(116)理由
行方不明だった父親に偶然出会った一夜たち。一夜は決別的な態度をとったが、心配した威咲は春海を探して会いに行った…
小さなテント小屋の中、千崎春海と向き合って座っている。
白髪混じりだけど一夜と同じ濃い焦げ茶色の髪に少し一夜より面長だけど似た三角の顎の形。身なりは前と同じ、古いクタクタの上着とシャツ。
「…昨日一夜はああ言ったけど、それでそれきりになるのはなんか良くないと思うんです」
「…君はそれで俺と息子の仲を取り持とうと?」
「…簡単に言えばそうです。でも、一番の理由は後悔して欲しくないから…もしこのまま別れたら一生心に気まずい部分が残るから」
「君は…。…俺は一度あいつを捨てたんだ。あいつは許してくれないだろう。それに今更俺の戻る場所じゃない。残してきた家族が死んだなら、静の実家にも会わす顔は無いし…
元々はな、朝子…一夜の母親だが、彼女の妊娠が分かって俺は家族を捨てたんだ。なのに一夜が産まれてすぐ朝子は死んじまってね。辛すぎた俺には一夜を育てられなくて、静に預けて町を出たんだ。会わす顔が無くてね。玄関前に一夜を置き去りにして、バレないうちに」
淡々として話す。
「朝子は妊娠してから体調不良になって、どうにか出産までしたが産後がダメで…
一夜には朝子の面影があるよ。それから後は何も知らないんだよ」
「…どうしてそんなことしたんですか?子供が大事じゃなかったんですか?」
「分かってるけどその時は育てる気力が無かった。謝って元の家族の所に戻る気力も」
「一夜の叔父さんに手紙は出していましたよね?」
「ああ、伸夫とは朝子を選んだ時も付き合いを続けていた。静の2つ下の弟で気のいい奴だよ。だけど俺は住所が無いから手紙の返事は貰えなかったんだ。
…多分行方不明者になってたら住所を得たりしたら発見されて連れ戻されるか少なくとも家族と会わないとダメだろ?それが怖くてずっとこんな生活さ。
本当に、会わせる顔が無い…まさか死んだなんて」
辛そうに口を手で覆う。
ざんばらの髪に無精ひげ。
「…あなたのしたことは本当にいけないことです。…一夜にちゃんと謝って欲しいです。そして出来れば和解だけはして欲しいです」
春海は目を細めて威咲の向こうを見るような目をした。
嫌そうなんじゃない、許して貰えないだろうという哀しみに見えた。
でも、不思議…一夜とは今まで面識無かったのに、その目の細め方が似てる。
威咲は帰って、夜、部屋に戻ってから一夜に話した。
「家族に会うのが怖くてずっとこんな生活してきたんだって。苦労はしてたんだよずっと」
「だからって簡単に許せってのか?」
会いに行った事を告げると一夜は驚いた顔をして、不機嫌そうに話を聞いていた。
「そうじゃないよ、だけど、ただ少しでもいいから同情してあげて?許せなくていいから和解だけはして?
だって、結局は実のお父さんなんだよ?険悪なままにしたらきっと一生気まずい部分が残る…一夜に後悔して欲しくないの。それに私もこのままなのは嫌だから」
「威咲…」
一夜は舌打ちして横を向いた。
「一度ちゃんと話してみよう?」
「…考えさせてくれ」
そう言って部屋から出て行った。
外に出ると一夜は重いため息をついて、星を見上げた。
あいつ、また他人の事に躍起になって…
挿絵が、最近以前より上手くなってきたでしょ?(今回は無いけど)
ああもう一夜カッコいい、とか、威咲ちゃんをちゃんと可愛く、とか考えながら描く…
もーーーっ、愛してる!★★
あ、伸夫ってオッサンの名前が出ましたよー★




