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CALL  作者: スピカ
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(19)不敬罪

 当然か、威咲(いさき)は全く喜ばずに塞ぎ込んでしまった。

 一夜(いちや)は気晴らしに街の方へ散歩に行こうと言った。

 その日は冬らしく、曇りではないが薄い雲が全天を覆っていた。

「街に出るの久し振りだな」

「そうだね」

 威咲が少し笑った。

「今だけでも巫女とかそういうの忘れようぜ」

 たわいないことをポツポツ話し、公園のベンチに腰掛けた。

「ねえ、本当に思ってること言っていい?」

「ああ、いいぜ言えよ」

 一夜は頭の後ろで両手を組んで寄りかかっている。

「私なんだか怖い。この間も意識がなかったし、いつか巫女に完全に置き換わっちゃうんじゃないのかって…」

 やはりそれか、と答えづらい事で一夜は向き直った。

「それは俺はわからないけど、とりあえず今回は引っ込んでくれたじゃん?」

「でも、ずっと色んな夢を見るの」

 おそらく戦争のような光景やその中を歩いている光景。それに、なぜか人を殺した気がする感覚…。

「そ、か…」

 一夜は返答に困った。

「もしそれが巫女なのなら、私そんなの嫌…私、怖いひとなのかな…?」

 威咲は両手で顔を覆った。

「だけど、巫女は別人なわけだし…それにどうせお前その間意識無いだろ」

「…っ、一夜のばか…」

「なっ、泣いてんのかよ」

「もういい」

「あっ、おい威咲!」

 威咲は立ち上がると駆け出した。


 一夜は慌てて後を追った。

「待てよ威咲!」

 交差点を渡った所で一夜は誰かにぶつかってしまった。

「悪ぃ!」

 振り向きざま謝ったが腕を捕らえられてしまった。

「待て!」

「!?何――――――」

 一夜がぶつかったのは誰か偉い人の乗った馬車の一行の人だったのだ。

「ちゃんと謝っただろ!?離せよ!」

「駄目だ。お前を不敬罪で逮捕する」

「な…」


 後ろが気になって威咲が振り返ると大変なことになっていた。

 慌てて駆け戻ろうとすると一夜が威咲に向けて首を振った。そして、かえれ、と口だけを動かして伝えてきた。そしてそのまま連行されて行ってしまった。威咲はその場に立ち尽くすのみだった。




 垂華(すいか)多摩(たま)は威咲が泣きながら一人で帰ってきたので驚いた。

 しゃくりあげながら威咲が説明した。

「…で、連れていかれちゃった…っ、私、何もできなかった」

 垂華と多摩は顔を見合わせた。

「どうしようかしら…とりあえず警察に問い合わせてみましょ?」

 問い合わせてみると、釈放はできないと冷たく言われてしまった。


 威咲は部屋で泣いていた。

「どうしよう、私のせいだ…」

 どんなにくしゃくしゃになる程泣いても一夜はいない。

「あたしだって悲しいわよ」

 多摩が入ってきた。

「でも泣いてもどうにもならないわよ。しっかりしましょ」

「ごめんなさい…」




 それから3日経()った。

 威咲はどうしようもなく家の前で待っていた。

 多摩には、外にいても何も変わらないわよと言われていたが、家の中にじっとしてなんかいられなかった。


 家の前を少し行って、線路沿いに出ると絵を描いている少年がいた。

 少しぼんやりしていた威咲は、立ち止まって少年を眺めてしまっていた。すると少年がニカッと笑って声をかけてきた。

「あんた、ちょうどいいね。ヒマならこっちきてこの絵の中に入ってくんない?なんか物足りなかったんだよねー」

 我に返った威咲は慌てた。

「え!?私が?いいですそんな」

「いいからいいから」

 笑顔でズカズカ近寄ると威咲の前に立つ。

「うん、けっこういいモデルじゃん」

「モデル?私が?」

「向こう見る感じでちょっと立って」

「あのっ」

「何?」


 少年は(れん)といった。

 結局話すうちに馴れ馴れしい性格の蓮と仲良くなった。でもモデルは断った。

「確かに、威咲ってなんか悲しそうな顔してるもんな。なんかあったの?さっきもボーっとしてただろ」

「…。蓮君もここらの人じゃないよね?初めて見るもん。それにそのカバンって…」

 とたんに気まずい顔になる。

「あー、これは~…」

「家出?」

「…うん」

 しゅんとしてしまった。

「だめだよ?どこに行くつもりだったの?」

「…どこでもいいんだ。ただしばらく誰にも内緒で一人になりたくてさ。それにどこでも寝れるから」

「だめだよそんなの!寒いんだから死んじゃうよ!一回うちにおいで?」

 威咲は蓮を家に連れて帰った。




 荷物はスケッチブックとかばん一つだった。母親と喧嘩して家出したらしい。スケッチブックには風景や花などが描かれていた。

「蓮君の家はどこなの?」

「街の宿屋」

「そのまま継いだらいいじゃない。絵を飾ったりして」

「蓮君どうして家出なんてしたの?」

 母親に絵などやめてしまえと言われて出てきてしまったという。前から母親は絵ばかり描いていると嘆いていたらしい。

「親子喧嘩か…でも程々で帰った方がいいわよ?」

「分かってる。けどもう少し、帰りたくないんだ。そうだ、もし良かったらここに置いてくれませんか?」

「それは構わないけど…あんたけっこう図々しいわね」

 多摩は垂華を見た。

「俺も構わないよ。ただし、一週間で家に帰れよ。親御さんが心配してる」

「…はい」


 蓮を居間に入れた。

「絵を見せて」

「なかなか上手ね。色は塗るの?」

「水彩だけだけど」

 蓮がスケッチブックのページをめくる。

 多摩もすぐ仲良くなった。蓮は17歳だ。




悪政ですねー。一夜は無事に帰れるんでしょうか?蓮も登場です。こいつ脇役だけどかわいー奴なんです。愛してあげてください。

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