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CALL  作者: スピカ
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(161)ミサとあたたかな祈り

 明けて9月19日、日曜の朝になった。

「ふぁ~あ…っと…ねえ今日本当にミサに行くの?」

「行こうよ。約束だもん」

多摩(たま)だけ留守番で寝直すか?」

「みんな行くなら行くわよぉ」

「まったく、仕方ないやつだな」

 ロイが言うと多摩は誤魔化すように伸びをした。

「ほとんど寝てないけど、ま、しょうがないわね」

「帰ってきてから寝ればいいさ」

「そうするわ」

 フォローしたのは垂華(すいか)だ。

 多摩じゃなくても正直まだ眠いが、楽しみにしていたので、とにかくミサである。


 威咲(いさき)は初めてだ。

 新しい建物の方は、古い方より少しだけ大きかった。


「やあ、来たね」

 入口付近で来場者に挨拶していたマルコがニコニコ話し掛けてくる。

「せっかくなので」

「いつまでいるんだい?」

「水曜日に去ります」

「そうか。旅の目的は果たせたかい?」

「そうですね、無事に」

 このエリアをクリアする目処(めど)はたったので(おおむ)ねそれで合っているだろう。マルコとは深い仲ではないのでそれでいい。

「そうだ、ついでにお土産(みやげ)をあげよう。といっても物じゃなくて、また祈りを(ささ)げてあげよう。ミサが終わったらちょっと残っておいで」

「いいんですか?じゃあ待ってますね」



 勝手が分からないので、最後列の長椅子に座る。

 ミサが始まると、どこからか三毛猫が出てきて、威咲の足にまとわりついてそのまま陣取ったので、威咲は(ひざ)に抱き上げた。すると大人しく膝上で丸くなった。

 ()でるとゴロゴロ言って、首を回して威咲の手を()め始めた。

 ―――――――なんか、まただ。不思議な、なんかあったかい感じ…なんでかな?不思議だな…

 ひとしきり舐めてまた丸くなる。ミサの間中そうして大人しくしていた。

 威咲は膝上の存在になぜか何か感じていた。それが何なのかは分からない、けど、あったかい何か。


「では最後に讃美歌(さんびか)を歌います。ご起立お願いします」

 知らないので歌えないが威咲たちも立つ。

 ところが周りと一緒にロイも歌い出したので驚いた。

「ロイは違う街で聖歌隊にいたことがあるのよ」

 多摩がコソッと耳打ちしてくれ、威咲は(うなず)いた。

 そっか。だからあんなピアノも弾けるんだ。


 猫はまだ威咲の足元にいる。尻尾(しっぽ)で絡んでいる。

 不思議なあたたかさに包まれながら聴いた讃美歌は、まばらながらもとても綺麗だった。


「では皆さん今日もありがとうございました、また来週もお越し下さい」

 歌でミサは終わりで、威咲は猫を抱き上げてみんなで前にいるマルコの所に行った。

「おっミーニャ、抱っこされてご機嫌かな?」

「可愛いですね、ずっと膝で大人しくしてました」

「おやおや。こいつは人懐(ひとなつ)っこいからこの教会の人気者で、マスコットなんだよ。な?ミーニャ」

「にゃー」

「返事するのねえ」

「ふふ、いいこだろ。

ちょっと物を取ってくるから、ここで待っててくれ。すぐ来るよ」


 取ってきたのは聖水と聖油。

「さあ、始めるよ?」

 (ひたい)(ほお)に聖油を()る。今日は5人みんなにしてくれた。

 マルコは祈りの言葉を詠唱しながら聖水を順にふりかけてくれた。繰返される(たび)、またあのあたたかい感覚…

「―――――――さあ、終わりだ。少しは力になったかな?」

「え?」

「旅の安全と、二人の未来の幸せのために」

「あ…」

 一瞬ドキッとした。

「ついでに式も挙げてやりたいよ、でも頼まれてないからね、ああ残念!

今の祈りは、邪気払いと安全祈願なんだよ?どうか皆さんこれからもお元気でね?」

「ありがとうございます。でもなぜこんなにしてくれるんですか?」

「なぁに、教会は本来(ほんらい)(ほどこ)す所だよ?それにあんな出逢いは滅多(めった)に無いし」

 笑って言った。

「本当に、幸せになってね」

 握手した手を離すのがなぜか威咲は名残惜(なごりお)しく感じた。

「本当にありがとう、マルコさんのことはきっと絶対忘れません」

 別な意味でも、きっと忘れない。貴方(あなた)を見てお父さんを思い出した事――――――――


 マルコは笑顔で見送ってくれた。



 不思議なあたたかさを感じて、なぜかそれが身体を楽にしてくれた事は、なんとなく黙っていた。それでお父さんを思い出した事を言えなくて。

 神官だったお父さん…央円(おうえん)。確かに死んで、死体もちゃんと見たし、そんな訳無いって分かってるけど、なんでかな…

 どうして?助けてくれてるのはお父さんな気がして。

 死んだのは分かってるの。でも…


 そこで威咲はハッとした。

 前に多摩ちゃんが言った言葉。

―――――死が近くなるとそういうのを信じるようになるのよ…


 ラウルさんは(がん)だった。もう長くはなくて。

 …私も?死を意識してるから、そういう不思議な、本当なら有り得ない事を考えるの?

 …そっか…私、死ぬって思ってるんだ…

 自分でも気づかなかった。助かる、絶対死なないっていつも自分で言うから。

 でも本当は、心の底では死ぬって思ってるんだ…

 今、はっきり分かって良かったよ…





威咲の感じるあたたかさは一体?「水曜日に去ります」てのはART-SCHOOLの人気曲FADE TO BLACKに「水曜日に 天使は去った 天使は去った 僕を残して」とゆー歌詞があるからさっ

残りはあと7話です。最後までお付き合いを!


次作のDream islandはタイトル直訳夢の島。たしか埋め立て地の名前であったよね。それを使ったの。チマチマ書いてます、楽しみにしててね★

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