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CALL  作者: スピカ
162/190

(147)相似

巫女(シンハ)に「兄に会う」と予言され、やってきたツェベルメ村。確かに(みつる)らしい人に出会い、「家で話そう」と招いてくれたが…

 家に着くと3歳くらいの女の子が犬と遊んでいた。

「パパお帰りなさい!」

「ただいまティナ」

 ヤンが頭を()でる。

「お客さんだからこんにちはして」

「こんにちはー」

 目が(みつる)…ヤンと似ている。

「こんにちは」

 一夜(いちや)は軽く笑んでみせた。


 平屋の赤い屋根の家だ。納屋(なや)があり、庭で鶏と犬が放し飼いされている。猫はいつも納屋で寝ているそうだ。古いバンが一台とめてあった。


 居間で話し出す。

「僕、実は記憶喪失でね…もしかしたら君が言う満さんが僕なのかな」

「あ…いえ。すみません、よく考えたら少し違ってました。遠目で見た感じはよく似てたのでつい、呼んでしまって…それで家まで(まね)いて(もら)って、なんか申し訳ないです」

「そう、ですか…」

 ヤンは安心した顔で残念そうに肩をすくめた。

「ここまでの道中、短いけどずっとドキドキしてたんですよ。自分が誰か分かるんじゃないかって」

「残念でしたね」

「あなたの言う満さんって?生き別れでもしたんですか?」

「満は…昔、一緒に過ごしたことがあったんですよ。それだけなんだけど、久しぶりにしかもこんな所で会うなんて…ってこっちも驚いたんすよ。

まあ勘違いだったけど」

 一夜は肩の力を抜いた。

 多摩(たま)威咲(いさき)は庭でティナと遊んでいる。ここにいるのは垂華(すいか)と一夜とヤンの3人だ。

 そこにお茶を持ってヤンの奥さんが来た。

「あ、妻のミシェルです」

 会釈(えしゃく)してくるその人はウェーブの赤毛を長くしていた。

「どうも」

 二人も礼を返した。

「ところで皆さんはどこに行く途中だったんですか?」

「それは…」

 一夜と垂華は顔を見合わせる。

「観光なんですよ」

「えっ、こんな所に?」

「ええ、珍しいですけどね。物好きの集まりで」

 この話が出ると当然の流れで寝る場所を聞かれた。

「ここには宿屋なんか無いから、良かったらうちに泊まったらいいよな?」

「そうね。居間で良ければ部屋貸すわよ?」

 垂華が答えた。

「いいんですか?ありがたい、実は昨日も野宿だったから少し辟易(へきえき)してたんですよ」

 これは嘘だ。街から今日空間移動して来た。

 が一夜も話を合わせた。

「帰りもだからな…」



 ヤンは農家の婿(むこ)として暮らしている。さりげなく話をすると、記憶喪失で名前も分からないのを義父が新しく名前を付けてくれ戸籍を新しく取得したんだそうだ。



 しばらく話してからヤンは席を立った。

「じゃあ(まき)割りしなきゃならないから僕は席を外すけど、ゆっくりしてて下さい」

「あ、手伝います」

「そう?じゃ頼むよ」



「そうそう、上手いね」

バキャッ

 薪が割れて小さく飛ぶ。

「街でも薪割りするの?」

「俺は田舎(いなか)出身ですよ」

 今は垂華の番だ。

「ならここは任せていいかな、ミシェルを手伝いたいから」

「分かりました。任せて下さい」

 ミシェルのお腹は大きかった。近々二人目が産まれる。



 ヤンが去った後垂華が声を落として聞いた。

「一夜、あの人で間違いないのか?」

「ああ…」

 間違いなく満だ。でも。

「なんで違ったって言った?」

「…」

バキャッ  カン、バキャッ

「…なんか、違うなって感じて」

 もう彼は満であって満ではない。ヤンという別人だ。

「雰囲気も…記憶無いからだろうけどなんか、違うし…明るくなったっていうか…

元々の性格は暗い訳じゃなかったけどさ、じゃあ俺のせいだったからかって思って…だったら過去が無くて幸せな今の方がいいじゃんって感じて…」

バキャッ

「そうか。一夜がそれでいいなら俺は何も言わないよ」

 それから立て続けに薪を割り言った。

「はい次一夜の番。頭スッキリするよ」




 薪割りを終えて片していると白髪混じりの人が来た。

「ミシェルの父です」

「あ、どうも」

 この人が義父か。会釈し合う。

「ヤンさんに偶然拾って貰っちゃって、なんかすいません」

「いやいやいいよいいよ。観光なんだって?」

「はい」

「なら村の実生活を体験出来た方がいいよな。良かったら夕飯前に畑見せてやるからついてきな」

 せっかくなので誘われるままついて行くことにする。

「ティナは中でお手伝いしてなさい」

「はぁい」

 素直(すなお)に言う事を聞いて入っていった。

 威咲と多摩も一緒に畑に行く。



「ヤンに満と声をかけたらしいね」

 ドキッとしたが気付かれないよう笑ってごまかす。

「ああ、聞いたんですね。そうなんすよ、知り合いに似てたから。でも違って」

「一夜君、満さんとはどういう人だね?」

「えっ…えと、仕事で一緒になった時期があって。俺あちこち渡って歩いてるから」

 咄嗟(とっさ)の嘘は少し苦しかったか?

「どこで一緒だったんだ?」

「それは」

 この人、俺が満の関係者だと思ってる。

「…トゥコで」

 真顔にならないように。

「そうか…彼には家族はいたかい?」

「さあ、いたんじゃないすか?いつもポケットにロケット入れてましたし」

 これも嘘だ。少し罪悪感が()く。

「そう、か…」

 先頭を歩くユーゴの表情は分からない。

「いや、ね、少しその満さんが気になってね。変な事聞いて悪かったね」

「いえ、いいっす。ヤンさんじゃないですから」

 首肯(しゅこう)してユーゴは話題を変える。

「ヤンはねえ、記憶喪失だけどいい男だよ。真面目でよく働くし気が()くし、優しくてね。家族にして良かったと思ってる。勿体(もったい)ないくらいさ。

ミシェルも大事にしてくれるし、おかげでこの先不安は無いよ」

「それは良かったですね」

 満…根っこの性格は変わらないんだな。明るくなって良かったな。

 今の家族はいい人たちみたいだし、この人たちと一緒なら、もう何も心配は無いな。

 …俺は顔が似てなくて本当に良かった…似てたら気付かれて、今の暮らしをまた壊してしまっただろうから。本当に良かった…





揺れ自体は微かでも、ゴゴゴ…と地鳴り?がある度に、CD DVD 小説メモのたぐい を(合わせたら結構な量)気にする…CD重い(笑)

ロケットとゆーのは、パカッと開く写真のついたペンダントのことだよ☆♪

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