴らって何者なんだよ。教えろ」
「…巫女を狙う奴がいるんだ。どういう意図なのかは知らないけど。…だから、別れても連絡を取り合わないか?」
「は…」
「手紙は面倒だし人に見られる。しかもタイムラグがある。
だから毎週月曜の夜に俺からテレパシーを送るよ。それなら誰にも聞かれないし居場所も関係ないだろ。
それで経過報告をして欲しい」
「…絶対?」
「絶対。その方が安全だよ。それに万が一一夜に何かしらの変化が現れてもすぐ手を施せるし」
「言っていることは分かったけど…変化って?威咲みたいな…?」
だが巫女の魂はひとつなのだから関係はないのではないか。
「巫女の血にも凄い力があるんだよ。勿論魂は威咲ちゃんにあるけど、何の影響も無いはずない。
今はまだ魔物も覚醒前だから何も無いだろうけど、もし覚醒した時は保証は無い。だからさ。
一夜に何かしらの変化があったら、それを鎮められるのは俺達だけなんだよ。じゃないと魔物に喰われて正気を失うか、巫女の力に耐えきれずに身体が壊れてしまうだろう」
「そんなに…」
「時間は9時でいいね」
「…ああ、分かった」
この身に何か起こるなんて考えられない。何か渦に巻き込まれるようだ。
威咲の血が俺の身体の中に、ある――――――――――
別れる時はまた多摩に抱きつかれた。威咲は笑っていた。一夜は威咲に何も気付かれないようにして別れた。
すぐ隣町なので30分もかからないで列車は駅に着く。
まず職場に挨拶に行くと、明日からまた出てこいということで、安心してオッサンの家に帰る。
今4時を過ぎた所で、オッサンはまだ仕事中のはずで家には鍵がかかっていた。
合い鍵で入り、中を見回して流しの皿を洗う。
夕飯の支度でもするか。冷蔵庫の中身を適当に身繕いスープと炒め物を作った。
帰ったオッサンは一夜にハグしてきた。
「心配してたんだぞ。無事で良かった。怪我ってどうしたんだ?」
「大したことねーよ。ちょっとな」
「そうか」
そこでオッサンは肩口の服の穴に気づいた。穴は小さいし縫い詰めてあるが気づかれた。
「それは銃か?まさか撃たれたのか?」
「それは…」
「なぜ撃たれた?」
「…通り魔だよ。ちょっと知り合いがいて、そいつを庇って撃たれちまって、そいつの家に世話になってたんだ」
「本当か?」
「ああ」
少し嘘になった。後ろめたかったが仕方ない。
「犯人はどうなった」
「逃げて、多分そのまま」
「そうか…危ねえな。俺も気をつけねえとな」
約束通り、月曜の夜9時に部屋で待っていると、時間通り垂華の声が聞こえてきた。初めての、頭に直接くる声。
――何も変わりない?
「ああ、何も」
――返事は口に出さなくても念じれば話せるよ。終わりかたは俺からの力が途切れたら、もう何もつながってなくなるから心配無い。
もし一夜に何かしらあったらその時は強く俺の名前を念じれば気づけるから。
あの晩、垂華は俺の手に呪文を唱えながら何か書きつけた。これが俺と一夜を結びつけるからと言っていた。
念じてみる。
――聞こえるか?
――ああ、バッチリ。便利だろ。
――凄いな。
――まあね。じゃあ今日はこれで。お休み。
垂華の声が途切れてから、一夜は肩の力を抜いた。いつの間にか強張ってしまっていた。これに慣れなければならない。
ホラスとクチナは国の北東側の隣接する町。
一夜は威咲の血を輸血したことで、つながりが出来ましたね…。
最近家にカナリアがきました☆ピイ☆




