二章 嫉妬の矛先
あと3回の投稿で二巻は終わる予定です。
結構時間空いてしまいましたが
できるだけ巻いて出したいと思います
「ロクでもない実験をしてるのはたしかで王女様がそれに進んで協力してるとは思えない。
さっさと行きましょ」
「はい!でもどうやって探したら…」
「こうなったら強行作ね。
丁度、街の真ん中に穴を空けてくれて助かったわ。二人とも耳塞いでて」
アセディアに言われた通り、右手に持っていた白桜を腰に下げた鞘に納刀し、両手で耳をふさいだ。
俺に続いて、理由くらい聞かせてほしいといいたげなミレイナも仕方なく耳をふさぐ。
「轟け、共振の力よ!
反射し、全知の一部を我に与えよ!
共音乱握」
詠唱と共に手のひらに発生した光の玉をアセディアは手のひらを傾けて地面に落とした。
光の玉が地面にバウンドすると、異様に甲高い音が響き渡る。
耳をどれだけ強く押さえても、頭の奥まで届くその音は不快なものでしかなかった。
「これは違う。これも…これも…これも。
じゃあ後はここらへんかしら」
俺たちが跪くほどの不快な音を物ともせず、目を閉じたまま立ってなにかをブツブツと呟いている。
そして長いようで短い間響き渡っていた不快な音が消えると膝をつく俺とミレイナにアセディアが手を差し伸べて来た。
「見つかったわよ、王女様」
「え?今、アセディアさん何やったんですか?」
「さっきの魔法は自分で出した音が反射するのを軌跡みたいに辿れるんだけど、その軌跡が通った場所を映像として見られるから半径50km程度の状況ならほとんど把握できるの。
ただ地下だと反響しすぎて把握できないから需要がないんだけどね。
さあ、私についてきて」
アセディアの腕につかまり立ち上がった後、彼女の走る方向へと足を進めた。
俺とミレイナは未だ、耳に違和感を感じつつ度々、耳を押さえる。
そしてしばらく走ると、よく知っている建物に辿り着く。
「正教連合塔か」
ここは世界で一番高い塔と言われており、かなり昔に作られたと言われている場所だ。
この塔を創った者は誰もしらず、天の授け物とされて観光名所とされているが、どうやら今は立ち入り禁止になっているようだ。
「あほとクズは高いところが好きってことね」
「間違ってはいないけど、それはどうなの」
とりあえず、ツッコミをいれつつ立ち入り禁止を気にして入らないわけもなく、立ち入り禁止の看板にかけられた結界を解くため手を触れようとしたとき、上空から異様な魔力を感じて俺も含め三人は後ろに大きく飛んだ。
「ここから、あなたたちは行かせなーい」
「インヴェンジュ、私は忠告したはずよ」
「アセディアなんかのいうこと誰が聞くと思ったの?ばっかみたい」
「あんたねぇ!」
いつもクールなアセディアが珍しく感情を表に出して怒りを見せる。
「アセディアさん、そもそもあの子誰なんですか?」
「あんまり会って欲しくなかったんだけど、あの子は嫉妬の魔女、インヴェンジュよ」
アセディアの言葉に驚きもう一度、インヴェンジュと呼ばれた少女を見るが、とてもアセディアやイラーと同じ魔女には見えない。
人間で言えば十二歳くらいだろうか。
そんなにも幼い体から漏れる魔力は、彼女が魔女だと疑わせる余地を与えないほど禍々しいものだった。
「私もあんたなんかに会いたくなかったわ」
いつもいつも偽善を振り回してるようなあんたなんかに!」
「イクス!ひとまずこいつを追い払いましょ」
「ああ」
この戦いはフェリスを助けるには避けられないものだと判断し白桜を抜き、結罪を発動させる。
アティーレプスに来るまで、特訓としてたびたび結罪状態になりながら移動していたため、この状態にはかなり慣れて来た。
「オーレリカ、スカーレットバレットを装填」
アセディアにオーレリカと名付けられた狙撃銃に向かってイメージを飛ばす。
「アセディア!」
「わかってるから少し待って。
共存の物語よ、形となれ、同世界!
