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CALL  作者: スピカ
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●(11)Birth place4

父親を亡くした威咲を一夜は自分の放浪生活に連れていくことにした。途中、子供を助けたり逆に助けられたりした。次の街への途中で偶然降りてしまった街は一夜の故郷で、そこで一夜の知り合いに出会い…

 次の日、タクは仕事へ、スズミは洗濯して家事、一夜(いちや)威咲(いさき)も洗濯して、威咲がいない。

 探すと、家の外、洗濯物の陰にいた。後ろ姿が船を漕いでいる。


「威咲、何してんだ?」

 威咲が振り向くと腕には赤ちゃんが。子守りを仰せつかったのだ。

「そうだ、一夜も抱いてみなよ」

「俺はいいよそういうの苦手」

「そう言わずに、はい」

「う…」


 仕方なく一夜は抱いてみた。

 その途端、今までスヤスヤと眠っていたのに急にもぞもぞとしだし突然火がついたように泣き出した。

「うわ、なんだよ」

 すごい声だ。

「おい泣くなよ、そんなに嫌がらなくたって」

 一夜は必死だが赤ちゃんはのけぞって泣く始末。

「どうしたの!?」

 スズミが急いで現れた。

「一夜…」

「どうしたもこうしたも、俺が抱いた途端にこうなんだよ」

「おかしいな、一夜りきみ過ぎなんじゃない?」

「そうか?」

 必死な二人のやり取りを見てスズミは腕を組んだ。

「あんまり泣かせ過ぎないでね」

「もういいお前やれよ」

「う、うん」

 威咲に戻るとすぐ泣きやんだ。一夜はぐったりした。

「何が違うんだよ…」

「一夜、もしかして面倒だなとか思ったりしてない?それを感じとってるのかも。ちゃんと可愛いと思ってやればきっと」

「は?」

「抱けるようになりなよ」

「~~~」


 それから、一夜に移して泣きそうになったら威咲に戻してを繰り返した。

 一夜は泣きたかった。その位大変だった。が、子供の方も慣れたのか、6回目は一瞬泣きそうになってヒヤッとしたが泣かなかった。

「一夜…やったね!抱けたねー」

「お、おう」

「良かったー今可愛いって思ってるでしょ?」

 一夜が抱いた赤ちゃんを威咲があやした。

 そこへ昼休みに帰宅したタクがスズミと眺めた。

「子守りさせてんのか」

「そう。さっきまで一夜が抱くと泣いて大変だったのよ」

「へー?」

「人見知りしてるのねきっと。でも諦めたみたい」

「なんかママゴトみたいだな」

「微笑ましいじゃない」




 結局この家には二泊した。出立の朝、スズミは握りを作って持たせてくれた。

「もうちょっといてもいいのに」

「ほんと。威咲ちゃんだけ置いてってもいいのに」

 タクが威咲の後ろから腕を回して言った。

「ちょっと!」

「それ前にも言われた」

 タクがスズミに小突かれた。

「一夜でも威咲ちゃんでもいいから連絡頂戴(ちょうだい)ね」


 二人は赤ちゃんを抱いて家の前まで出て見送ってくれた。

 二人に手を振って歩き出す。歩きながら威咲があっけらかんと言う。

「いい夫婦だったね、私もああなりたいなぁ」

「は?ああ、だな」

 先を歩く一夜は少し苦い顔をして首の後ろに手をやった。

 空は抜けるような青空で高く澄んでいた。もう秋の足音が近づいている、夏の終わりだ。草むらでは虫が鳴いている。


 途中で、一夜はある小さな丘に立ち寄った。そこがなんなのかは威咲には説明せずに。

 威咲は一夜を見たが何も聞かなかった。


「いい眺めだね」

「だろ。ガキの頃よくここまで遊びにきた」

 白いマーガレットに似た花が一面に咲いている。

「…」

 花が増えた。あの時は少ししかなかったのに。もう(たまき)を埋めた場所がどこだか判らない程に--------

 そう、あの日、俺は環をここに埋めた--------


 威咲は一夜が無言になってしまったので花冠を作り始めた。


 一夜が威咲を振り返ると何かしていたので一夜は適当な場所に腰を下ろした。

挿絵(By みてみん)



 やがて花冠は出来たが一夜を見ると座ってぼんやり景色を眺めていた。

 風が草むらに模様を描いて吹き抜けていった。

「!」

 急に頭に何か乗ったので一夜は振り仰いだ。

「冠作ったよ」

 威咲がニコニコしていた。

「似合ってるよ」

「お前のが似合うだろ」

 一夜は威咲の頭に冠を乗せると立ち上がった。

「さーて、休んだし行くか」

 伸びをする。

「…」

「何してんだー行くぞ」

「あ、うん待って」

 威咲は小走りに駆け寄る。それを待って一夜はまた歩き出した。


 丘を(くだ)り小川沿いの道を行き石橋を渡り…

 橋の真ん中で威咲は立ち止まった。

「一夜ちょっと待って」

「?」

「おまじないしてあげる」

 そう言うと花冠を両手に挟んでお祈りしてから冠を川へと放り投げた。そしてそれを見送る。冠は揺られながら流れていった。


「あのね、願い事をして花冠を川に流して、その冠が無事海まで流れていったら願いが叶うんだよ?」

「ふーん。で、何を願ったんだ?」

「秘密」

 ふふっと笑った。

「なんだ教えてくんないの」

「うん、へへ」

 一夜は先に歩き出した。その後ろ姿を見て目を細める。

 ほんとはね、一夜にいい事有りますようにって願ったんだよ?だけど教えてあげないよっ。

「おい何やってんだよ置いてっちまうぞー」

 一夜が歩きながら言う。

「うん今行く!」

 威咲は小走りでかけて行った。空が高い。




前回、月食雲ってると書きましたが窓を開けたら晴れてて見れました。ガーネット色してて綺麗でした★

今日はBGMはブルックのカミングホーム日本盤でした。これのLetMeGoがすごくいいのです!

では次は番外編で。

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