●(10)Birth place3
父親を殺された威咲を連れて一夜は村を出た。その後少年を助けたり逆に助けられたりして、偶然列車を降りた街は一夜の故郷だった。一夜は嫌そうでそれはなぜなのか。歩いていると昔の知り合いに偶然出会い、泊めて貰うことになった。
夜中、一夜は外に出た。
「…」
懐かしい夜風の匂い。山の形や川の音は同じだ。
しばらく風に吹かれているとタクが出てきて隣に並びタバコに火をつけた。
「トイレ起きたらお前がいなかったから」
ふー、と上に煙を吹いた。
「家の中で吸うとあいつに叱られんだ」
あーうまい、とぼやいた。
「一夜」
「何」
「俺まだ許してないからな」
「?」
「俺の油揚げさらいやがったこと」
「!だけど結婚したじゃねーか!」
「いーや、一生それは許さない」
そう言ってまたふー、と上に吹いた。
「それは…、」
「嘘だよ。言ってみたかっただけ。
…お前は結婚とかしねーの?女の子連れだけど恋人じゃないらしいし、俺今27だけど23の時にはもうスズミと結婚するって決めてたぜ」
「俺はまだいいよ」
「あの頃はあいつ精神的に参っててさ、俺がずっと支えてたわけ。
…結婚はいいぞぅ?お前も早くしちまいな。まあでも相手が必要か。ははは」
「ノロケか?」
赤ちゃんの夜泣きで威咲は目を覚ました。
「ごめん起こしちゃったか」
「あ、いえ」
「やってみる?」
あやしてみるかというのだ。
「へー、上手だね」
威咲が抱いても子供は嫌がらなかった。
「私赤ちゃん抱くのは初めてだけど、可愛い」
「そうなの?」
スズミは意外そうな顔をした。
「あ。ねえ見てあれ」
スズミが窓の外を示した。外では月明かりの下、草の上で男二人がじゃれあっている。
「何やってんだか」
そのうち子供は眠ってしまった。
「ありがとう助かったわ」
威咲がトイレにいってくると玄関に入ってきたタクと出くわした。
「あ」
「威咲ちゃんちょっときて」
威咲と目が合うとタクは威咲を手招きした。そしてひそひそ話のように言った。
「あいつらの関係教えてやるよ。あいつら昔付き合ってたんだ。一夜が15の頃だぜ。
だけどその後一夜は姉さん死んで一人になったから生死不明の兄と父親を探す放浪生活に旅立ったんだ。知ってた?」
威咲は首を振った。
「そっか」
そこへスズミが顔を出した。
「もう二人で内緒話?気配がすると思ったら…結局みんな起きちゃってるんだから。一夜は?」
「まだ外」
「まったく…様子見てくる」
「お休み」
「お休みなさい」
「一夜、何やってんの」
「リン」
「もう、いつまで意地張ってんのよ。スズミでいいよ」
「だけど」
「一夜だけ違うと変でしょ」
「ちっわかったよ」
「その舌打ち久しぶり」
一夜は咳払いをした。
「それより、なにたそがれてるのよ夜中よ?」
「別に、ただ…色々思い出したりしてた」
「…あのさぁ、言いにくいけど、もう戻ってきたら?それとも戻りたくないの?」
「まだどこに住むとかは考えてない」
「だけど威咲ちゃんはどうすんの。女の子には大変だろ?」
「そのことも考えてる。どっか任せられる所があったら置いてくつもり」
「そんな…もしどこも行き先なかったらあたしらに相談しなさいよ?」
「わかったよ」
「ほんとに…あんたは放浪生活だから住所不定で手紙も書けないし、あんたからもなんの連絡もなかったし、一夜が出てってからずっと心配してたんだからね?…正直、あんたも生死不明なんじゃないかって思ってた」
スズミは少し目を潤ませて微笑んだ。
「寄りかかっていいか?」
「ああ」
一夜は目を合わせずに答える。スズミは一夜の肩に頭を乗せる。
「あの頃より逞しくなったな。あーあ、もったいなかったかなぁ」
「冗談」
スズミはにっこり笑って言った。
「あのさ、あたしね、ほら誰かさんに捨てられて、あの後かなり参ってたのよ。戻ってくる気なかったんだね」
「…ごめん」
「いいって。つらい時期ずっとタクに支えられて、今はあいつ無しの生活なんて考えられない。一夜に対する未練なんてこれっぽっちもないんだから」
「ふん、こっちこそ。…なんか、幸せそうでいいなお前ら」
「一夜も頑張りな」
今日はBGMはBUMP OF CHICKENのCOSMONAUTでした。
ここは今のところ曇りで、月食見れるかな。無理かな…テレビ見てないと。




