(29)気づいた想い
「俺達が君に気づいたのは君と一夜が出会う少し前。央円がかくまって存在を隠し続けているのはなぜかと思った。巫女が現れたら彼女を中心に少なくともテレパシーでネットワークを築くのが慣例だから。
その時はまだ魔物には気づいてなかった。どうにか感知したが巫女の気は希薄で深い所で眠っているようだったし央円も気を閉ざして隠していてテレパシーが使えなかった。
それでもできるだけのことをして様子を探った。するとどうやら央円が巫女を封じ込めているらしいことが分かった。
魔物達はあちこちで徐々に目覚めに近づき始めているようだし、央円のしていることは責任を放棄して寝返ったことに他ならない、仲間に対する裏切り行為だった」
そこまで話すと垂華は一度目を閉じ静かに息をついた。
「そこに一夜が入ってきたから少し待った。…が、何なら一夜の記憶からそこでのことを消せばいいんだから、留守中に央円に接触を試みた」
「央円は垂華より力が強いのよ」
「なぜ巫女を隠し自らも隠れていたのか聞いたが何も答えなかった。それどころか逆に俺らを動けなくすると、結界を築き俺達の記憶を操る呪文を唱え出した」
「だから、垂華が結界をとく術を使ってあたしが気合いで結界を破って少し脅すつもりで斬りかかったのよ。そしたら術ではじき飛ばされちゃって、あたし達は手を出せなかったの。そしたら…央円は破滅の術を唱え出した。だからあたし達は引くしかなかったのよ」
そしてその後威咲達が帰ったのか。
威咲の目から涙がこぼれた。
「なんで…?」
「なぜかはわからないわ」
「ただ、その後ずっと威咲ちゃんを観察していって、魔物も宿っていることに気づいた」
「いつ?」
「出会って、別れた後」
じゃあ見られていると思ったのは垂華達だったのか。
「おそらくはこのまま巫女ごと魔物を封じておくつもりだったのだろう。それで威咲ちゃんにいいこであるように封じを施したのさ。負の感情は魔物を目覚めさせる鍵になるからね。
なぜ威咲ちゃんに封じがされていたかこれで分かっただろ?」
「うん…」
「だけどさっきも言ったように巫女が必要な時が近づいた。だからいずれ封じは解かないといけなかったわ。だからなぜあそこで自死を選んだのかはわからないの」
「魔物は眠ったままいつか十分に育ったら、その時きっと攻撃に転じて現れる。どうかそれまでは言い方は悪いけど繭みたいな、君の器としての身体が緩衝地帯になるから心のあり方に気をつけて欲しい」
「分かった」
私は、負の感情を抱かないように。それが私の責任なんだね…
「一夜」
「何」
夜、部屋で二人になったので威咲は一夜に切り出した。
「私、垂華君とは何もないから、もうくっつけようとかしないでね」
「…分かったよ」
面倒くさそうだ。
「…どうして急にそんなことしたの?」
「別に。ただお前らが仲いいから、このままくっつけばお前を置いて出て行けると思ったんだよ」
ショックだがわざと強がってみる。
「一夜には、私はお荷物でしかないもんね」
「別にそういうわけじゃ…」
「そうだよ。ごめんね、ずっとお世話になって」
ぷい、と横を向いてみせる。
「…じゃあ俺出てってもいいんだな」
「っ!」
「風呂入ってくる」
そう言うと行ってしまった。
「どうしよう…」
自分から言わせてしまった。とどめのように聞こえた。
強がったのがいけなかったの?本当は行かないでって泣き出したい。一人にしないで。
一夜がいなくなったら私、ずっと頑張っていく自信がない。
多摩の台詞がよみがえる。
一夜のことが、好き?
そう考えると急にドキドキしてきた。
私は一夜が好きなのかな。置いて行かないで。
両手で顔を覆った。
「――――――っ」
唇を噛んだ。涙が溢れないようにする。
今気づいたよ。私は、一夜が好きなんだね。
私は、一夜が、好き―――――――――――
ようやく!!な感じがするサブタイトル。
威咲の育ての父、央円の死の真相が一応明らかになりました。垂華と多摩が犯人かという感じのままここまできましたが、どうだったでしょーか。
バンプの新曲のタイトルがSpicaで嬉しいこのごろ⭐⭐⭐




