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反逆王と嘘つき魔女の共同戦線  作者: サラト
1巻 純罪のジャンヌ
5/18

終章 リンダスの贖罪

プロフィールNo.1


氏名:イクス・ミリアード

年齢:18歳

性別:男

身長168 体重52

誕生日 12/19

武器:刀(白桜)

刀(白桜・白鷺)<結罪時>

狙撃銃(オーレリカ)<結罪時>


ミリアード国、第三王子。

現在は怠惰の魔女と契約。

魔法は現時点で炎牙暴食(クロムフレイム)のみ。


「ここは…」

 妙に静かな空間の中で目を覚ますと、俺はベッドの上で横たわっていることに気がつく。

 少し辺りを見渡していると、小さな音を立ててゆっくりと部屋のドアが開いた。

「あ、イクス起きたのね」

「俺は…」

 部屋に入ってきたのは、浴衣をきたアセディアだった。

「イラーとの戦闘で疲労が溜まったのよ。

ここは、(リー)(シャム)が運営する宿泊施設だからゆっくりしてなさい。

リンダスがお礼だって泊めてくれたのよ」

「そういえば、俺は胸を刺されて…」

今でも、思い出せば嫌な気分になるが傷を見ようと服を掻き分けて胸を確認するが、

そこには小さな傷さえなかった。

「依頼を受けるときにもらったワラ人形があんたを守ってくれたのよ。噂に聞いたことがあるわ。

所持者に対して一度だけ死の現実が降りかかったとき現実を歪ませるトリフェっていうアイテムね」

「そんなものが…。そういえば他のみんなは?」

「別の部屋にいるわ。

イラーとの戦闘で、私も力尽きてあんたと一緒に気を失ったの。心配してきてくれたミレイナが助けに来てくれたけど、そのとき私たちと一緒に戦闘不能になったイラーの姿はなかったみたい。

しかもミレイナちゃんを送った後、あなたの友達も姿を消したみたい。」

「そっか。

でもミレイナにお礼を言わないとな」

「隣の部屋にいるから、もう少し休んでから行きなさい。はい、これお水」

 ベッドに横たわっている身体をゆっくりと起こし、アセディアから紙コップに入った水を受け取る。

 やけに喉が渇いており、水を一気に飲み干し隣にあったテーブルに紙コップを置いた。

「ありがと」

「どういたしまして。

あんたの身体が癒えたらこの街を出るわよ。

さっきリンダスから伝言がきて、アティーレプス領の全てを統括している迷い猫に並ぶ五大ギルドの一つである鳥籠(アースケージ)のギルドマスター兼、アティーレプス国の第一王女様が誘拐されたらしいの」

