(17)追いかけっこ
父親を殺された威咲を一夜は自分の放浪生活に連れていくと決め村を出た。色々ありつつ今の街でしばらく住むことに。威咲が妙な夢を見始める。知らないのに知っている声…。そんなある日威咲を狙って襲われ、犯人はなんと違う街にいるはずの垂華だった。威咲は光の巫女だという。垂華たちの用意した邸に移ったら、垂華の仲間の多摩が一夜を追い回すことになり―――――
次の日も次の日も追いかけっこだった。
威咲は垂華の質問に答えたりしていた。
それが終わって疲れて庭に面した廊下で休んでいると、二人がバタバタとやってきた。
「威咲!お前からなんか言っといてくれ!」
「も~、待ってったら」
多摩は威咲の前で足を止めた。
「仲良いね」
「そうかしら、全然相手になって貰えないけど」
言いながら多摩は威咲を見た。
「ねえ、こんなこと聞くのもあれだけど…」
「何?」
「威咲ちゃんは一夜君のこと好きなの?」
「えっ?あの、私は…別に…」
威咲は口元に指を当てて俯いた。
「そう?なら気にすることないわね。はあー、また一夜君探しにいこ。あたしは諦めないわよ」
多摩を見送って威咲は胸がチリチリするのをまた感じた。
少しして、庭まで逃げる一夜に多摩が追いついて、一夜も観念したのか多摩にぶら下がられるままにし、やがて何か会話していた。
垂華が威咲に何をしているのかというと、向かい合って座り、威咲は目を閉じ、その額に手をかざして記憶や精神の奥深くに働きかけるというものだった。
それで威咲は暗闇の中に何かを思い出しそうになるのだが、いつも何かが見える寸前に何かが意識の中ではぜて暗闇に戻った。
垂華は眉をひそめて言った。
「どうやら誰かが細工したらしいな。威咲ちゃんの正体を知っている誰かが、それらが目覚めないように精神に鍵…封じのまじないを施したんだろう。そうとしか考えられない。糸口がわからないように巧妙に施されているからすぐにわからなかった」
威咲はほっとした。自分が自分ではなくなるのではないかという不安を抱えていた。
垂華は立って窓の外を向いて言った。
「まず先に封じを解かないと始まらないな…」
何か苛立ちを隠しているように見えた。が、次ににこりと笑って振り向いて言った。
「という訳だから明日からもよろしくね」
気のせいかと威咲は思った。
――――――一夜をもうじき多摩ちゃんに取られちゃう
その漠然とした思いが胸に渦巻いていた。考えると何かを半分くらいもっていかれる気がした。ポッカリ穴があく気がした。それはなんだか悲しい、寂しいと思った。
それはきっと心細いからだと威咲は思った。身よりが無いから。ずっと一夜に頼っていたけれど、もうやめないといけないと思った。
威咲に施されているはずの封じは実に巧妙で解法がわからず、垂華は仕方ないので根気よく魂の記憶に働きかけることにした。
垂華がまじないを唱えると威咲は脳裏にスライドのように色々な情景が浮かんで消えた。
「これは、何?」
「君の記憶だよ。いわば白昼夢を見ている状態なのさ。その内きっとそれらがなんなのか思い出す」
確かに色々見えるが、威咲は半信半疑で頷いた。
一夜は威咲が少し塞ぎ込んでいるように感じていた。自分に対して少し距離を取っているようにも。威咲からは何の相談もしてこなかった。
「威咲、いつも垂華と何してんだ?」
「別に…大したことじゃないよ」
「内緒かよ」
「…。魂の記憶に呼びかけて思い出すんだって」
俯いてボソボソ言った。こいつはつらくても隠そうとするから。だからちゃんと見てねえと駄目なんだよな。
「で?何か思い出したりするのか?」
「ううん、でも垂華君は本当に思い出してほしいみたい」
「ふーん。無理するなよ嫌な時は断れよ?」
「うん」
一夜にはああ言ったものの、威咲は色々な夢を見るようになっていた。垂華にだけ話した。
「きっといつかそれらが繋がって一気に思い出すよ」
何なのかわからない夢の情景は威咲を悩ませた。相変わらず何か思い出しそうになると突然映像がダウンすることは垂華には黙っていた。そのことが威咲の悩みにプラスしていた。
一夜は一日中殆ど多摩といた。
部屋で一人で威咲はベッドの上で膝を抱えていた。
私、一人だ…。
「もうやだ…」
膝に顔をうずめて呟く。本当に。どうしてお父さんは死んでしまったんだろう。でなければ。
「こんなことなかったのに…」
胸に重いものが沈むみたいだ。
お父さん、私、どうしたらいいですか――――――――?
最近、coldplayのライブをYouTubeで見るのにはまっています⭐なんかリラックスできるのです!寝る前に(というか子守唄)聴きながら話を考えています。 話の方はなんか不穏な感じですね。次回お楽しみに!BGMはアートスクールのhellodarknessmydearfriendでした。




