(120)むきだしの心
3日経った。小雨模様で、行くのは明日になる。
そう思わなかった訳じゃないけど本当にあんな生活してたんだな。
冬は寒いだろう。毎年目にするそういう人の凍死の記事。新聞の隅に小さく数行で。その中に入らずにきたのは運が良かったのか。
あまり考えなかったあの人のことが頭にある妙な感じ。
この先またオッサンはあいつと付き合うことになり、そしたら俺もそれなりに接点ができるのか。直接じゃなくても間接的には。
そうなるとオッサンが板挟みになるのかな。面倒で気が重い。
でも今まで通りにしてれば大丈夫かな。オッサンも分かってるんだし考える程重荷にはならないかな。
そんなことばかり考えていた。
次の日は暖かい晴れで、一夜はゆっくり公園に向かった。
そしてまた父親とこないだのベンチに座る。
「ちゃんと考えといたよな?」
「ああ…一夜、俺はな、やっぱり…行方不明のままでいいよ」
「え?」
少し沈黙がよぎった。
「…なんで…」
「よく考えたよ。今までのこと、これからのこと。
それでやっぱり俺はこのままでいいって思った」
こないだの言い方が悪かったのか?
「死ねばいいって言ったこと気にしたのか?」
「そうじゃない。ありのままの気持ちだよ」
あんなに悩んだことが呆気なく違い、虚を突かれたようになり逆の心理が湧いてしまう。
「あんたが、…母さんが死んだのは俺にも責任があるんだ。
…俺は…小さい頃からあの家に馴染めずに浮いてた。ある程度の年からは家に帰らないでほっつき歩いて…散々心配かけてた。それで疲れて早く死んだんだきっと」
なんでこんなこと言ってるんだろう。どうせ付き合う気なんて無いのに。
春海は物凄く傷ついた顔をした。
「母さんを死なせたのはきっと俺なんだ」
春海は少し絶句していたがポツリと言った。
「…一夜が産まれたことは…俺が産んでくれって言ったんだ」
「…っ!そのせいで傷つく家族とか考えなかったのかよ!?堕ろせって言うだろ普通!?なんで産ませんだよっ、そのせいで俺がどんな気持ちだったか…考えたことあんのかよ!」
「…初めて妊娠したって聞いた時はうろたえたよ。だけどな、俺はお前に産まれてきて欲しかったんだよ。顔が見てみたかった」
「それだけで産まれたのかよ、後先も考えずに」
微かに一夜の声が震えた。
「一夜、俺はお前が産まれたことは後悔してない。喜んだんだ。幸せに感じたんだ、本当に…
だからそれだけは信じて欲しい」
「俺は…」
「俺のとった行動が元でそんなに家庭が壊れてたとは知らなかった…いや、本当は予想できてた…怖くて逃げたままで…
何も知らずにいたんだな…家に帰らないでいることが俺なりのけじめで…それで責任をとっている…つもりでいたよ…
俺の大事な人は皆死んだ。後は一夜しか残ってないな」
「…何言ってんだよまだ伸夫がいるだろ。…ああそうだ、オッサンはクチナから避難して今はトゥコの実家にいるよ。クチナにも隣国の攻撃があって危なくなったんだ…クチナの安全が確認できるまでそっちだから」
「…わかった」
「…本当に行方不明のままでいいのか?」
「ああそうだ。この公園で知り合った仲間もいるし一人じゃないから」
「俺に遠慮してるんじゃないだろうな」
「いや、本心だ。結局戸籍を取り戻すといつかは金子の家に謝りに行かなきゃならないだろうから…それが出来ない意気地無しなんだよ」
「…そうか」
「それよりオッサンって伸夫のことなのか?」
「自分でそう呼べって言ったんだ」
「あいつらしいな」
春海が少し笑んだ。
「…。…オッサンに今日のこと伝えとくから。この場所もな」
一夜は立ち上がる。
「もう帰るのか?」
「ああ」
「また来るか?」
「いや、もう来ないよ。せいぜい達者で暮らせよ」
「そうか…元気でな。あ、それと一夜!」
「なんだよ」
「俺はお前に会えて良かった。幸せになれよ?」
「…じゃーな」
わざと面倒そうに一夜は言った。
それで話を終わりにし、帰る。
罵りの言葉はいくつも浮かんだ。けどそれらは自分に言うも同然なんだって分かってる。だから押し殺した。
本当は罵ったらキリ無い。けど気が済むまで罵ったって自分の心が晴れる訳じゃない。俺の罪も消えないんだ。
今までボンヤリ思い描くだけだった親父が現実そこにいて、そうすると膨れていた今までの思いが呆気なくただの一人の人になって。小さくなったっていうか…
一夜は目を細めてため息をついた。
なんで今この瞬間に、こんなに威咲に触れたいんだろう――――――――
帰って部屋で威咲と話す。
「お父さんとの話どうだった?」
「わかんなくなった…もう訳わかんねーよ、親父への気持ちも、」
過去への思いも。
「ただ、憎いのは変わらない。でも憎むだけじゃ駄目なんだろ。だけど許してはやらない…許すとあの家族に悪いからな」
「一夜…もしかして自分を責めてるの?」
お父さんは確かに始まりの原因を作った。だけどその後家族に迷惑をかけたのは自分だって。
だからお父さんばかり責められないんだね。
「…あいつは、行方不明のままでいるってさ。そうしたいんだと」
「そう、本人がそう言うなら仕方ないね」
「…なんかさ、ただの人なんだよな。ずっと憎んでたのが実際に見ると普通にただの人だった。
どこまで憎んでいいのかわかんなくなったんだ…」
「…一夜、今日はよく頑張ったね。嫌がってた事も乗り越えたし」
威咲がニッコリ笑って一夜の頭を撫でた。
「あのね、私一夜がもしかしてお父さんと喧嘩しちゃわないかって心配してたの。だからよく出来ました」
されるままにする一夜が小さく舌打ちをした。強がりみたいに見える。
「これでもう後悔しないで済むんじゃないかな?」
今日春海に言ったことは今までの一部の吐露だった。
一夜は小さな声で言った。
「少しだけど抱えてたこと吐けて楽になったかもな」
「良かった」
威咲は笑ってみせた。
威咲は一夜の5コ下で、一夜は身長(165㎝)とちょっと童顔なのが悩みだよ★
威咲は一夜が心配で仕方ないの。どうにかしてあげたいのです!★
暑くなってきた…ので、今年も!水ブロ始めました!イェイ
湯でなくて、水シャワーだけ使うの。最初は「はわわわわわわ」ってなったけど、去年より早くすぐ適応できたぜ!ま、これも修行~
(本当の所はフロ上がりに汗かきたくないだけ)