「一体、誰がそんなことを」

「これまた筆頭らしいわ。

奴らは王女様を利用してなにか企んでるみたい。もちろん行くわよね?」

「ああ」

 アティーレプスという世界の三割を占める大国の王女がいなくなったとあれば、政治体制どころか、世界バランスが崩れかねない。

 今すぐにでも出発したいところではあるが、今は少しでも早く身体を癒すべきだろう。それに、今は出発しようとしてもアセディアに止められるだけだろう。

 ランドリア領の人たちが騒いでいないということは、王女が誘拐されたのは、まだ口外されていないようだ。

それなら、事態が悪化する前に収拾するべきだろう。

「それじゃあ私は、リンダスさんに呼ばれてるから行ってくるわね」

「他にも何かあったのか?」

「いや、わからないわ。突然呼ばれただけだし」

そう言って、ドアノブに手をかけたアセディアは小走りで部屋を出ていった。


 *****


「それで?私に何の用よ」

「君に聞きたいことがある。

君は怠惰の魔女でよかった?」

「っ!ふふふ、まあバレてるわけよね。

ミレイナに監視魔法をつけていたんだものね」

ミレイナと会ったときから彼女から感じる魔力の中に微かだが、彼女の本質とは違うものが含まれていたのは感じていた。

 私の正体を知ってるっていうことはつまりそういうことだろうと、心の中で疑問を片付けた。


「私もジャンヌの純罪については知っているからな。魔女が人間を嫌っていることくらいは知っているさ。

だが何故、君はあの男と行動している」

「私は別に人間が嫌いなわけじゃないわ。

だってミレイナちゃんみたいに地獄を見たって上を向き続けるほど強い子だっているの。

 割と人間も、捨てたもんじゃないと思ってるわ。

まあ他の魔女は嫌ってるみたいだけどね」

 彼女は家族を失っても戦いつづけ、今も彼女なりに戦い続けている。

 お母様が死んだとき、魔女である私が一年間も立ち上がれずにいたのに、ミレイナは停滞という言葉すら知らないかのように走り続けている。

 そんなあの子を守りたいから。

「そうか。君なら信用出来そうだ。

 君の力と信念を信じて一つお願いしていいか?」

 まさかギルドマスターに頼みごとをされるとは、長く生きて来たけど人生は何があるかわからないとつくづく思ってしまう。

「内容によるわね」

「ミレイナを君たちに任せてもいい?」

「それは、ミレイナちゃん次第よ。

 元々、あの子が私たちと一緒に来るというなら、私の全てをかけて守るつもりよ。けどね、今のままじゃ連れて行けないわ。貴方、私たちに隠し事してるわよね?」

「なんでそう思うの?」

「ギルドマスターである貴方が、いくら不幸な目にあった彼女に同情したとはいえ、いくらなんでも気にしすぎな気がするわ。しかも監視魔法を人間につけるのは違法よ?そんなことしたらいくらギルドマスターでも許されないと思うけど?

さらにクエストの受注者にトリフェを預けるなんて気が狂ってるとしか思えないわ。」

 この世界には筆頭や夕影(ゆうかげ)の炎の連中に家族を殺された人なんて数えきれないほどいる。

 その人たちの多くは、立ち直れずに自ら死を選ぶか、死人のように生き恥を晒しているものがほとんどで、その者たちにギルドマスターが手を差し伸べていないとまでは言わないが、数えきれないほどいる被害者全てを救えるほどギルドマスターも万能ではない。

 だが、ミレイナにかける愛情のようななにかは、他人に向けるようなものではない気がしていた。

「そりゃあ気づく…か。わかったよ。

君だけには知っておいてもらおうかしら」

 意を決したように大きく深呼吸をした彼女は、雰囲気を変えた。

「まあ答えを言えば、ミレイナは私の娘なんだ。

本名は、ミレイナ・レーンバイト」

「え、でもミレイナちゃんは家族はみんな殺されたって言ってたわよ?」

「いろいろ事情があるんだよ。

 私の夫は、ミレイナが六歳になったときにテロに巻き込まれて殺されてしまった。

 そのときよ、私が彼女を捨てたのは…」


 *****


 薄暗くなった夜道を一人で女性は、携帯端末を片手に家へ向かって歩いていた。

そんな女性の携帯端末に登録していない番号から電話が入った。女性は悩んだ末に応答を押して電話にでた。何度か「嘘ですよね」という言葉が女性の口から出るが、どうやら納得のいく返答は返ってきていないようだった。

