●(160)マルコ神父
アイルは多分気付いた。私が、もう後戻り出来ない所まで来てるって事…後はもう、力を出し切って、最後にシンハに灼いてもらうことにしか希みが無いって…
何も言わないでくれたのは、肯定してくれたんだよね?だってそれしか無いんだもん…
ダルさも(一時的だが)取れ、また封印を再開できた。だが無理はしない。一晩2ヶ所に留める。でないと身体が持ちそうにない。
そして3日やったら後はまた日曜日まで待つ。仕方ないのだ。
幸い9月で、気候は過ごしやすいことも体力の温存には都合が良かった。
「このペースならあと2ヶ月足らずで終われるわね」
「威咲の体調がひどく悪化しなければ、だがな」
多摩が言って、釘を刺したのはロイだ。多摩はひとつ息をついた。
「あと、そうねえ…37、8回かしら?」
封印の回数。
「そのくらいなら、多分なんとかなりそう。…間に合うと思う」
最後をシンハに託すまで。
「そう?ならいいけど…」
多摩は心配そうに眉を寄せた。
その時だ。誰かの足音がしたが早いか、入り口の戸が開けられた。
「!」
神官達は直前まで気配に気付けなかった事に少し驚いた。
その誰かは入り口で目を丸くして。
「おや、驚いた。こんな所にまさか人がいるとは」
「あ…」
現地の人だ。優しそうで少し安心する。
「すいません勝手に入ってて。俺たちちょっとこの辺旅してて、お金も無いし丁度いいからここに泊まってたんです」
この言い訳は苦しいか?
「ああ、構わないよ、だけど鍵も壊れてて無用心じゃないか?」
良かった。
「あ、それは大丈夫です」
「そうかい?月に1度ね、見に来るんだよ。動物が住み着いたりしてないかとか、どこか壊れてないかとかね。
ここは使わなくなって長いけど廃墟じゃあないからね」
「オジサンはここの持ち主?」
「私は神父さ。今は新しい教会で仕事してるがここの管理人もしてるんだよ」
カーキ色のジャンパーで普通の人だと思った。
「今日は神父の仕事は私は休みだからね。こんな所で良ければ自由に寝泊まりしていいよ。柔らかいベッドは無いけど。
いつまでいるんだい?」
「用が済んだら去ります」
「そうか。壊しさえしなければ好きにしてね。暖炉使うなら薪持ってこようか?」
「ううん使わないわ。ありがとオジサン」
「そうかい」
ニコニコしていた神父はそこで威咲を見て動きを止めた。
「君は…」
「?あの」
「…驚いた…君には何か特別なオーラを感じるよ」
みんなドキッとした。そんな指摘は初めてだったから。
「私がですか?」
「ああ…」
そこで神父は真面目な声になる。
「だが、必ずしもいい未来が来るとは限らないようだ」
「!…あの、私…」
だが威咲は口ごもる。神父は威咲の前に膝をついて微笑んだ。
「…こちらからお願いするよ、どうか私に祈りを捧げさせてくれないか?」
神父の、真摯で深く落ち着いたグリーンの瞳。
「いいわよ」
多摩が腕組みをして言った。
「ありがとう。じゃあ君も一緒に」
一夜を指して言う。
「え、俺?」
「そうだ。君も同じオーラを感じる。君たちは…きっとずっと一緒にいる運命なんだね」
「二人は結婚するのよ?まだ式はしてないけど」
「おい勝手に」
「!そうか、なら正式な祈りではないが私から祝福をしておこう。君たち名前は?」
「…一夜」
「威咲」
神父は頷いてまた微笑んだ。十字を切り、
「神よ、威咲と一夜に祝福あれ」
それから威咲の手をとり瞑目して祈りを捧げた。
「…これでよし…きっと、貴女に幸運の訪れることを祈ります」
不思議…なんだか温かくなったような気がする。
「神父さん、お名前聞いていいですか?」
「私は、マルコ」
威咲の目を見て立ち上がり、またニコリとして見せた。
マルコはその後もにこやかに話しながら点検を速やかに済ませて帰っていった。
まだ滞在するなら是非ミサに来てと誘われたので次の日曜は行くと約束をした。
「なんか変わった人だったわねぇ」
「うん、けどなんか、本当に幸運がついたような気がする」
「そお?」
「うん」
なんか、お父さんのこと思い出しちゃった。懐かしいな…それに、なんか少し身体が楽になったような気がして。気のせいかな?
そんな所もお父さんを思い出す。私が見てたお父さんは不思議な力なんか使わなかったけど。なんでかな?お父さん…
9月18日、土曜深夜のうちにアイルが来た。
「ご機嫌よう、元気にしていたか?」
「うん。お陰さまで何ともないよ」
「仕事が終わって、連絡してくる奴もいない時間になるのを待って来たよ」
「お疲れ様。明日でもいいのよ?」
多摩が言った。
「日曜とはいえもし誰か訪ねて来たりしたら、いない言い訳をするのも面倒くさいからな。土曜深夜の方がいいのは私の都合だ」
「そ。ならいいわ」
「じゃあ、早速やるぞ。威咲、おいで」
微かに柔らかな笑みを向けてきて、威咲はドキッとした。
「あ、うん。お願いします」
いつもひねくれた様子しか見ないから少し意外だった。
でもやっぱり綺麗だな。金髪、青い目に端正な顔立ち。
「アイル、そうやって笑ってると天使みたいだよ?」
「!…バカ言え、たまたまこの容姿に生まれただけだ」
「うん、綺麗だから、いつもそうして?」
「私の性分じゃない。じゃあやるぞ」
固く断ったアイルだが、その表情は少しだけ照れ隠しみたいだった。
その10分程の間、誰も何も言わなかったが、自然でただ静謐な時間だった。
「…さて、今日のメンテナンスは終了だ。これでまたやれるよ」
「…ありがとう」
ゆっくりと目を開いた威咲が確かめるように呼吸する。
「うん、また身体が軽くなった」
「それは良かったな」
「アイル、封印済みの地に異常は?」
ロイが問う。
「無しだ、心配無い」
「そうか」
「それと、これだ」
アイルがポケットからアメを3つ出して威咲に渡した。
「私の気を込めてあるから後でなめればいい」
「わぁ、ありがとう嬉しい!」
それから少し雑談してからアイルは帰っていった。
深夜1時。
「じゃあ、これから行こうか」
ロイが言う。実はアイルから今夜来るとテレパシーが来てから(昼間だった)、来る前に見回りなどを済ませておいたのだ。
何もしなくても、身の内に魔物本体がいるので時間とともに威咲は消耗していく。
なら補充したらすぐにやってしまった方がいいから。
四人を見送って一夜は一人、月明かりが青く照らす祭壇を見上げた。
像は無いが壁に描かれた絵が無言で見下ろす。
本当に何事も無く終われるのか?
威咲は魔物がまた出てこようとしてる。状況、悪くないか?
一夜は胸前で手を組み、祈った。
…威咲を失いたくない。神様が本当にいるなら、あいつを救って欲しい。俺はあいつじゃないと多分…
あいつを失ったら、俺はきっとオッサンみたいになるから。
祈る一夜、いいですね~☆
オッサンてのは一夜の血の繋がらない叔父で、オッサンは若い頃婚約者だった恋人を亡くして、今も独身者なのです…
さて、callはなんと‼あと残りは8部分!となりました!うおぉっ☆絶対見てくりっ!