天光が眼に届くとき、我の力となり光を別て、空間把握!」
アセディアが発動したイグスタで、俺と彼女が見ている情景を共有する。
この状態を保つのはお互い厳しい上に、かなり気持ち悪い。
だが、アセディアが同時に発動した空間把握で細かく分けられた情景を目にできる。
脳への負担は発動者が八割ほどを占めるが、どうしても空間把握によって分けられた細かい情報を処理するには俺の脳にくる負担は避けられない。
正直、残った二割でも脳みそは悲鳴を上げる。
そんな悲鳴を無理矢理、殺し思った通りの場所に一ミリもズレることなく氷の結晶を生成する。
そして空間把握と同世界は解かれ、俺は脱力感に襲われるが、それに必死に耐え、
自分で生成した結晶に銃口を向けてトリガーを引き続けた。
銃口からでたレーザー状の赤い閃光は空中に幾つも浮かぶ結晶に反射しながらインヴェンジュを取り囲み、彼女の動きを封じる。
そして結晶を風魔法で少しズラすと全方位から閃光が彼女を襲う。
もちろん殺さないようにはしている。
紛い物であってもアセディアの姉妹みたいなものだから…彼女が戦いたくないことなんてわかっているから、目を背けることだけはして欲しくない。
閃光は、空中にいたインヴェンジュの手足を打ち抜き、地面に落とした。
「イクス…」
アセディアが俺の名を小さな言葉で口にする。
「イクスさん、アセディアさん、急いで塔を登りましょう。
この時間も奴らはなにかをやっているんです」
そう言って走り出すミレイナとそれになにも言わずに続く俺たちの前に一人の少女が立ちはだかる。
「行かせないって言ってるでしょ!」
先ほど閃光が負わせた手足の穴はどこにもないが、服には穴が空いている。
「再生能力!?これってミストルが使ってた」
「そうよ。
これは私に素晴らしい力をくれた嫉妬の第一継承者であるお姉様の能力」
「なんであんたがミストルの能力を使えるのよ!!」
「私はミストルに才能を認められて罪力を貰い受けたのよ。
私はそのとき、それまで培って来た魔法全てを忘れることでミストルからたくさんの魔法を受け継いだのよ」
俺とミレイナが知らない名前が上がったかと思えばインヴェンジュとアセディアは二人の世界で次々と会話を続ける。
「ミストルの力を悪用するんじゃないわよ!」
「貴方がお姉様を汚したんでしょ。
そんな奴、私の前から消えなさいよ!」
「イクス、とりあえず撤退するわよ。
不死身のインヴェンジュと戦ったってこっちが消耗するだけだし、無視して筆頭と戦うにしても、あの子の攻撃を避けながら戦うなんて無理があるわ」
「私も賛成です。
相手にも魔女がいるなら、無策というわけにはいきません」
できるだけ急ぎたい状況ではあるが、不死身というのはイラーよりよっぽど厄介だ。
ここは彼女たちに賛成せざるを得ない。
「イクス、ミナ、手を貸しなさい」
「逃がすわけないじゃない!」
俺たちを逃がすまいと彼女は、かなり重そうな斧をアセディアに向かって軽々と振り回す。
それをなんとか躱しているアセディアとミレイナに視線で指示を飛ばす。
一瞬のアイコンタクトで集合地点を理解し、二人は俺が思った通りの場所に向かう。
そして俺とミレイナがアセディアに手を差し出すと彼女は手に持っていた2本の槍を消して、両手を使って、俺たちの手を握った。
「座標移動」
一瞬、視界にノイズが入ったと思えば、もうすでにそこは昨日まで泊まっていた宿の部屋だった。
「空間把握しなくても座標移動できるようにここに目印を設置しといてよかったわ」
*****
俺たちは、アセディアのおかげでインヴェンジュとの戦闘から離脱することに成功した。
だが、彼女に勝つには骨が折れそうだ。
「なあ、よかったらミストルって人について教えてくれないか?」
「ええ、いいわよ。
ミナも聞いてって」
席を外そうとしたミレイナを引き止め座らせた上で、話を始める。
「ミストルは、私と同じでお母様から直に罪力を受け取った第一継承者なのよ。
彼女に適合したのは、嫉妬の力だったの。
前々から彼女は何にでも全力で挑む頑張り屋だったんだけど、
彼女は何一つ自分のものにはできなかった。
私だったらもっと早く壊れていたのかもしれないけど、彼女は必死に頑張り続けて、自分に頑張るように言い聞かせて自分の無能さを覆そうとしていた。
けど彼女には無理だった」
アセディアは瞼に浮かべた涙を袖で拭き取り、再び話始める。
「何年も頑張ったけどダメで、ついに諦めて不公平を産む世界と平凡に生きる者たちを憎んだ。
それが嫉妬の罪力が適合した理由」
彼女はたびたび辛そうな表情を浮かべたり、何度もため息や深呼吸を繰り返していた。
俺たちは何も口を挟まず、アセディアは決意を胸に話を続ける。
「でも、元は人が何よりも好きだったのはミストルだったのよ。
それを知ってた私は、彼女が正気に戻ったとき、好きなものまで失ってしまうのが耐えられなくて、彼女が嫉妬の力に飲まれて負の感情を表に引っ張り出されて人を襲っているのを止めなければと思って、私は彼女と戦う道を選んだ。
そして長い死闘の上、私が勝って彼女は正気を取り戻した。
けどミストルが正気に戻ったときに責めたのは理不尽な世界ではなく自分で、なんでそんなことができるのか私にはわからなかったけど、何にせよ彼女の中から嫉妬という心の大半を占めていた感情が小さくなり罪力に適合できなくなってしまった」
そしてその後もアセディアが歩んだ過去の詳細が語られる。
親友と戦うという決意はどれだけ辛いものなのか俺なんかには全く理解できなかった。
「そして、私とミストルは彼女が完全に罪に見放される前に継承者を探した。
それがあのインヴェンジュ。
けど私もミストルも彼女の本質が見えてなかったみたいね…」
「なにか打開策はないのか?
インヴェンジュはミストルさんと同じ魔法を使うんだろ?
完全なる不死身があるなんて思えないしな」
「ええ、あるわよ。
ミストルの不死身に限りなく近い力は、自分よりも魔力の弱く、嫉妬心を抱く者に噛みつき、魔力を寄生させる。その人を叩けば、彼女は不死身じゃなくなる。けど……」
無理だ。
アホみたいにいる人間からたった一人を選び叩くなど絶対に無理だと言い切れる。
嫉妬などという感情は誰もが持つものである。
俺も…アセディアもミレイナも。
「それなら、私に心当たりがあります」
「え?」
「ずっとなにかおかしいと思ってたんです。
なにか他人事みたいに…まるで表面上しか悲しんでいないような感覚がしていたんです。
しかもインヴェンジュはこれが遊びだと言っていました。
それなら可能性を0にしているわけがないんです」
今まで黙り込んでいたミレイナが重々しく口を開けて声を発した。
「一体、誰なのよ?」
その後、ミレイナが口にした者の名に驚きを隠せないが、なぜだかそれが偽りだとは思えなかった。
俺もどこかで彼女を疑っていたのかもしれないと今になって思う。
「なんで俺だけじゃなくてフェリスまでこんな目に…」
俺は心から消えない行き場のない憎しみを口にして二人を連れて走り出す。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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