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CALL  作者: スピカ
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(132)50余年ごしの再会

今回の主役は多摩ちゃんです

 シンハの決定を聞いた垂華(すいか)多摩(たま)は特に驚きもしなかった。ただ(うなず)いただけだった。

「分かった」

「良かったわね。あ、でも巫女が表面上消えても威咲(いさき)ちゃんは大事だからね?一夜(いちや)君と二人、仲良しのままだからね?」




 夜食の買い物で威咲と二人になって多摩は言った。

「さっきは垂華の前だから黙ってたけど、前と同じね」

「ラナさんの事?」

「ええ。あの時も終わったら譲る約束をして…」

「ごめんね」

「威咲ちゃんが謝る必要は無いのよ?巫女は…優しいから…」

「多摩ちゃんもシンハが好きなんだね」

「!…バレちゃしょうがないわね。…必ず幸せになるのよ?」

「うん…ありがとう」






 沿岸を順調に南下して、封印の旅は南西部の主要都市チタに入った。6月になり昼間はもうけっこう陽射(ひざ)しが強い。

 威咲の髪は背中の真ん中辺りまで伸びた。21になってポニーテールはもうやめて首の後ろで結んでいる。

 一夜は結局リタで髪を切っていつもの髪型に戻してしまったので威咲はずっと残念がっていた。

「床屋代もケチればいいのに」

 そう言って口を(とが)らせると一夜は

「絶対伸ばしませんねえ」

と返していた。


 チタの宿を拠点にして、1週間くらいかけて周辺を片付ける。

 夜封印するので昼間はのんびり出来る。威咲と多摩は特に何かするでもなく通りを歩いていた。

 オープンテラスのカフェを眺めた時多摩が足を止めた。そして懐かしそうに言った。

「あの人あたしの知り合いだわ」

「どの人?」

「あの白髪にベレー帽の、クリーム色の上着の」

「あ…前世の?」

「ええ。グリエルっていってあたしの5つ下の幼馴染みだったの。

50年以上ぶりだけど多分間違いないわ…あいつちっさい頃は俺の後よく追いかけてきて…すげー可愛かったんだよ」

「ぷ、多摩ちゃん男口調になってるよ?」

「えっ、あ、あー、これはそう、ちょっと昔に帰っちゃって」

「なら話かけてみようよ」

「え、いいわよだって今のあたしは別人だから分かんないわけだし」

「駄目だよ?せっかく会えたんだから話さなきゃ」

「うーん…」

「誰かなんて分かんなくてもいいじゃない、逃しちゃ駄目だよ」

「威咲ちゃんあたし話してみるわ」

「うんっ」


 二人で近づいて多摩が声をかけた。

「おじさんマフィン美味しそうね」

「?ああ、ここのは安いのにうまいんだ」

相席(あいせき)してもいいかしら?」

「どうぞ。こんな可愛い女の子達とお茶できるなんて光栄だよ。マフィンあと1つあるから二人で半分こしてお食べ」

「わあ、いいの?ありがとう!」

 いただきます、と二人で食べる。レモンピール入りで上にシナモンと砂糖が振りかけてあるシンプルで優しい味だった。

「ん、確かに美味しいわよ?」

「それは良かった」

「おじさんその袋なに?」

 ビニール袋にパンの耳。

「これか。今から広場の(はと)に餌をやりに行くんだよ」

「わあ、いいな、あたしも行っていい?餌やってみたい」

勿論(もちろん)いいよ。でも時間大丈夫かい?」

「夕方までぶらつく予定だったからいいわ」

「そうか。じゃあ行こうか」


 カフェからさほど離れていない広場の(すみ)でおじさんがベンチに腰かけるとそれだけでもう鳩が集まってきた。

「すごいわね」

「覚えてるんだね」

「ほら、お食べ」

 優しく声をかけながら餌をやると鳩がベンチやおじさんの(ひざ)に乗ってくる。

