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CALL  作者: スピカ
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(4)谷川沿いの街道で2

威咲の老父が殺され、危険だと判断した一夜は威咲も連れて村を去った。街道で雨のためとどまっていると、夜中に半鐘が鳴る。川が増水したのだ。山の集会所に急ぐ中、川に落ちた子供を助けに飛び込んだ威咲。なんとか子供も助けしんがりで集会所に着いた時、堤防が決壊した。

 集会所で威咲の足を医者に見てもらった。内出血で黒くなり、見事に腫れてしまっていた。


「折れてはいないので骨にヒビが入ったのだろう。流木も危険だからねえ」

 添え木を当ててもらい、安静にしているようにと言われた。

「ありがとうございます」

「本当に無事で良かったよ」


 怪我をした威咲に気を使って大部屋ではなくその横の壁一枚隔てた出入り口のある廊下の突き当たりを斡旋された。大部屋も板張りなので廊下で不便ということもない。



 皆部屋に移動し二人きりになると一夜は何が気に入らないのか何も喋らなくなった。

 雨音と隣から聞こえている話し声を聞きながら威咲は一夜を見た。不機嫌そうな顔をして目を閉じている。

「一夜」

 威咲は呼びかけてみた。が返事はない。

「一夜?ねぇ…」

 もう一度呼んでみた。やはり返事はなかった。威咲は様子を窺うのをやめると前を見ながら一人言のように話した。

「あーあ、1ヶ月も安静にしてなきゃならないのかぁ。私我慢できるかな…ごめんね?なんか怪我しちゃって…。でも子供助かって良かったよね?あの時もし一瞬でも遅かったら間に合わなかったかもしれないとか思うと怖くなっちゃうよね」

「威咲」

 一夜が急に沈黙を破った。やっと喋ってくれたと思い威咲は笑顔で隣を見た。

「何?」

「なんで手ぇ離した?」

「え?」

「あの時なんで手ぇ離したんだ?離すなって言っただろ」

「それは…だって目の前で男の子が落ちたから」

「奇跡的にあそこに木が生えててお前の手が掴まれるのが間に合って助かったけど、運が悪かったらお前ごと流されてお前死んでたかも知れないんだぜ」

「だけど、あそこで誰かが助けなきゃあの子供は死んでたかも知れないじゃない」

「俺は自らを危険に晒すなって言ってんだよ」

「!ひどい!一夜のバカ!どうして分かってくれないの?」

「なっ、俺はただ」

「過ぎてからじゃ遅いのよ!」

「――――――!」

 一夜の心臓がドクンと跳ねた。


 急に無言になった一夜を威咲は訝しんだ。

「…そうだな。お前の方が正しいよ…」

 うなだれたようにそう言うと一夜は力ない動作で立ち上がった。

「外の空気吸ってくる」

 そう言って出ていった。

「…?どうしたの…?」

 威咲は不思議に思ったがなぜかは分からなかった。

 確かに一夜の言った意味は分かる。だが飛び込まなかったらあの子供を見殺しにすることになったのだ。だけどもし運が悪かったら…。

 威咲は両腕で自分を抱いた。そう、もしかしたら私はさっき死んでいた。だけど。

「私は飛び込むよ?心配かけてごめんね…?」



 一夜はひさしの下で風に吹かれていた。

 雨はさっきまでよりはだいぶ小雨になっている。灰色の雲が妙に明るい。街道を飲み込んで流れる水音が轟轟としてくる。

 

 一夜はしゃがみ込んで昔を思い出していた。そう、俺は前にも一度さっきのと全く同じ台詞を聞いた――――――。

 同じことを言われるということは俺はあの頃から何も変わってないんだろうか?

 あの激しい後悔と自責の念に苛まれた気持ちを忘れない。あれからもう何年も過ぎてだいぶ大人になれたと思っていたのに…。

 昔あの台詞を吐いた人の輪郭をはっきりと思い出した。その時の光景もその場の匂いも。そしてそれからあった出来事たちを。

 一夜は奥歯を噛みしめた。そうしないと涙が出そうだった。普段もたまに思い出すがその時は平気なのに、なんでさっきはあんなに動揺したんだろう。自分でも分からなかった。



 しばらくして廊下に戻ると、威咲は膝を抱えて廊下を見つめていた。一夜に気付くと顔を向けてきた。


「一夜…ごめんね心配かけて…だからさっきは怒ったんでしょう?」

「威咲…」

「でも私は飛び込むのやめないから…」

「…っ、」

「後悔したくないもん」

 そう言ってはにかんだ。一夜は嘆息するフリをした。

「分かったよ。さっきは怒って悪かったな。外で反省してきた」

 威咲が微笑んだ。

 その顔を見て一夜は気付いた。目が潤んでいる。それに暗いせいもあってすぐ分からなかったが顔も少し赤いようだ。

「威咲、お前熱あるんじゃないか?」

「そうかな」

「どれ」

 一夜が手で頬を触って確かめると、はっきり分かるほど熱が上がっていて小さく舌打ちをした。

「待ってろよもう一枚毛布借りてくるから」


 骨折のせいだろうか。大部屋に入るとちょうど入り口の所にさっきの背の高い男がいた。

「熱?それは大変だ。お絞りと桶も必要だな。こっちだよ」


 台所からそれらを持ってついてきてくれ、寝かせて額を冷やして様子を見ると帰っていった。

 男がいなくなった後一夜はため息をついた。威咲はもう眠っている。一夜は壁に寄りかかった。




一応、万人受けを目指しているつもり…ではあります。BGMはバンプオブチキンのリビングデッドでした。

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