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CALL  作者: スピカ
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●(143)white lily smells sweet

この回自分で好きです

タイトルの白百合(しらゆり)はカサブランカかな☆

 その夜の封印で、威咲(いさき)は背筋がゾクリとしたことに()う。

 それは封印前に見回りで各自バラけて歩き回っている時だった。魔物がもしいたら気配を逃すまいと精神を研ぎ澄ましていると、不意に軽い目眩(めまい)を感じその場に(ひざ)をついた。

 この感じは。嫌な予感がした刹那、脳裏、意識の底にこちらをギラギラと(にら)みつけてくる強い視線を感じた。

 これは、憎悪だ。激しく燃えるような…

 背筋が寒くなって、寒くないのに身体の芯から震えが込み上げてきた。これは恐怖だ。

 嫌。静まれ。

 私の力じゃ相殺(そうさい)が精一杯だった。やっぱりシンハじゃないと。

 でも、駄目だよ…!

 威咲はなんとか打ち勝とうと集中した。魔物の方も更に憎悪をぶつけてくる。

 一夜(いちや)…!


 その瞬間、閉じた(まぶた)の裏が真っ白に染まった。そして魔物の気がスーッと引いていった。

「シンハ?」

 (かす)かに震える両腕を抱きながら名前がこぼれた。

――――――心配無い、私がいる

 頭に直接、そう聞こえた。



 皆には黙っておこう。なんとなくそう思う。だって、もうあと少しなんだから。あと南東部をやれば終わるんだから。それまで持ちこたえてみせる。

 シンハ、きっと大丈夫だよね…?





 夜明け前、まだ暗いうち。今日の分の封印を予定通り終えて宿の部屋に戻った。

 威咲は寝ている一夜を眺めた。横向きに壁を向いて寝ている。

 いいかな?ちょっとだけ。

 そっとブランケットをめくり一夜のベッドにもぐり込んで、隣に自分も寝るとその背中に(ひたい)を押し当てるようにした。

 一夜はそれで目が覚め、静かに振り向いた。

「威咲?」

「あ、ごめんなさい起こしたね」

 一夜がじっと威咲を見た。

「あの…一緒に寝ていい?」

「…いいぜ」

 少しよけてまた背中を向けた。温かさが伝わる。


「…」

 振り向けば威咲に触れられる。だけどこのまま背中に感じる(ぬく)もりだけでいい。こいつはまだ…


 しんとした部屋で互いの気配だけがある。

 本当は、もう威咲を抱いてしまいたい。今振り向けば触れられる。

 …だけど、それよりも壊したくないから…守りたいから…ギリギリだな…

 こいつにプロポーズした時、もう()くしたくないと思った。それだけだった。ただそれだけなんだよ。この心の温かさを失くさないために。

 もう思い出すだけじゃ嫌で、触れられるところにありたいと思って。威咲に、触れていたいと――――――


 私はもしかしたらもうあと少ししか存在出来ないかも知れない。一夜に触れていたいよ。このままでずっと。


「ねえ、一夜?」

「…なんだよ」

「……ううん、やっぱりいいや」

 ねえ、一夜はもし私が消えてもずっと私を想ってくれる?

 …ううん、それじゃ駄目だよね。

 …でも…嫌だよ…そんなのやだよ…

 でも…。

 ねえ、お願い、ただ忘れないでいて?それだけでいいよ。

 威咲は一夜に気付かれないように唇を噛んだ。


 一夜は背中の感触が(かす)かに震えているような気がして身を起こした。

「あ…っ」

 威咲は目に涙を()めていた。

挿絵(By みてみん)

「…なんで泣くんだよ」

「なんでもないよ」

 手の甲で(ぬぐ)う。

「何も無くて泣かないだろ」

「…、ほんとになんでもないよ」

 シーツに顔を埋めるようにする。

「…。言いたくないんだな、お前意地っ張りだもんな」

 こう言い出したら絶対言わないだろ。

「お前の中の魔物の本体とか、本当に倒して消し去れんのかとか怖いよな。

だけどそれは俺も同じだよ。お前を失いたくないから」

 威咲の目から涙がこぼれた。

「…っ、一夜…」

 シーツを握りしめて泣き出した。

「やっぱりそれだな」

「!」

 丸まっていた身体を抱きしめられる。

「朝までこのままでいいよな?」

「…うん」

 目の前に一夜の綺麗な鎖骨(さこつ)があって、少し顔を上げればそこには一夜の顔があるはずで。

 あったかいものが身体の奥から(あふ)れてくるみたい。

 シャツの胸元を小さく(つか)んでそっと一夜を見上げると、目が合った後更に抱き寄せられた。顔が見えないように。

 微かな一夜の匂い。

「少しは落ち着いたか?」

「うん」

 威咲は目を閉じた。


 本当に何も無いのか?何も無かったら泣くわけない。…まさかだけど、また魔物が何かしてきたとか。だけどそれならあいつらも知ってそうだしな。

 嫌な予感は静かにゆっくりと押し寄せてくる…


 一夜…どうなってもきっと私を忘れないで。

 …この気持ち、前にもあった。あれはそう、手首を切った後、風が気持ちいい窓辺で一夜に言ったんだっけ。その時は、ああ、って答えてくれたっけ。

 今もそうだよね?そう信じてていいよね?


 網戸越しの空気に甘いユリの花の香りが混じっている。それらがこの瞬間の心を落ち着かせていく。

 私がいなくなったら、なんて嫌だもん。

 でもそれはまだ分からない。可能性は0じゃない。だから一夜には言えない。言えないままでも何か感づかれたりするかな…

 ううん、もう泣いたら駄目だよね。

 何も気付かないで。勝手だけど許して。その時まで甘えさせて。

 …ズルいね、ひどいよね私。付き合う前は、消えるかも知れないのに一夜をもてあそんだらいけないって思ったくせに。

 ごめんね、許して――――――――





(しゅう)も終わったわねー」

 多摩(たま)が気の抜けた言い方をした。

「もう夏も佳境だしな」

「そーねっ。夏といえば来月はあたしの誕生日よ?」

「また来てしまったな」

 ハァ、とわざとらしく垂華(すいか)が息をついた。

「む」

「でもまた一緒に過ごせるね」

「ええ。もう解散してるかまだかって気になってはいたのよ。だから嬉しいわ」

「この夏で最後だな」

「封印は当然頑張るとして、毎日を楽しんで過ごしましょ」

「そうだね」

「じゃあここでまた力をためる為に3日間休みにしよう」

 垂華が腕の(すじ)を伸ばしながら言った。






封印の旅も佳境ね。頑張る。挿絵が抱きしめてるとこじゃなくて残念でしたー

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