(115)遠見の先に
威咲は窓ガラスに手をついて外を無言で眺めていた。
霧雨が降っている。目を閉じ祈るように呼びかける。
シンハ、お願い力を貸して。一夜のお父さんはまだきっと近くにいる。だから探し出したいの。そして、出来たら一夜とちゃんと話をさせてあげたいの。
「…」
精神を集中する。
使ったことは無かったけど、シンハの力を使えるなら使えるはず。
一夜のお父さんの姿を思い出して、その気配を探る。探し出して、辿ればどこにいるか分かるはず。
遠見。気を、研ぎ澄ます――――――
多摩は小さなため息をつくとチラリと雨雲を見上げた。威咲が何をしているのか分かる。
「また頼まれもしない事を」
呟きは既に諦められている。
「…だけど、…だから叶わないのよねー…」
黙って静観を決め込むことにする。
多摩にはその気になれば探し出すのは難しいことではない。
だがあえて手助けは申し出たりはしない。
一夜のお父さんは…
姿、動作を思い浮かべる。その存在感を探す。
「――――――」
この街の空気に混じるそれは。あの広場からどこに行ったの?
ずっとそうして、不意にある画像が浮かぶ。
それはちょっとした雑木林のような…だけど街中にある。
これは公園?広場から遠くない位置に公園がある…そこ?
威咲は行くことに決める。
「威咲ちゃん出かけるの?」
「うん、ちょっと散歩」
「雨よ?」
「大丈夫」
引き止めない。威咲はその意味に気付かない。霧雨の中に飛び出した。
休みつつ小走りで公園にたどり着いた。
「多分ここだと思うんだけど…」
木が植わっている辺にテントもどきの小屋のようなものを見つけて近寄る。
それは他にも2、3あった。
「…」
ためらったが、勇気を出して声をかける。
「あの、すいませんちょっといいですか?」
「…なんだ?」
顔を出したのは違う人で、威咲は謝りまた次に声をかける。
そうして全部当たったが外れだった。
最後の小屋は留守だった。もしかしてそこかもしれないがどうしようと迷っていると、一人が小屋から顔を出して声をかけてきた。
「誰か探してんのかあんた」
「え、あの、はい」
特徴を伝えるとその人は言った。
「それなら多分そこの人だよ。名前は分かるか?」
「あの…千崎さんです」
「うん、そう。じゃあ良かったら帰ってくるまで中で待つかい?」
「え、あの…」
どうしよう。雨だから、それだけだろうが、脳裏に襲われた時のことが甦った。
どうしよう、何か返事しないといけないのに。
「あの…」
どうしよう。
「あれ、おーい千崎さん!」
「えっ」
振り返ると昨日の人が驚いた顔で威咲を見ていた。
「この子知り合いなの?なんかあんたに用があるみたいだよ?」
一夜のお父さん。威咲は勇気を出して向き直る。
「あの、少しいいですか…?」
きゃ〜ん、もう、威咲ちゃん頑張ってあげて!
こうゆう展開ってけっこうお約束だとは思いますが…
必要なんです!この展開が!可愛い可愛い一夜の為に!
ぜひ次回もお付きあい下さいませ★




