●(134)きっかけ
それは、何気なく言っただけのことがきっかけだった。
多摩と威咲が二人で街歩きに行って、時間を決めて待ち合わせることにして一夜と垂華は二人で公園の芝生に寝転んでいた。
「垂華、お前らには力があっていいよな。俺何も出来ないけど荷物になってないか?」
本当に何気ない一言に過ぎなかったのに、垂華はそれまでのリラックスした様子から一転して真剣な表情で一夜を見つめた。
「一夜…実は俺も威咲ちゃんが好きだよ」
「!垂華、お前」
一夜が起き上がり垂華も起き上がった。
「もし一夜が離れるなら貰ってしまうよ?」
見透かすように見てくる。
「俺…は、そんなこと」
「そんなつもりで言ったんじゃない?じゃあ深層心理が意識せずに口をついて出たのかな。
さっきのセリフだと、自分だけ力が使えないから威咲ちゃんの恋人でいる自信を失くしかけてますって意味があるように聞こえたよ?
……一夜さあ、大丈夫だよ。けっして邪魔なんかじゃない。それに退治も直に終わるしね」
突然の垂華の告白に動揺していると自分で分かった。
前から垂華は威咲に何らかの感情を抱いていると思っていたがそれはラナのことだと一旦は納得していた。そして元々シンハに想いを寄せているんじゃないかと最近は思っていたのに。
考えないようにしてきた恐れていた答えを聞かされて、また、自分でも気付いていなかった気持ちを言い当てられた気がして、一夜の中で何かが揺らぎ出す。
――――――――白昼夢のように、不意に意識が別次元みたくなる――――――
威咲が急にスイッチが切れたみたいにその場に崩れた。
「威咲ちゃん!?」
多摩の声が遠くなった。
そこは閑静な通りで、ちょうど人通りも無かった。
威咲の意識を飲もうとしてきた魔物。
意識だけの世界で威咲は1対1で向き合っていた。
暗闇の中、禍々しい赤い目が爛々(らんらん)と光る。
恐ろしいが、威咲は怯まずに言い放つ。
「あなたのせいで私はお母さんを殺してしまった…私はあなたを許さない。絶対この手で倒してみせるから!」
魔物が怒って襲いかかってくる。それは意識の中なので、魔物の力が威咲の意識を飲み込み覆い尽くして威咲を消そうとしてくる。
威咲も使える力で応戦しようとする。意識だけで、魔物を灼く光を発現させる。
威咲の内部で、意識の中で魔物を灼き消してしまえばいいんだ。これは魔物が仕掛けてきた直接対決なんだよ。これに勝ったら、私の中から魔物が消えるの?――――――――
一夜は不意に身体の中から熱くなった気がして胸を押さえた。
「垂華、巫女の力が」
「!…どういうことだ」
「多分威咲が力を使ってる。けどこれじゃいつもの比じゃない。何かあったんじゃないのか…?」
熱くないのに熱くて、意識が焼ききれそうになる――――――――
「一夜!!」
多摩に垂華のテレパシーが届いた。
―――――一夜が倒れた!威咲ちゃんに何かあったんじゃないのか!?
多摩は返事どころではなく、こちらも気を失ったように倒れた威咲を揺さぶっていた。
「威咲ちゃん!?威咲ちゃん!!…くっ」
多摩は威咲を抱きかかえ精神を集中する。
「何かあったなんてもんじゃないわよ」
意識を威咲のそれに同一化させて、威咲の見ているものと対峙した。
「やっぱり魔物だったわね。終わりが近づいたと悟って反撃に出たってわけ?」
魔物の本体は多摩の力では消滅させきることは出来ない。そして威咲の出せる力でも五分五分が精一杯のようだ。
ならあたしの力を上乗せすれば、この場はやりきれるはず。
全霊をかけて押さえ込みにかかる。
――――――巫女、力を貸して。そして威咲ちゃん、目を覚ますのよ!この精神の中から脱して!
威咲が目をゆっくりと開けた。
「威咲ちゃん…今回はあたしたちの勝ちよ」
「あれ…さっきまでのは…」
「魔物に精神の内部に引き込まれたのよ。そこで意識で戦っていたのよ?
…巫女の身体に同居すれば殺されることは無いと思ったんでしょうけど、それがアダになったわね。
確かにそれなら殺されないでしょうけど、巫女の力の中にいて、好きにすることなんて絶対に出来ないのよ。
そして今は殺せないけど、その内必ず引き剥がして退治してやる」
抑え目に言っているが多摩が本気の闘志を静めているのが見てとれた。
「一夜、本当にごめんなさい」
落ち合った場所で威咲が謝った。
「私、ここで魔物に勝てばいいんだと思って本当に全力を出したの…」
シュンとしている。
「結果的にもそれが正しかったんだからしょうがねえだろ。それに俺なら全然何ともねーし」
「そうよ?あの時威咲ちゃんが全力を出してなかったら今頃威咲ちゃんじゃなくなってたかも知れないんだから」
「一夜にはアイルの術がかかってるからそんなに心配しないでいいんだよ。アイルのことは信頼してるだろ?」
「うん…でもこれからは気をつける」
「でもね威咲ちゃん、何が何でも魔物に負けたら駄目なんだからね?」
「うん」
垂華が微笑んで威咲の前髪をクシャリとした。
「さてと。じゃあ少し早いけど夕飯食べに行こうか。
二人共もう疲れてるから今日は封印は休みにしよう」
「そうね」
垂華の提案に乗ることにして歩き出す。
うぉ…暑…い…でももっと暑くなるんだよね…
さてイラストは左が垂華で右が一夜。ひさしぶりに垂華描いた~★ウキウキ★
皆さんは垂華と一夜どっちが好き??(今日は一夜後ろ姿だけど 顔バレ とか見てくれ)
スピカは~垂華も好きだけどやっぱり一夜かな~ニャハ




