(117)19の頃聞いたこと
一夜は屋敷の近所をゆっくり歩きながら思い出していた。19の頃初めてオッサンに会った時のことを――――――――
俺は緊張しながらドアチャイムを鳴らした。
少ししてドアが開き、初めて見る男が顔を覗かせる。
「?どちら様?」
「あの、金子伸夫さんですか?」
「ああ、そうだが?――――――!一夜か!?」
俺は頷いた。男はパッと笑顔になり嬉しそうに俺を招き入れた。
「よく来たな!まあ入れよ」
暖かい部屋の空気と旨そうな料理の匂い。それがオッサンの第一印象だった。
「一夜お前あれから姿を消したっていうから心配してたんだぞ?ずっと…。
元気そうで良かったよ。こんなに大きくなって」
頭を無造作に撫でられた。
「残りしか無いけどスープ飲めよ。パンもあるぜ。晩飯まだだよな?」
スープは旨かった。
「どうだ、旨いだろ。俺は元料理人だからな。良かったら後で料理教えてやるぜ?」
どこに住んでいるか聞かれ、この町には今日着いた所だと言うと、ならこのうちに住めよって…
「その方がいいだろ?俺のメシも食えるし、家賃はタダだぞ?金貯めるんだろう?」
「でも悪いですから…」
「ちちち、今から遠慮禁止。敬語もな!タメ口にしろ、じゃないとなんかよそよそしくて駄目だ。それに俺ら身内だろ?血縁無いからとか水臭いことは言うなよ?」
「!…はい…あ」
「ほらまた!」
「わかった」
「うん。あと俺のことはオッサンでいいぞ。その方が呼びやすいだろ」
ほら食え、冷めちまう、とスープの心配してた。
数日して慣れてきた頃あえて触れずにいた話題を持ち出した。
「一夜、かなり時間がたったけどここに来たってことは何らかの覚悟があるんだろう?
お前の知らない昔の話を知るかもしれない。それか、本当はそれも目的だったのか?」
「オッサン…」
「だろ?聞きたいなら話すぞ?」
「うん…教えて欲しい」
オッサンは優しい表情のまま話してくれた。
「一夜の母親はな、香月朝子っていうんだよ。だから一夜ってつけたんだとさ。名前知らなかっただろ?背が小さくて可愛い感じの、薄茶のウェーブの髪を長くしててな…目鼻立ちは一夜によく似てるよ。
お前を妊娠したのが分かって春海は家族を捨てた…朝子の体調が悪くなったからだ。春海は頑張って世話したけど、お前を産んで割とすぐ死んじまってな、春海はお前を静に預けるために玄関前に置き去りにして町を出た。行方をくらましたのさ。
静は憤慨したけど、仕方ないから私が育てるって言ってな。
しばらく経って春海から来た手紙には…一夜が産まれる前に俺はここに引っ越したんだけど、連絡があったことは誰にも言うなってあって、…なんであんな事したのか書いてあったよ。
…あんまり絶望しちまってとてもお前を育てらんなかったんだとさ。元の家族に謝って戻る気力も…
あいつはもう戻るつもりは無いって書いてた。本当に戻らなかったのは多分あいつなりの誠意なんだろうよ。
後は一夜も知ってるだろ」
「…俺がいるせいであいつらの幸せを壊してた。俺なんか産まれてなきゃ良かった…」
オッサンは微笑んだ。
「一夜、お前が気にする事じゃねえよ。一夜には罪はねえんだ、自分を責めるのはやめな」
その後で酒を飲んでいる時にオッサンは言った。
「一夜、お前の母さんと春海を会わせたのは俺だよ。元々悪いとしたら俺なんだ。なのにお前がこんなに責任感じてよ。可哀相に…
俺なんかを訪ねてきてくれてありがとうな。な?一夜」
好きなだけここにいろ、血は繋がってないけど本当の家族だと思え、とか色々言われた。
俺はお前を愛しているなんてのもあったな。お前は忘れてるだろうけど赤ちゃんの頃何度か抱いたり世話したんだぜ、とか…
「朝子と俺の恋人だったミラは親友でな、当時はよく一緒に遊んだな。
朝子は一人っ子の親無しでな、俺とミラはよく世話を焼いたよ。いつも、も~頼んでないのに~ってな。
だけどミラが突然病で呆気なく死んじまって、俺は町を離れた。朝子と春海はもうくっついちまってたし…」
そこで一度ため息をついた。
「静はしっかり者で頑張り屋だから、大丈夫な気がしてたけど、本当は疲れてたんだな。心労と過労だったんだろう」
オッサンは一度も俺を責めること無く身内のように接してくれた。
だけど、母さんを疲れさせたのは俺なんだ。俺がバカだったせいで…
一夜はため息をついて電話小屋に入った。
先週、町民健康診断だったんだけどね、事前に書いてく問診票にスピカは心の状態の質問の所に、いつも絶望的だと思う に○をしたの。そしたら 心のケアセンター に紹介されそうになって、ヤバイ!!!と、慌てて「いいえ全然悩んでないですから!」と断った…
危なかったーあやうくいらん薬を飲まされる所だったー
つい出来心で○をしたけど、(だって絶望的なのは真実だし)今後は2度と繰り返さぬようにするわ…
皆さんも気をつけてね!(何言ってんじゃ)




