(154)君がくれた時間
多摩の誕生日は8月7日です★
夜、封印は予定通りつつがなく終わった。
これで東の国境線も終わり、あと東側の残りは山間部だけ。宿を隣村に変えてここにあと10日程いてやる予定だ。
そしてまたあの日がやってきた。
「今年もきたわよ~、記念すべきあたしの誕生日!」
「またきてしまったか…」
「む?」
わざと額を押さえる垂華。
「おめでとう多摩ちゃんっ」
パチパチ手を叩いた威咲。
「ありがと。19になったあたしも宜しくね?」
今日は封印は休みだ。(数日ごとに1日~数日の休みを入れて回復日にしている)
「前々から言ってた通り、プレゼントはハグがいいわ!」
そう言って3人と順に長めなハグをしていった。
「こんなことでいいの?」
「今はこれが1番したかったの。だって3人に祝って貰えるのはきっと今年で終わりだし、威咲ちゃんはともかくあとの2人には理由つけないと出来ないし~」
「それもそっか」
「うーん、もっかい一夜君に抱きついちゃえっ」
「うわ、お前には蓮がいるだろー?」
「これくらいいいでしょ?」
胸とか気にしない抱きつき方だ。
「貧乳」
一夜がボソッと小さく呟いた。
「あらなにか言った?」
「別に」
多摩が威咲を見た。
「大差無いわよ?まあ微妙な差はあるけど」
「おい言うなよ!?」
「?」
威咲が小首を傾げた。
威咲も小さい方だが無いわけでもない。見たことは無くても大体分かっている。
「でも一夜君も大きい方が好き?」
「げ、バカ、言うなって」
威咲が気づいて頬を膨らませた。
「ごめんねおっきくなくて!」
「~~違うから!多摩に言ったんだよ」
「同じだよっ、一夜がそんな風に思ってたなんて知らなかった」
「…俺は気にしねえし…」
困りかけて、垂華と多摩が興味津々で見ていることに気づいて威咲に知らす。目線で示すと威咲も気づきお開きになった。
「いや、大事な話だったわよ?」
「だな」
頷き合う二人に一夜は半目になった。
繰り返すラナの夢は、声だけの夢から変わり、最期の時の夢ばかり執拗に繰り返すようになった。
あの、魔物に殺される夢…
なぜ?その意味を考えても欲しい答えなんか無くて。
ラナさんは一体何を私に訴えたいの?
その答えの予感は悪いものしか浮かばない。
そんなはず無い。違うよ。きっとラナさんの意識の欠片が、私の不安な気持ちと混ざって、あんな夢ばかり見るんだよ…
予知夢じゃないよ…ね?
宿の部屋で聞いてみた。
「ねえ一夜」
「何?」
「当たり前だけど…私が存在した時間、一夜も過ごしてきたんだよね。…同じ時間、過ごしてきたんだよね」
「ああ…そうだな」
「出会ってから今まで。それは消えないよね?」
「…威咲?」
一夜が威咲を見つめた。
一夜は威咲の言葉の真意を探って。威咲は、その一夜のまっすぐな視線に胸が震えそうになる。
「もし、私と出会ってなかったら、一夜はその時間で別なことしてたよね」
「そうだろうけど後悔してねーよ。お前に逢えて良かったと思ってるし」
「本当に?色々あって、3年も経つんだよ?一夜も普通じゃなくなっちゃったし」
「…あのな」
一夜は威咲に向き直って言った。
「もしお前に逢わなかったら、俺きっと何にも変われなかったよ?トゥコも避けたままだろうし、もし親父に出くわしても結局何もしなかっただろうからな。
お前が無理矢理とりもって、そのおかげで前に進めたんだ…恥ずかしいけど本当で…すげー感謝してるからさ」
「一夜…」
「もうお前抜きじゃ俺の時間は成り立ってねーんだよ」
「そんな風に思ってくれてありがとう。でもね、やっぱり乗り越えたのは一夜自身なんだよ?
私は好きなようにしてただけ」
「威咲。自分が消えるかもとか、気にしないでずっと側にいろよ。
もし自分が消えたら俺の時間が無駄、とか変な気遣いしてるだろ」
「…。してないもん」
「嘘つけ。顔にバレたって書いてるよ」
一夜が威咲の頬を人差し指でフニッと突いた。
「…、じゃあ、まだ一緒にいていい?」
「当たり前だろ」
ごめん一夜、私騙してるね。
確かに一夜に言い当てられた通りだよ?
でも本当に消える気がするの。一夜に言えなくて。
一夜のシャツを掴んでその胸に額をつけた。
心臓が、ドキドキしてる…
「ずっとこうしてたいよ、一夜が…好き…」
一夜が指先で軽く頭を撫でてくれて。
これから仮眠をとったらまた、封印に行く。
私に残された時間はあとどれくらい?あと何回一夜とこうしていられる?
仮眠中、またラナさんの最期の夢を見た。見る夢はそればかりで。
眠るたび繰り返す悪夢。ラナさんからの警告?
一夜と威咲のやりとりを書くのは楽しい★まだプラトニックラブですし~ふふ
さて、威咲は死ぬ夢を眠るたび見る…と。予知夢じゃないか?と、段々むしばまれていくのかな…?とゆーのは読んでのお楽しみなのだ★V




