(27)置いて行かないで
――――――――元々お前のことはいい住み込み先が見つかったら置いていくつもりだったし、今の状況から見たらお前はあいつらと一緒にいるのがベストだろ?それにそれなら衣食住に困らないだろうし…それでいいんじゃねえのかって俺は思ったわけ。
じゃあ、一夜は?
俺はお前らとは別れてここを出て、また元通りの生活に戻る。
何も言えなかった。一夜の言ってることが正しくて、何も反論できない。置いて行かないでと言えない。
私は二人と離れるわけにいかないし、一夜には一夜の生き方があるから引き止めることはできない。
私は、ただいなくならないで欲しい、置いて行かないで欲しいだけ。
もう会えなくならないで。私も連れていって。
だけど、そんな事言えないよ…
いつかは、とは漠然と考えてはいたが今別れを切り出されて、激しく動揺している。
一緒にいたい。でも一夜にとっては私はただ世話をしてただけで、いなくなってもいいんだね。
涙が一筋こぼれて威咲はそれを手の甲で拭った。
泣いては駄目。なのに。
「――――――っ、…」
その時何かが身体の奥で脈打った気がした。背中を電気が走り抜けたように感じた。
「?」
だがそれだけだったので気のせいか、と威咲は思った。
「多摩ちゃん話聞いて」
「何?」
威咲は一夜に言われたことを話してみた。
「いきなりそう言われて、私、なんだか苦しくなって、でも一夜を引き止めることはできないよ…なのに、苦しくてどうしようもなくて、私、どうにもならないの…」
下を向いた威咲の目が揺れる。
本当は泣き出したいのね、と多摩は思った。
「…ねえ威咲ちゃん、一夜君に置いてかれたくないのよね?本当は離れたくないのよね?」
「…、今はただ苦しいだけ。しょうがないの分かってるから」
「威咲ちゃん…」
多摩は威咲の肩にそっと手を置いた。もうこの際言ってしまおう。
「あのね?そんなに苦しいっていうことは…それはね、多分威咲ちゃんは一夜君が好きだったからじゃないかと思うの」
「え…?」
虚をつかれたような顔をする。全く自覚が無いからだ。
「違うよそんなのじゃないよ、ただ今まで一緒にいたからいなくなるのは寂しいだけで」
「じゃあなんでそんなに辛くなるの?好きだからじゃないの?」
私が一夜を好き?
「そんな…」
わからない。
「そんな風に考えたこと無いからわかんないよ、一夜のこと好きだなんて思ったこと無いし…」
「威咲ちゃん…」
じゃあなぜ苦しいの。一夜を好き?
「あ…」
その時威咲は不意に目眩を感じた。
「?大丈夫?」
だがそれは一瞬で直った。
「うん、なんでもないよ」
だが多摩は気づいた。さっき一瞬威咲の中で何かが揺らめいたことに。何かが威咲の中で拍動を始めたことに。
それは気づかない程微かだが、確かに不穏に揺らぐ。それが何なのか多摩は知っていた。
多摩は歯噛みしたい気持ちになったがこらえた。威咲の心は穏やかにさせておかなければいけない。
「威咲ちゃん、とにかく落ちついて考えましょ。あたしは一夜君に正直に言うべきだと思うわ。そうすれば最低でも連絡取り合う位できるかもよ?」
カツカツカツカツ。バタン。
「…なんだ。もう少し静かに入れよ」
「そんなことより垂華、大変よ!」
多摩は歩み寄ると声を潜めた。
「威咲ちゃんの中に拍動を感じた」
「それは…」
多摩は頷いた。
「今後は威咲ちゃんの心ができるだけ安定しているようにしなきゃならないわ。巫女がいるから魔物が出てくることは無いだろうけど、ゆっくり育っていって、いつか一気にこっちを倒そうと攻撃に転じるかも。せめてそれまで魔物が出て来ないようにしなきゃ」
「その出てきた時が勝負だな。魔物を身体から引き剥がし、殺すための」
多摩は頷いた。
「…なのに、このタイミングで一夜君がいなくなっちゃうかもしれないの。そのせいで今威咲ちゃんは精神的に不安定よ」
「一夜が出て行くって言ったのか?」
「ううん、でも威咲ちゃんにそんなこと言ったらしいのよ。考えてる、みたいに」
垂華は腕を組んだ。
「だからあたし…」
ため息混じりに言いかけてハッと口をつぐむ。
「?」
「こっちの方が参っちゃうわよね、どうすればいいのよ」
「…とりあえず様子見だろう」
マッコリうまうま…んー。旨いです!(まだ飲み終わってない。少しずつしか飲めないから)
ちょっと威咲がじれったいと思う人もいるかな…?今回もBGMは大体アートスクールでした。次回おたのしみに★




