●(114)広場にて
今回から新展開に入るよ★
シンハは椅子にこしかけゆっくり目を閉じて精神を集中する。先を見る…
「…」
威咲はゆっくり目を開いて周りを見回した。
あれ、私居眠りしてたんだ。…でもここに来た覚えは無いからシンハかな。
そこに声がかかる。
「威咲、外出かけねー?」
一夜だ。今は一夜には何も問題無いし、威咲の状態も問題無いので二人だけでも外出出来る。
「うん、散歩?」
「そ。二人で歩きてーし」
「!うんっ」
二人だけの時しか言わないセリフ。それでも今だってクールぶってる。
「でも本当に久しぶりだよね」
威咲は喜んで急いで上着を羽織った。
久しぶりに街まで。途中、偶然手が触れ合って、威咲は少しだけ鼓動が跳ねた。
手、繋ぎたいな…。威咲は思って、だが恥ずかしくて言えなかった。一夜は威咲に気をつかっているのか、ノーリアクションだ。とりとめなく話しながら歩く。
歩いて、広場に来た。
一夜が突然立ち止まった。視線が一点に止まっている。
「どうしたの?」
いぶかしんで威咲が問う。一夜の返事は硬く、ぎこちなかった。
「…親父だ…」
1枚の写真でしか知らない父親。それは一夜のいない頃の家族写真…歳をとったし初めて見るが、間違いない。
いて欲しかった訳じゃない。許せないんだ。脳裏に母さんと環と満の顔が浮かんだ。ただただ許せねーんだよ…
視線に気付いてその男もこちらを見た。
千崎春海。一夜の父親。家族を捨てた奴。
最初不審げに見ていたが急に表情が変わった。気が付いたのだろう。
「…一夜?」
やはり間違いなかった。
「お…」
一夜が言いかけ唇を噛む。
二人を交互に見た威咲が春海にかけ寄った。そして腕を掴む。
「一夜のお父さんですよね?」
「威咲っ」
振り向いた威咲の顔は真剣だった。
「一夜、こっちに来て話して。ずっと探していたんでしょう?」
「…」
「どうしてそうなの?やっと会えたのに。…一夜?」
春海が自嘲気味に言った。
「…俺を恨んでいるんだろ?」
「…そうだよ。なんで生きてんだよ…」
「静達は元気か?」
そんなことも知らねえのかよ。
「死んだよ。母さんは病気で、環は戦争で。満は行方不明だ」
春海が驚いた顔をする。ショックだったようだ。
一夜が歩み寄って言う。無表情で。
「家の辺りも戦争後整地されたりして大分変わってる。家の土地は俺が相続した。…あんたは帰ってくんなよ?」
「一夜、それじゃあんまりだよ」
「これくらい言われなきゃ分かんねーだろ。あれから俺達がどんな気持ちだったか。
生きてるのは分かったけど役所の行方不明届けは取り消さない。どういうことか解るよな?だから戻ってこようなんて思うな。今まで通り好きに生きてけばいい」
行くぞ、と威咲の手を春海から離しそのまま手を引いて歩き出す。
威咲はとりあえず春海に礼をすると小走りで一夜を追った。
春海は呆然として立ち尽くしていた。
「あれで良かったの?」
一夜は答えない。威咲は言い募る。
「あの人がしたことは確かにいけないことだよ。…でもあの人がいなかったら一夜は生まれてないしそしたら私は一夜と逢えなかったんだよ?」
「…分かってるけどどうしても許せねーんだよあの家族を壊した自分が」
「でも拒絶してるだけじゃ駄目だよ。後悔したくないでしょう?」
「お前には分かんねーよ」
無感情な言い方。威咲はムキになった。
「一夜は贅沢だよ!私なんてもうお父さんはいないんだよ?まだ生きてるからそんなこと言えるんだよ!」
「だからって面倒なことになったらどうすんだよ、いない方がマシなんだよ!」
「…一夜のばか…っ」
「威咲」
「じゃあどうして放浪生活してたの?本当は生きてて欲しかったからじゃないの?」
「あれで良かったんだよ」
「そんなの私は嫌!」
「威咲!」
威咲が一夜の手を振り払い走り出した。
一夜は仕方なく後を追う。
走ってさっきの広場に戻ったが、もう春海の姿は無かった。
はい~一夜の名字、やっと出ましたねー★
「千崎」ですよ~★
なぜ千崎かというとそれは、なんとなく尖ってるイメージの響きだから。もうこれ以外無かった。
父親も出てきてこれは一波乱の予・感。
てな訳で、今後も「千崎一夜」をヨロシク!!




