(18)lost
「どうして何も思い出さない?実は思い出していないふりを、演技してないか?じゃなきゃ、どうして…」
垂華がつらそうに机に両手をついた。
「…っ、」
威咲は何も言えなかった。
「…、あの、」
必ず思い出さなければならないのだろうか?
「垂華君…?どうしてそんなに…。…!?」
隣に立った威咲は突然垂華に腕を掴まれた。
「?垂華君?」
「頼むから出てきてくれよ…っ!」
「?垂華君私…」
もう嫌だ。強くそう思った瞬間、その時またあの声がした。
――――――で…。こないで…―――――――
強く訴えてくるような声音。
威咲は瞠目して両耳を塞いだ。そこへバタバタという足音が聞こえてきた。ドクンと心臓が大きく拍動する。威咲の意識は途絶えた。
倒れる威咲の身体から閃光が迸り、空間全体を揺るがす衝撃が伝わった。
廊下にいた二人はすぐドアを開け部屋に飛び込んできたが腕で目を覆った。
「な、なんだよこれ…」
目を開けられない。瞼の上からでも視界が白い。
徐々に光が収まっていき、目を開けると威咲は真っ直ぐ立っていた。だがその表情はいつもののほほんとしたものではなく、冷たく研ぎ澄まされた鋭さが漂っている。
「…威咲?」
「威咲?ああ、この身体の名前ね…」
「!」
「巫女」
威咲はすっと垂華の方に腕を伸ばした。
次の瞬間垂華が壁に飛ばされ、尚も力で押し付けられた。
「何すんのよ!」
多摩が刀を抜いて割って入った。
「それ以上やったら切るわよ!?」
威咲と多摩は睨み合ったが、やがて威咲は一度目を伏せると腕を下ろし、垂華は圧力から解放されて咳き込んだ。
「ごほっ巫女…お待ちしていました…」
「…出てくる気などなかった。だが状況が変わってしまった。お前たちのせいだ。私はこの身体に入った魔物の気を相殺しながら眠り続けていたのに、お前たちがこの純粋な心に曇りを生じさせたせいで魔物が目を覚ました。おかげで私も目覚めねばならなかった」
「…おい、さっきから別人みたいに喋ってるけどお前威咲だろ…?」
威咲が一夜の方を見た。
「私は威咲ではない。威咲という存在は、この身体が過ごした時が作り上げた記憶に過ぎない。元々威咲などという存在はない」
「そんな…」
声音も違っていて気高く冷たい感じを受ける。
「…私がこの身体に生を受けた時、まださまよっていた魔物の魂が後を追うようにこの身体に宿った。殺されないためだろう。この身ほど安全な場所はないからな。それでこの身体は2つの魂を宿すことになった。…お前たちが威咲を望むなら私はまた眠らせてもらう。ただし魔物を起こすなよ」
「巫女」
厳かに告げると威咲はカクリとその場にくずおれた。
「威咲!」
一夜が抱き起こす。
「大丈夫よ気を失ってるだけだわ。ベッドに寝かせてあげて」
部屋に運んで威咲のベッドに寝かせてやると一夜は垂華に聞いた。
「威咲という存在は無いって…」
「その通り、威咲という魂は無い。巫女の言っていた通りだよ」
「本当に別人なのか?」
「ああ。完全に巫女が目覚めると威咲は消える」
一夜は眠る威咲を見た。まだ少しあどけなさが残る寝顔。
「不思議に思わなかった?威咲ちゃんの過度の純粋さ…疑いや妬みの心を知らない。よってそこから発生する負の感情を一切持つことが無い―――――それは心に術がかけられていてそういう負の感情に繋がる一切の感情を持たないようにされていたからなのさ」
「…本当かよ…今まで半信半疑だった…」
その時威咲が目を覚ました。
垂華を見て身を硬くした。多摩が双方の顔を見る。
「さっきはごめん、もうあんなことしないから」
もういつもの垂華だ。
「…。あれ、そういえばなんで私…」
垂華が息をついて答える。
「巫女が目覚めたんだよ。彼女が出ている間意識がなかったんだよ」
前書きのあらすじを今話からやめます。読んで下さいということで。
今回はとっても大事な回です。この話がないと成り立ちません。巫女が言う「威咲という存在は~」の台詞、最重要ですので覚えてて下さいね!




