●(144)髪は風に遊ばせて
背中の中程までに伸びた威咲の髪の毛先を、多摩は器用にパラパラと髪を落としながらすいていった。見ている一夜が言う。
「ほんとすげーな、プロ並みじゃね?」
「床屋で修行したこともあるわよ?」
得意気だ。
「多摩は巫女の髪を切る役になりたくていつも最新のカット技術を仕入れるのに余念が無いもんな」
垂華がバラす。
「へー」
「~~遠見でね!」
照れる多摩、クスクス威咲が笑う。
「いつもすごいなって感心してるよ?」
「ま、まあ威咲ちゃんが喜ぶならいいのよ、そのためなんだから」
照れつつもテキパキと仕上げた。
「さ、出ー来た」
「ありがと」
長さは変えないで薄くしたので、ボリュームが減って軽い雰囲気になった。威咲が首の後ろで結ぼうとすると。
「あっ、髪結ぶのちょっと待って。お願い今日はそのまま下ろしてて?風になびいたり、動いて揺れたりするのを眺めさせて?」
「変な願い」
一夜が言うと多摩は腕を組んだ。
「真面目な願いよ」
不思議そうな威咲。
「いつもお風呂上がりとかそうしてるよ?」
「昼間に見たいのよ」
「ふ、じゃあたまには俺も多摩に乗ろうかな。俺も今日はそのままでいて欲しい」
垂華もか。だが一夜にしてみても結い直す時ぐらいしか目にしないので内心実はちょっと賛成だったりする。
「一夜もそう思うだろ?」
垂華が振った。
「別にどうでも」
一夜は呆れたフリをした。それよりも。
たまに多摩が威咲と一緒に風呂に入ることが思い出されてしまった。妬いてるのか俺は?いやそれは無い。
「じゃあ、今日はこのままでいようかな。見たがってくれるならこれからもたまにそうするね」
少し恥ずかしそうに威咲は言った。
「ありがとー!威咲ちゃん好きよ!」
多摩が威咲に抱きついて、一夜はフウ、と小さく息をついた。
垂華がそれを見てクスリと笑ったが一瞬なので誰も気付かなかった。
多摩は肩幅に足を開いて立ち、両手を胸前で合わせ精神を静めていた。
夜明け前、誰もいない小さな公園だ。退治を終え一旦宿の部屋に帰った後、一休みして出てきた。
これを終えたら帰って寝る。
今は星の運行から大地の気が高まっている期間なので、ここ数日間多摩は毎朝ここで気を補っていた。
「…よし」
集中をとき楽にする。
今多摩は垂華と威咲両方に気を与えている。まだ余裕はあるが補える時は補っておいた方がいい。じゃないと退治に支障を出す恐れがある。そんなことはまず自分が許さない。
アイルはバックアップ要員だし、ロイは封印済みの地全てを背負っている。脱落なんて出来ないのだ。
「余裕があるなんて嘘ね…それならこんな事する必要無いもの」
本当は、意地でも最後までやるため。威咲ちゃんを守らなきゃならないから。
「親友としてね。さ、小鳥が鳴き始める前にかーえろっと」
呟いて踵を返した。
イラスト一夜がかっこよく描けた★V
多摩と威咲はお風呂一緒かー。しかもよく抱きつくし、女子同士キャピつけるし、一夜、じ・つ・は、妬いてるだろ~?★