電話の時間と比例して、青ざめていく彼女の表情。

そして彼女は走る速度を上げて、家へと向かう。


「ママ、おかえりー。パパは?」

 家の玄関に入って来た女性の足に飛びつく少女はあたりを見渡すが、そこには瞼を真っ赤に染めて腫らした女性の姿しかなかった。

「パパは、ちょっと遠いところに行ったのよ。もしかしたらもう会えないかもしれない」

「ミレイナも一緒にいく。

パパと会えないなんて嫌だよ」

 泣き出してしまった少女に母親は、その小さな身体を抱きしめることしかできなかった。

「私はなんて無力なの。

こんな私じゃ……」

 不幸を嘆く女性に抱かれた少女から、泣き声が消えた。

「ミレイナ?ミレイナ!」

 意識を失った少女を抱えて、家を出た女性の目からは涙が溢れかえっていた。


 真っ暗闇を数十分、止まることなく走り続け、一番近くにあった病院に向かった。

「リンダスさん、どうされたんですか!?」

 ぐったりとした少女を抱えた女性は、大量の汗と涙を流しながら病院に入り口を開けた。

「ミレイナが!」

「とりあえず奥のベッドに」

 リンダスと呼ばれた少女の母親は女性に言われた通り、廊下の奥でドアが開きっぱなしになっている部屋に入り、ベッドに少女を寝かせた。

 その後に続いた先ほどの女性に泣きつく少女の母親は、「助けて」と連呼するばかりで、状況を話せる状態ではなかった。


 そして一週間という時が流れ、少女は奇跡的に目を覚ました。

「ミレイナ、目を覚ましたのね」

 一週間の間つきっきりでベッドの横に座っていた母親は、目を覚ました少女の顔に優しく手をあてた。

「お姉さん…だぁ〜れ?」

「え…?」

 唖然とする母親は、少女が口にしたあまりに残酷な言葉に後ずさる。

「あ、ミレイナちゃん起きたのね」

 そんな状況も知らず、一人の魔導看護師が部屋の中に入る。だが、部屋に漂う異様な空気を感じ取り、母親に駆け寄って声をかけるが全く応答がない。

「どうしたんですか、リンダスさん」

「ミレイナが…私のこと…うわああああああ」

部屋中に彼女の悲痛な泣き声が鳴り響く。

 更に二日という時が流れ、リンダスはある決意を下す。いや、これは決意を下したというより、逃げ道を見つけた…だけだったのかもしれない。


「アイミさん、これからどうしなくちゃいけないのか…ミレイナのために私が出来ることが何なのかを見つけました」

 アイミと呼ばれた女性は少女が運ばれて来た時からずっと母親と少女の面倒を見てきた魔導看護師だった。

「え?」

「ミレイナを影から支えてあげたい。

今の私には、もうあの子と正面から向き合う勇気も力もない。だからアイミさん、母親としてミレイナを預かってくれませんか?」

「なっ!?なにを言ってるんですか」

「本気なんです。逃げだってことは私にもわかってます。けど、これが私の答えなんです」


 長い沈黙が訪れ、やがてアイミは固く閉ざされた口をゆっくりと開けた。

「わかりました。

でも一つだけ約束してください。

リンダスさんの中で本当の決意ができたら真実をあの子に教えてあげてください」

 このときリンダスは、不安と共に口から「はい」と短い返事を零した。

アイミは彼女の返事に疑いを隠せないものの、このままでは彼女が壊れてしまうと感じ、その後は何も言わなかった。


 *****


「そして、アイミさんにミレイナを引き取ってもらうことになった。

 そしてギルドマスターになった私は、ミレイナに真実を告げる決意をして、アイミに連絡を取った。けれど彼女たちは…」

「もういいわよ。

 貴方が貴方なりの答えを出せたなら凄いと思うわ。

私にはそれが正しいか、

間違っていたかなんてわからない。

 けどリンダスさん一つ聞きたいことがあるわ。

 貴方は、そのアイミさんとの約束を捨てたの?」

「捨てた訳じゃない。

けど怖いんだ、またあの子が壊れていく姿を見るのは…」

 予想通りの答えだ。

 私は母親になったことがないから、彼女の本当の苦しみはわからない。

 けれど一度失いかけても道はどうあれ、彼女は進む決意をした。

 それがどれだけ凄いことかは、少しだけ分かる気がする。

「けどあの子だって成長してるんだって今回の一件でわかった。だから私の中でもう一度、決心がついたら向き合うことにした」

「そう。それならいいわ。

貴方の決意が固まるまでは、私が責任を持って守ってあげる。誰が来ようとね」

「ありがとうアセディアさん」

「アセディアでいいわよ。

あと一つの聞かせてくれないかしら。あのトリフェをどこで手に入れたの?」

「嘆きの魔女って名乗った者に貰ったのよ。あなたたち魔女について聞いたのもそいつから」

「そう、ありがと」

  素っ気ない返事をした後に私はリンダスに背を向け、イクスたちの元へ戻ることにした。このとき結ばれた約束は未来永劫、守り抜くと私は何もかもに誓った。たとえ彼女がいつ決意を固めようと。

 だが最後に質問した回答に「嘆きの魔女」とリンダスが口にした途端、私は身体中の震えを抑えることができなかった。


*****


「さあ、いこうか」

「本当に、私なんかが付いて行ってもいいんですか?」

「ええ、もちろんよ。さっさと行くわよ。

 アティーレプスの王女様がお待ちよ」

 ミレイナを依頼に連れてくのは反対だったアセディアが、先日いきなり彼女をアティーレプス国に一緒に連れてきたいと言いだしたときは、耳を疑ったがこの調子ならやっていけそうだ。

「待ってろよ、今行くからなフェリス」

ここまで長かったですが

「反逆王と嘘つき魔女の共同戦線」

第1巻 純罪のジャンヌが終わりました。

第2巻もだいたいイメージは固まってるので

ぼちぼち書いていこうかなと思います。

それでは、純罪のジャンヌを最後まで読んでくださった方がいましたら、第2巻の方までよろしくお願いします。

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