●(119)初めての会話
バークスの広場で偶然発見した春海(家族を捨てて消えた一夜の父)…威咲がお節介にも、とりもって一夜に会いに行くことを勧めた。
会いに行く。それだけのことがこんなに重くのしかかる。
威咲に教えられた所に行く。
威咲も来ると言ったが一夜は断った。威咲は頑張ってと言って送り出してくれた。
一番端のテント小屋が春海の家。
少し立ち止まって気持ちを落ち着けてから呼びかける。
「おい、親父いるか?」
「…一夜?」
入り口が開いて春海が顔を出す。
一夜はグッと言葉を飲み込み静かに言った。
「少し話をしに来た。これからのことで」
春海の目が一瞬大きくなってすぐに暗い表情に変わる。
「そうか…ここじゃ話しづらいから場所を変えてもいいか?」
「ああ」
春海が選んだのは公園で一番目立たない所にあるベンチだった。並んで座る。
「お前怒ってるんだろう。俺のこと許せないよな。
安心しな俺はトゥコに戻る気は無いから」
春らしくなってきた日射しのおかげでそれ程寒くはないが…
「冬はどうしてたんだよ。寒いだろ」
「色々集めて冬を越したよ。だけどあんまり寒いから死ぬかと思ったけどな」
「いっそ死んでれば良かったのに」
「!」
「本当はあんたのこと親父なんて呼びたくないけど名前で呼ぶのも嫌だからな」
「…」
「今日は勿論一緒に暮らそうなんて言いに来たんじゃない。だけどよく考えて、多分これが一番いいだろうって策を持ってきた」
春海は少し青ざめていた。
「…あんたの行方不明届は取り消してやるよ」
「一夜、それは」
「もう誰もいないよ。それに金子の家にもそんな義理無いだろ」
「だがな、そうすると税金も」
「行方不明だった間の分はかからないんだよ。そりゃ取り消してからはかかるけどな」
春海は安心したようだ。その様子を見て一夜も緊張が和らぐ。
「届取り消したら住所持てるだろ?だからそしたら、あんたは好きな場所で住所を持ってもらう。
トゥコの土地は俺が使わせてもらう。そしたらあんたはどっか就職すればいい。そうすれば税金も自分で払えるし、っていうか自分で生活していけるだろ?
就職するまでは手伝ってやるよ。…そうすれば後は気兼ね無く縁切っていられる。…それがあんたのためにもいいんだよ」
「…一夜…、ありがとう、本当にすまなかった…!」
「…本当にな。だけど…それは俺よりあの家族に言うべきなんだよ」
それは俺も親父ばかり責められない、バカな俺のせいなことも多い。
一夜は奥歯を噛んだ。
「静たちには悪かった。何も知らずに俺は、お前は許してくれないよな」
「ああ、一生許せねーよ。でも許すとか許せないの問題じゃないから」
許して欲しいんだろうか?
だから嫌だったんだ、話すとこうなりそうで。
情が湧いて来ないように。俺にとっては初めて会う、憎み続けてきた奴。
立ち上がって言う。
「それでさっき言った話だけど、次来るまでにどこで生きてくか考えて決めとけよ?俺今日はもう帰るから。
次は3日後位に来る。雨なら次の日な」
「あ、一夜」
「何だよ」
「あ、いや…本当にすまんな、ありがとう」
「…別にいいよ、じゃあな」
ずっと後ろ姿を見られているのは分かったが、振り返らずその場を後にした。
台所では夕飯の支度を威咲がしている。他の3人は居間でラジオを流して休んでいた。
「一夜君なんか元気無いわよ何かあった?」
多摩が腕組みで聞いてくる。
「なんもねーよ。気にすんな」
「一夜、何かあるなら相談乗るぞ?」
垂華が目をきらめかせた。
「げ、本当に何もねーから」
「一夜のくせに秘密かな?」
「おいまさか人の心読んだりすんなよ?」
「残念だけどそれは無理、テレパシーしか出来ないのよ」
「さあ一夜、遠慮せずに」
少しニヤついてるし。
「おい面白がるな!別に悩みとかねーし」
「ふーん」
つまらなそうにしている。
「一夜君何でも気軽に話してね?」
多摩は今回はふざけてなかった。
兎に角誉められたい――――その欲求が確固としてあると自認するスピカ…
でも誉めて欲しい事を誉めて貰うって、無いよね?いつも虚しさと諦めを抱いて、密かに生きてくのさ…(ひゅるり~)
今月は数人の方が全部見てくれた?みたいで、めちゃ喜びまちた★ありがとうございます★




