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CALL  作者: スピカ
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(23)浸食してくる不安

 翌日から威咲(いさき)のトレーニングは再開された。

 巫女としての昔からの記憶をゆっくりと少しずつ引き出していく。垂華(すいか)が目を閉じた威咲の眼前に手をかざし、集中して呟くように呪文を繰り返していく。すると威咲の脳裏、閉じた瞼の裏に途切れ途切れの映像が閃くように、あるいは断続的に、浮かんでは消える。威咲は何が見えるか言う。そういうことを延々繰り返した。

 だがまだ威咲にはその映像が何なのか全く分からなかった。

 垂華は、仕方が無いよ、威咲ちゃんは巫女ではないんだから、と言ったが威咲はそれがどういう意味か分かって胸の中に何かが落ちていくように感じた。

 以前光の存在、巫女が現れた時に、威咲というのはこの身体が過ごした時が作り上げた人格であり記憶に過ぎない、と言ったと聞いた。元々威咲という存在は無いと。

 否定したかった。私はここにいると。だがそれは表に出さずに我慢する。

 だけど、自分の存在が否定されたら、まやかしだと宣言されたら、何か(あかし)にすがりつきたいと思ってしまう、たとえ何でも。

 巫女の記憶を思い出したら、あれらが何なのか分かったら、証しになるだろうか?

 そんな思いに捕らわれてわけがわからない気がしてくる時がある。

 そんな時はお父さんのことを思い出す。あの穏やかだった日々を。私は、他の何でもない、威咲なんだと。




 一夜(いちや)は威咲が自分自身のことについて悩んでいることに当然気づいていた。だがせっかく威咲が気づかれないように、心配されないように頑張っているのでその気持ちを尊重して黙っていた。




 ベッドに仰向けに寝転がり、威咲は空間に手を伸ばして力を込めてみる。

 気持ちを集中する。なんの力があるだろう。

 何の変化も無く全く分からなかった。




 あれ以来巫女は出てこない。垂華は疲労の色が隠せなくなってきた。

「垂華君、トレーニングはしばらく休まない?」

「心配してくれたんだ?でも大丈夫、君が巫女の記憶を取り戻してその力を早く使えるようになることの方が大事だから」

 だが見た目にも明らかに消耗している。

「私なら遅れても大丈夫だから。休んだ方がいいよ、絶対」

「いや、でも」

「垂華君!」

 威咲は垂華の手を取り強く握った。そして真剣な目で見つめる。

「…」

 その目を黙って見た垂華は小さく息をつくと根負けしたように言った。

「分かった。じゃあ2日間休みにしよう。威咲ちゃんも休みなよ」

「良かった」

 ニコリとして威咲は手を離した。


 威咲が部屋を出ていった後、垂華はフラリと壁にもたれかかった。

 あの人だ。あのひとが思い浮かぶ。会いたい人、愛していた人―――――――――




「ねえ多摩(たま)ちゃん、少し聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「?いいわよ何?」

「あのね、あの…」

 言いにくそうにしていたが、思い切ったように話し出す。

「魂の記憶ってどんな感じに思い出したの?生まれ変わりなんだよね?」

 そんなことか、と多摩は少し拍子抜けした。

「あたしは…生まれた時から力は生まれつきあって、記憶もあったわ。だから、いつか仲間を探して合流して巫女を助けるんだって当たり前みたく思ってたわよ?家を出て行方をくらます時は後ろめたくてつらかったけどね…。でもそうしないと家族に危険が及んでは駄目でしょ?」

 置き手紙で“仕事を探して一人立ちしたい”と書いて置いてきたらしい。それを読んで納得するように手紙にまじないをかけて。

 威咲は口元に手を当ててうつむいた。

「私…辛いのは自分だけだと思ってた…馬鹿だ、私…」

「どうしてそんなこと聞いてきたの?」

「私…思い出せないの。垂華君の力で何か映像は見えるんだけど、それが何なのか全く分からないの。垂華君には君は巫女じゃないからって言われてしまうし、ならどうして私が巫女の記憶を見て知らないといけないの?」

「それは…」

 言いかけて、一度よく考えてから話す。

「あくまで威咲ちゃんの身体だからよ。これからも巫女の身体はあなたなんだし、巫女がどういう力を持ちどんなことをするのか、あなたは知らないといけない。それだけよ。それに、巫女に入れ替わってる間の心配も減るでしょ?怖くなくなるわよ、ね?」

 最後は上目遣いで威咲の様子をうかがった。

 威咲は両手で顔を覆った。

「私には何の力もないね」

 多摩はゾクリとした。笑顔で取り繕う。

「そんなこと…訓練次第よ。威咲ちゃんのままで巫女の力を出せるようになればそれにこしたことはないでしょ?そうなれば巫女はきっと威咲ちゃんに譲って力だけ貸してくれると思うの。巫女はそういう方よ」

「そう、…じゃあ頑張ろうかな」

 ありがとう、と威咲は言い、でも何を頑張ればいいのかわかんない、と少し笑った。大丈夫よあたしたちに任せなさい、と多摩は胸を叩いてみせた。


 笑って別れたが、威咲はそのうち巫女に完全に入れ替わって自分が消える時がくるんじゃないかという不安が水のようにヒタヒタと浸食してくるのを感じていた。





威咲は自分の正体が怖いんだと思います。垂華も…ね。誰を思うのか。

さて、今日はマッコリを買ってみました。まだ飲んだことないので少しずつ飲もうと思います。どんな味なんだろう。

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