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CALL  作者: スピカ
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●【番外編1】故郷の夜風は

今回は番外編で、一夜(いちや)の過去、少年時代の話です。なぜ孤独主義なのか、これで理解できるかな。温かい目で見てやってください。

 一夜(いちや)の肩から頭を離してスズミが言った。

「さて、と。あたしもう寝るよ?一夜も早く寝なよ?」

「ああ」

「じゃあお休み」

 一夜は頷いて返し、物思いに沈んだ。昔のことを思い出す。



 子供の頃、訳も分からず兄と姉に避けられていたっけ。嫌われていると思っていた。母もなんとなく自分だけ愛してくれていないような気がしていた。


 あまり覚えていないが3つの時に盗み聞いてしまった事実。ショックで心が冷えたこと。

 どんなに愛されようと頑張ってもなぜ愛してもらえないのか知ってしまって、全て諦めたこと。


「お母さんどうして一夜なんかひきとったの?」

「仕方ないのよ、あの人が認知してたんだから…」


 それから、家族とは自分から距離をとって、不良のグループに入った。早く家を出たかった。

 自分が家を出さえすればいいと思っていた。バカなガキだったな。でもとにかく早くって…

 タクはその頃から異彩を放っていたな。

 思いだして一夜はふっと笑った。


 スズミと出会ったのは12の時だった。リンと名乗っていて一夜もそれが本名だと思っていた。


 雨の日、久しぶりに家に帰ったら姉に…

「どうして帰ってきたの?もう帰らないんでしょ?」

 一夜は無言で踵を返し家を出たが雨降りで、いく宛も無くて、町外れの小さな石橋の下に潜り込んだ。一人で膝を抱えていた。


「あんた、何やってんだ?ずぶ濡れのノラ犬か猫みたいにして」


 今も覚えているあの時の声の調子。


「風邪引くよ?うちの目の前でいるのをほったらかしてると気分悪いからさ、入りなよ」


 家に入ると椅子にかけるよう勧められた。

「あたしはリン。あんたは?」

「一夜」

 サバサバした女だと思った。

「行くとこ無いんならさ、うちに住みなよ」

 何よりありがたいと思った。



 ところがそこは娼婦の家で、リンが客をとってる間中、隣の部屋にいた一夜にはその音が聞こえていた。




「俺もやってみたい」

「一夜にはまだ早い」

「早くねーよもうすぐ13なるし」

「…」

 ガタッ。

「!」

 無理矢理キスした。

「…。もうガキ扱いすんなよ」

 ベッドに座っていたリンをそのまま押し倒した。見下ろすとリンは切なげに瞳を揺らした。

「一夜、あたしは汚れてるんだよ?」

「汚れてるなら、俺の色に染めてやる」

「一夜…」


 俺をじっと見たリンは目を閉じて、そのまま後は、静かにキスし続けた。


 それからは客ともしてるのにたまに俺ともやった。

「一夜との時は違うよ?特別」

「リン、好きだよ」


 柔らかい雨の夜、リンはそっと教えてくれた。

「あたし本名はリンじゃないの。今まで嘘ついててごめんね。あたしの本当の名前はスズミっていうの。一夜にはそう呼んでほしいから、二人の時はそう呼んで」

 心に触れることができるんだと思って嬉しかった。


 困り笑いのような表情の癖も、全部好きだった。

 スズミは俺に体だけじゃなく心の置場所までくれた。俺にとってはまさに天使のようだった。


 タクが教えてくれた麺屋に出入りして手伝ったりして残った麺やスープを貰ったりして、よくスズミと食ったな。紹介されたのはスズミと会う前だったけど…。そういえば麺屋のジジイ元気にしてるかな。健康が取り柄みたいな人だったからな。明日タクに聞いとくか。



「一夜、もう家に帰ったら?」

「な…俺もうあの家には居場所なんて」

「いいから。いつまでもこうしてはいられないでしょ?」

「…っ…ガキ扱い、すんなよ…」

「そうじゃない。ただあたしは一夜のためを思って…」



「何しにきたの?今さら…母さん最後にあんたに悪かったって…過ぎてからじゃ遅いのよ!!」

 目に涙をためてぶつけるようにそう言った。

 線香の香り、母さんの顔にかかった白い布、(たまき)の泣き声…


 人ごみを思い出して一夜の眉間に力が入る。

 人ごみ。逃げる人。家への道を走った。銃声。

 遠目に逃げる環を見つけた瞬間、無差別な銃声が響いて環が倒れて…

 危険が過ぎてすぐ環に駆け寄って抱き抱えると、もう息も絶え絶えで。

「一夜…?街中は危ないわよ…?早く逃げ…、…今までかまってあげられなくてごめんね…んとは、一夜が寂しいのわかってた…なのに、ごめんね…今さら」

「そんなことない、俺の方こそ」

「あたし…あんまりいいお姉さんじゃなかったね…」

「環、死ぬな!環!!」

「ありがとう…」

 そう言って、かくりと力が抜けた体。

挿絵(By みてみん)


 遺体を背負って何度か兄弟三人で来た丘に運び、埋めようとしたら環の懐に御守りの懐剣が入っていて、思わず抜いてこの喉に突き立てようとしたけどできなかった。

 代わりに首の後ろで(くく)ってた髪の毛を切って一緒に穴に埋めた。



「はい…一夜!?良かった生きてたのね!」

 抱きついてきたスズミ。

 今日あった事を話して、話し終える時こらえ切れずに涙が溢れてきた。自分で肩が震えるのがわかった。

「泣きたいだけ泣いていいよ、胸貸したげるから」

「スズミ…。…っ、バカだ、俺…っ、本当にバカだ…っ!」

 初めて泣きじゃくった。スズミにすがって。後にも先にもあの時だけ。

挿絵(By みてみん)




「そう…出て行っちゃうのね」

 寂しそうに言った声。

「忘れないでね?元気で」

 一度手を振って、後は振り返らなかった。走って去ったんだったな。

 その時もこんな晴れた夜だった。


 環の懐剣は今も荷物に入っている。


 その時風が吹いてきて髪の毛を軽く撫でていった。

 一夜にケンカの仕方を教えてくれたのはタクだ。思い出して少し笑えた。

 グループの中で一人少し離れていて、当時はあまり喋らなかった。

 一夜のことをよく面倒見てくれた。

 それがなんか、喋るようになって。イメチェンで面白いんだけど。


 スズミのことは…俺は本当にただのガキだったんだ…


 上を見ると月がようやく天頂に昇ったところで、月を見ているとなぜか威咲(いさき)の物言いたげな瞳が浮かんだ。

 あいつは好奇心旺盛だけど気を使うやつで、気を使うからよくそんな目をしてる。

 …ああ、そういえば、あいつ月に似てるかもな。

 ハシバミ色の瞳と青灰色の髪。人の話を聞く時のしげしげと見てくる表情。威咲は人の話を最後まで聞いてから話す。


 思い出から今に立ち返る。

 その後一夜はもう少しだけ名残を惜しむように風に吹かれていた。







4日前の朝起きたら首の下背中の上辺りが寝違えてて、起き上がるのに一苦労…ましになってきたけどまだ寝起きは苦痛。寝返りも出来ません。うぅ、地味に不便だ。

BGMはブルックのカミングホーム日本盤でした。

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