(33)季節はめぐる
威咲と離れた一夜は叔父さんの家に居候です。
オッサンは活版印刷所で技師をしている。
毎朝生パンと温めた牛乳とサラダを食べて8時には家を出る。
一夜はダイレクトメールの宛名書きを始めた。
こちらはバイトで1日5時間なので10時前に家を出て終了が4時。5時には帰宅できる。
しかも定休日以外にも休みあり、今回はのんびりいくつもりだ。
ただし給料は安い。時給5シリン70ペスだから1日28シリン50ペス。ひと月560シリン程だ。(ちなみに惣菜パン1つで大体1~2シリンだ。安い靴なら10シリン程。百ペスで1シリン)
なんだか気が抜けたようで、しばらくはあまりやる気も無く、ただのんびりしていた。
週に1回くらい行く安い酒場で顔馴染みが出来た。それに昔ここにいた時につるんだやつらともまた会った。そいつらと話しながら飲んでいると安らぐのだった。
働いて、のんびりして、たまに飲んで、本当に何事も無く日々が過ぎていった。
威咲は胸にぽっかり穴が出来たように感じていた。
一夜がいなくなってはやひと月になる。
どこに行ったのかも知らない。どこかで生きてることぐらいしか知らない。
スズミさんも昔これと同じ気持ちだったのかなと最近はよく考える。
置いていかれて、宛てもなくて、連絡も無くて…あの時期は精神的に参ったと言っていた。きっと頑張れる心の支えを無くしたんだろう。
そのスズミさんたちとももう会うことも無いかなと思うと寂しい。せっかく仲良くなれて楽しかったから。…どうせ、いつか一夜と離れたらお別れだったかもしれないけど、もしかしたら連絡を取り続けたかも知れないし…。
私は、もう一夜は出ていったので帰ってくることはない。永遠に、もう会うことはないのだから、待つわけでもない。
出ていく前に好きなんだと気づいたから、置いてけぼりになった。
自分でももっと泣いてしまうのかと思ったが、それほどでもなかった。涙はそんなに出なかった。
その代わりに乾いてしまったの?思い出しても、乾いた涙が出てくる。どうしてかな。
最初は頑張れると思ったけど、こんなに空っぽになって、私この先ずっと先も頑張れるだろうか。笑顔でいられるだろうか。
もう春になり、庭のスイセンも柳も咲いた。
香りを嗅ぎ、花を摘んで居間に飾る。
最近の遊びは専らあやとりだ。最初は意外に苦手だった多摩も段々出来るようになってきた。
多摩はたまに一夜君元気かな、と言っているがそんな時は威咲の胸はチクリと痛む。
だけど多摩には自分の気持ちに気づいたことは言っていない。もう一夜はいないのだし…。
だがそうして一夜の話をする時は心に温かいものが流れ込む。ほっとして威咲は微笑めるのだった。
そうやって毎日頑張って過ごしていくが、段々好きな気持ちも虚しくなって乾いていく感じがした。
そうしていつか自分全部が乾いて、乾ききってしまう気がした。嬉しいとか幸せとかいう気持ちが全部、乾いてしまう気がした。
二人ともそれぞれに生きていこうともがいてます…。実は忘れられないと離れた後に気づく。でももう戻れなくて。そんな部分です⭐




