●(95)「好き」とか、「可愛い」とか…
今回は平和です☆うふふ
「おかえりー。あれ、威咲ちゃんそのリボン…」
垂華が目ざとく指摘してくる。
「一夜が買ってくれたの」
「へ~、そっかー。うん、似合ってるよ。前と同じ白にしたんだね」
「うん、やっぱり白が落ち着くから」
「そうなんだ。良かったね可愛いよ」
一夜が言えないことを簡単に連発する垂華に一夜は軽く開いた口が塞がらなかった。それに気付いた垂華がニヤリとして何か言おうとしたので一夜はさっさと逃げる。
「腹減ったー夕飯何だろ」
「?」
威咲が目をぱちくりした。
「ヤキモチ」
垂華が威咲だけに聞こえるように言った。
「あ…」
「意外に照れ屋なんだね」
一夜に可愛いとか言われたことは無い。それに一夜が人を直接褒めたりするのを見たことも無い。
「ま、俺は長く生きてるからそんなのなくなっちゃってるけど」
「垂華君っていくつなの?」
「もう忘れた。覚えてない」
夕飯は因みに多摩が作っていたが、その日は辛くない豆のスープとパンだった。(婚約祝い以来よく辛い料理を出すようになった。多摩的に解禁したらしい)
その晩。部屋で一夜は仰向けに寝ながら本を読んでいる。威咲は両手で頬杖をついてそれを眺めながら考えた。
思えば一夜が私を褒めたことって無い。いつもよく言われてたのはバカとか。口が悪い程でもないけど、それが一夜なんだと思ってきた。
いつもさり気なくフォローしてくれるし優しくしてくれると思う。気に掛けてくれているとも思う。でも、好きとか、そんなの言わないの分かってるけど、可愛いとか。…でも一夜っぽくないか。
多摩ちゃんならこう言うかな?なら威咲ちゃんの方から纏いつけばいいのよ!とか。
そこで威咲はふと我に返る。
あれ?もしかして私、欲張りになったのかな?どうしよう、やだな…
それに、そんなことを考えたのが恥ずかしい。
一度ぎゅっと目を閉じて気を取り直す。よし。
「一夜、何読んでるの?」
「んー?垂華に借りた本。世界の料理。オールカラー写真だぜ」
「わ、いいな。私も一緒に見ていい?」
「ああ、いいぜ」
体勢を変えて腹ばいになって半分よけた。そして真ん中に本を置く。威咲は喜んで隣に寝転ぶ。
「呼べばすぐ来るとか犬かよ」
「もー違うよ。それより本見よう?」
一夜がパラパラとページを捲ってみせる。1ページに2つか3つずつ載っていて、大雑把な作り方と簡単な説明が書いてある。
威咲も料理が好きなので目をキラキラさせて眺めている。一瞬だけ一夜が目を和ませたのを威咲は気付いていない。
「お前の好きな料理って何」
「え?」
顔を上げた威咲が少し真剣に考えてから言った。
「うーん、具入りの麦粥とか豆の水煮とかかなぁ」
「それでいいのか?安上がりな奴」
「だって、毎日食べても飽きないし」
「ま、そりゃあな」
そういう素朴な所もいいんだけど、などとは言わない。だが実はそう思っていたりする。
「あ、これ湖南料理だぜ。やっぱ辛そうだなー」
湖南とは多摩の生まれ故郷だ。
「へー、…うん、やっぱり辛さ控え目にしてくれてたんだね。これだともっと辛そう」
「だな」
一見何も変わらないが、一夜は魔物退治が終わるまで威咲を支えてやらなければならないと思っている。
それから二人で寝るまでどれが美味しいのかなどと話し合った。
寝るまでって、一夜のベッドで読んでたんだから、そのまま眠っちゃったのかな?そこら辺はご想像にお任せです☆
少なくとも威咲は一夜に安心しきってるし~一夜も変に手を出したりしないから~…
どうでしょう?




