(106)威咲の血
輸血された威咲の血…一夜の中で魔物の影が揺らいでいた。
一夜を乗っ取り出てきた魔物を、どうにか消滅させて、だが今度は逆に巫女の力が暴走しかけ…
垂華、多摩二人がかりで巫女の力を抑えこんだ。
巫女は重い決断をした。今後力を使わない――――
「ごめんな、俺のせいで」
「ううん、一夜のせいなんかじゃないよ」
片割れになっていた一夜の中の魔物が完璧に消滅したことで、それと連動していた威咲の中の大元の魔物本体は一旦静まったかに見える。
威咲はシンハに替わっていた理由が魔物が再び拍動し始めたからだったので現状はこうでも安心した訳ではない。それは以前から変わり無いが…
「あの時一夜が助けてくれたから、今も私、生きてるんだよ?」
再会した日の出来事。そして、一夜に威咲の血が輸血された。
沈んでいる二人に我慢しきれないように多摩が言う。
「もうっ、くよくよしても仕方ないわよっ!こんなのよくあることだわ。今までにも巫女が途中で死んだり不在だったりでコンプリ出来なかったことはあったわ。だから気にすること無いわよ。
もし今回もコンプリ出来ないとしても次回の魔物退治までの年月が少し短くなるだけのことよ。だから…
本当に気に病まないで?二人に暗い顔されるとなんかこっちまで辛くなるから」
「でもコンプリが目標だよね?」
「出来ればの話よ。理想だからいいの」
もし、とは威咲の中の魔物を排除出来ず、また今のまま巫女の力も使えないままのこと。
そうだと結局多摩と垂華の二人で目覚めた魔物を一掃しただけで終わらせることになる。巫女の封印無しではすぐまた魔物が目覚めてしまう可能性があるのだ。
そうならないためには、どうにかして威咲の中の魔物を消さないといけないのだが、どうしたものか。
無防備な二人を置いて魔物退治に行けないので多摩と垂華は交替で留守番をすることにした。
「一夜君体調はどう?魔物がいなくなったから調子いいでしょ?」
「そうだな」
「で巫女の気だけあるんだから、はっきり言って元気な感じよね?なのに何も出来ないから精神的には悪いっていうか」
多摩が腕組みしながら頷いて言う。
「だからって無理して何かしようとしちゃ駄目よ?一応巫女の力を抑える術は使ってるけど、いつタガが外れるか分かんないから」
そう、むしろ調子がいいのだ。体が軽い感じというか。何か優しい力に守られているような。
だけど、と一夜は思った。
今の俺はこいつらの足枷になっている。だが話すと威咲に慰められてしまうだろう。多摩にもだ。
だから、言えない。余計な気を使わせられない。
相変わらずシンハは垂華の部屋に通っていた。
その時だけはシンハが表に出ているらしいが何をしているのかは知らない。
威咲に聞くと、シンハが出ているのは分かるが記憶は無いから分からないと言っていた。大事な話でもしているのだろうか。
多摩との買い物帰りに一夜は何か身体が温かくなる感覚が湧き起こった。
多分、シンハからだ。いつも垂華の部屋に行ってるらしい時に同じような感覚に包まれる。多摩に聞いてみるか…
「なあ、なんか、身体にあったかい感じが湧いてくるんだけど、これってシンハだよな。今何してるんだ?」
「あー…それはね、巫女が垂華を治癒してるのよ」
「治癒?あいつどっか悪いのか?」
「うーん…まあねー…一番力使ってるの垂華だし、垂華も疲れてるのよ。過労にならないようにメンテナンスしてるってとこかしら?」
「ふーん」
「気になってるの?」
「別に」
「一夜君可愛い~心配してヤキモキしてたの?」
「ちっ、してねーよ」
「うっそだ~」
からかわれてしまった。
だけど何か少し腑に落ちない。
何か隠してるのか?最初歯切れが悪かった。
そう思ったが聞くのは諦めた。
シンハに替わって垂華の部屋に…ってことですが、威咲↔シンハに替わるだけはOK。巫女の力を使いさえしなければ一夜は無事です。
一夜は焼き餅しないの??
再会した日の出来事 は(41)woundですので見て!
今回の話は大体2月の第一週です☆バークス(今いる街)は残雪が所々にある感じかな。たまにまだ雪降ってさ。




