(16)ババ抜き
父親を何物かに殺された威咲を一夜は自分の放浪生活に連れていくと決め村を出た。何ヵ所か渡るうちに互いの距離が近づいた。
今の街に落ち着けた頃から威咲は不思議な声の夢を見始める。それが何か分からぬまま、初めて見た雪にはしゃいだ威咲。そんなある日威咲を狙って襲われた。黒ずくめの二人、片方はなんと垂華だった。こっちにこいと言われ…
そこは郊外の一軒家で、古いがけっこう大きな家だった。持ち主が随分いないので拝借したそうだ。(余談だが掃除に三日かけたと言っていた。住みかが整ったから迎えに来たのだと言っていた。)
生活費は架空の労働者を作ってその口座に振り込まれていると言った。違法なことはしてないだろ?と笑って言った。
女の方は多摩という。年は16で背は威咲より3、4センチ低い。
「ただ普通に生活してくれ。色々調べないといけないからそれには付き合ってね」
それから更に詳しい説明があった。
威咲には光の他に魔物も入り込んでいると。
「つまり威咲ちゃんが魔物だとも言えるが、光でもあるので殺すわけにはいかない。
魔物は人の負の感情を餌に増殖する。そして禍気を撒き散らし更に負の感情を生み出させていく。
近年続いた紛争で魔物たちは目覚め始めている。大元の魂が目覚めれば一斉に蜂起して人間に襲いかかってくるはずだ。
そうなれば魔物にとりつかれた人間同士が殺し合いを繰り広げるだろう。それに禍気にあてられた人々が引きずり込まれていくんだ。
我々はそれを防ぐため光の存在のみを覚醒させてどうにかして魔物を威咲ちゃんから引き離して再度封印し直すべくその術を探している」
「どうやって調べるんだ?」
「安心して。危険なことはしないよ」
それからは本当に普通に暮らした。ただ一つの問題を除いては。
一夜が多摩を転ばないよう助けた時からずっと追い回されているのだ。
床の水滴で滑った多摩の腕をとってやっただけだったが、それから毎日追いかけっこの日々だ。
「どうにか巻いたか…?」
慎重に周りを見回し一息ついたら。
「一夜君みっけ!」
飛びついてきて抱きつかれてしまう。そんな日々だ。
バタバタバタ…
今日も相変わらずで、逃げてきた一夜は部屋に逃げ込むと、そこにいた威咲に両手を合わせた。
「あいつが来たらいないって言っといて」
そして布をかぶってテーブルの陰に隠れた。そこに多摩が駆け込んできた。
「ここに一夜君来なかった?」
「ううん、いないよ」
「そう…も~なんであんなに逃げるのかしら。あたしも小休止しよ」
そう言って椅子に腰掛けた。
「あ」
見つかってしまった。
「もう!隠れたりしないでよ!」
一夜はまた多摩に捕まってしまった。
「んなこと言っても」
ウザネを吐く。
「なんでそんなに逃げるの?」
「答えは簡単、邪魔だからだよ」
「ひどい…」
一気にしょげた多摩。
「あたし、誰にも女の子扱いされたことないから…」
「あの、一夜もそんなに逃げなくてもいいんじゃないの?」
威咲が心配そうに言った。一夜は決まり悪そうだ。
「一夜君あたしのこと嫌いなの?」
「…いや、嫌いではない…よ」
苦虫を噛むように言った。なんか俺がいじめたみたいじゃねーかよ。
「そう?じゃあいいわよね?」
「え」
多摩はまた一夜の腕に抱きついた。
「♪」
「~~お前最初はこんなヤツだと思わなかったのに」
「あら?だってもう友達なんだし」
「良かったね」
ほっとしたように威咲が言った。
毎日追いかけっこしているのでここのところ威咲と一夜は殆ど一緒にいない。
威咲はなんだか胸がチリチリするような感覚を初めて味わっていた。
夜、部屋で寝る前にゲームをしようと一夜が威咲を誘った。
「最近お前とゲームしてなかったし」
ババ抜きをしながら久しぶりにゆっくり話した。
だがゲームを終えてカードを切っていると威咲が多摩の話題を出した。
「一夜、もう少し多摩ちゃんに優しくしてあげたら?逃げ過ぎだと思う」
一夜の顔が引きつった。
「抱きつかれるから困るんだよ」
カードをしまうとうなだれた。
「でも…」
下を向いて威咲が口ごもった。
「―――――」
一夜は席を立つと威咲の頭を後ろからロックした。
「な、何?」
「別に…なんとなく」
「離して?」
一夜はロックを外すと腕を前に突き出して威咲の肩に頭を乗せた。
「わかってるけど、ヘタに優しくしない方がいいこともあんの」
「?」
一夜は離れると自分の布団に寝転んだ。
「だって疲れるもん」
「逃げる方が疲れないかな?」
「嫌だ。俺は逃げる」
威咲は言うのを諦めた。
今日はBGMはアートスクールのFLORAでした⭐名盤⭐1、5、8、9、14曲目が特に好きなのです。
ハイ、ババ抜きの二人はどういう仲なんでしょうか。気になる人は次回も待っててくださいね!




