●(3)谷川沿いの街道で
威咲の父親が殺された…村人たちはそれを聞くと様子が変で、これでは危ないと、一夜は威咲を連れて村を去った。なんとか日暮れまでに街道に着いたが…
一夜はバイト先のことを思い出していた。いつも休憩時間などは手軽なカードで遊んだりする。
威咲の顔を見た。今のところ具合が悪い様子はないので一安心だ。
外は雨が降りだしていた。雨音に気付いた威咲が言う。
「雨降ってきたね、あんなに晴れてたのに」
「だな、明日も雨なら足止めだな」
「どこまで行くの?」
「んー…鉄道のある街まで行ってそれから西の方の大きな街まで」
威咲は旅の途中でもどこかいい所があったら預けてもいい。
「そう…私村から出たことないから想像もつかないや」
「楽しみにしてな。…よし、上がりっ俺の勝ち!」
「あっ、も〜また負けた」
「さて寝るか」
卓上に投げ出されたカードをまとめてトントンと揃えて箱に入れた。
一夜がカードをしまっていると威咲がなにやらもじもじしているので一夜は半目になった。
「何やってんだ?脱ぎたいなら脱げよ」
「でも」
「お前みたいにガキみたいなやつ女として見てねえよ」
「う…」
寝る時は上着を脱がないとしわになる。一夜は先に上着を脱いで横になり壁側を向いた。
「見ないからさっさとやって電気消してくれ」
「うんわかった…」
少しして電気が消える。
「一夜、おやすみなさい」
威咲の安心したような声。
「ああ…おやすみ」
ところが前線が停滞しているのか雨は一向にやまなかった。しかも結構な強さのままで。
威咲が窓を開けて外を見ながら言った。
「もう3日。川大丈夫かな?」
「まだ3日目だろ?大丈夫だって」
一夜はそう言って気にとめなかったが、その夜事件は起きた。
雨は夜になってもやむ気配を見せず、それどころか更に強さを増してバケツをひっくり返したような雨になった。
夜中にいきなり半鐘がなった。廊下からの慌てた足音や宿の主人が大声で客たちに向かって叫んでいる声で二人は目を覚ました。
「起きて下さい!半鐘がなっています!川が増水して危険になったので山の集会所に避難して下さい!」
主人は繰返しそう叫んでいる。
「集会所?」
「避難してる人についていけばいいだろ、行くぞ」
「うん」
カンカンカンカン。外に出ると半鐘の音が耳に刺さった。
「すげー人だな…手ぇ離すなよ!?」
一夜は威咲の手を掴んだ。人の流れる方向に走る。川沿いの土手から集会所に続く一本道に人が集中していた。
威咲の手を強く握り直した時すぐそばで悲鳴が上がる。
「息子が!」
人の流れに押されて子供が川に落ちたのだ。次の瞬間威咲が一夜の手を振りほどいて川に飛び込んだ。
「!!あのバカ!」
一夜は威咲を追った。
威咲はなんとか子供を掴み手繰り寄せたが流れに勝てず流されていく。一夜は前方に木を見つけて叫んだ。
「威咲!前!木に掴まれ!」
うまく木を掴んだ。が、上がれない。一人ならともかく子供を抱いて這い上がるのは至難の技だ。
そこへさっきの母親と数人の人が駆けつけた。後ろの人に服を掴まれて流れの中の二人に手を伸ばす。
「はい、先に子供…っ」
子供を無事に救い上げた。
「お前も早く」
「うん」
その時、流れてきた流木が威咲の足に当たった。
「っ!」
急な衝撃にバランスを崩して木から手が離れてしまった。
間一髪でその手を掴み土手に引き上げると威咲は肩で息をした。
「立てるか?」
「いたっ!」
「よし、俺がおんぶしよう。とにかく早く避難しないと」
「ああ」
威咲を引き上げた背の高い男が威咲を背負い、集会所に急いだ。
そしてしんがりでようやく着いて振り返るとビシッという不気味な音がして土手の一角が崩れ、そこから濁流が街道に広がっていくのが見えた。
「間一髪だったな」
実はこの作品はプチリアルにこだわって作ってます。現実にあり得そうななさそうな、そんな感じでやってます。あり得ないんだけど、現実にあり得る要素でできてます。続きも読んでくれたら嬉しいです。