「おじさん、あたし多摩っていうのよ」

「多摩?私はグリエルだよ」

 やっぱりそうだった…声かけて良かったね。

「多摩か…」

 グリエルがしみじみ語り出した。

「昔、近所のお兄ちゃんの名前が同じ多摩だったなあ。私とよく遊んでくれて、大好きだったんだが…

私が10歳になる前にどこかに行ってしまってね。結局帰って来なかったんだ。その後私はチタに引っ越してしまったから本当に帰らなかったかどうか知らないままなんだが」

「そうなの…」

 鳩が餌を催促し、グリエルはまた餌を千切る。

「不思議だなぁ、そういえば多摩ちゃんはあの多摩兄ちゃんになんだか似てる気がするよ。兄ちゃんも元気いっぱいで遠慮無しみたいな話し方をする人だった…!」

「おじさん!?」

 話し途中、顔を(ゆが)め体が(かし)ぐグリエル。

「う…く」

「おじさん…グリエル!ちょっと大丈夫!?どっか悪いの!?」

「大…丈夫…いつものだから…持病だよ、たまに痛むんだ」

「何の病気なんですか?」

(がん)だよ…ははっ…」

「癌…」

 痛むなんて…

「大丈夫?病院行く?」

「いや、いい…少しすれば収まるから」

 ポケットから薬を出して飲んだ。

「私はもう長くないと…下の子に子供が産まれるんだ…どうにかその孫をあやしてやるんだ…」

「グリエル」

 多摩は隣に座り背中をさすってやった。

 威咲には分かった。その時多摩は治癒力を使ったと。



 少しすると顔色が回復したグリエルが言った。

「ありがとう、おかげで楽になったよ」

「マフィンのお礼よ」

 グリエルが少し笑った。鳩がまた膝や肩に飛び乗ってくる。

「残り少なくなってしまった人生の楽しみなんだ、この鳩達に餌をやるのは」

「じきにもう1つ増えるわね。元気でいなきゃ」

「そのつもりさ…なんだか今日は体調がいいみたいだな。君達に会えたからかもね」

「グリエル冗談」

 威咲は微笑(ほほえ)む。

「なんだか…本当に不思議な感覚だ。多摩ちゃんを見てると兄ちゃんが隣にいるみたいな気がしてくるんだ」

「…」

「どうか気を悪くしないでおくれ?不思議だね懐かしいなんて。きっと名前が同じせいだね」

「気にしてないわ。むしろ(うれ)しいわよグリエルそう思ってくれて」


 それから残りの餌をやる間、3人で会話を楽しんだ。

 でも時間はあっという間に過ぎて。

 不自然にならないように、もうお別れしないとならない。

「じゃあ、ありがとグリエル。元気でいるのよ?」

 多摩はためらわずハグした。グリエルは驚いたようだったが(こた)えていた。

 そして離れた時、一抹(いちまつ)の寂しさがよぎる。でも、気付いてないわよね?

「多摩ちゃん威咲ちゃん、今日の事はいい思い出になったよ。一生忘れないからね」

「あたしもよグリエル」

「さようなら」

 気付いてない、のよね…



 宿への帰り道。

「威咲ちゃんありがとね。思い切って話かけて良かったわ」

「多摩ちゃんもグリエルさんも、あれで良かったんだよね」

「…あたしが治癒力使ったの気付いた?」

「うん」

「軽く使ったわ。あれで孫と遊ぶくらいまでは生きられるはずよ。…本当は自然に逆らっては駄目なんだけど、あれくらい許されるわよね…そうしてしまったの」

 少し声を詰まらせたが(こら)えている。

「あれで良かったんだよ」

「うん…」

「ねえ今日の夜食、さっきのカフェのマフィンにしない?私もう1つ食べたいかも」

「!そうね、あたしもそれがいいわ」

 帰りに夜食を買っていく約束をしていたのだ。






最近腹がへってしょうがない…食べてしまうがしょうがない…だって腹へる!

500gram増えた!でもしょうがない!あぁ…

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