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反逆王と嘘つき魔女の共同戦線  作者: サラト
3巻 罪の捕食者
17/18

四章 色付く世界に生まれた調和のクリスタル

「そう、魔女と契約した者がいると。

 それは少し厄介ね。いいわ、私も動く」

「悪いな、頼む」

 真っ暗で光が一切としてない部屋の中で、男女の声がする。

一つは先日、イクスたちを襲った男の声。

もう一つは……。


 *****


「私からできるのは、裏からの資金提供と他国の動向を調べるくらい」

「十分だわ。

戦力は申し分ないし、これから他の魔女にも接触していくつもりだし」

「そうだな。

指揮はフェリス、戦闘は俺たちだけでも十分だ」


 謎の襲撃から何事もなく一週間が過ぎ、俺とアセディアはリンダスを訪ね、提携を結ぼうとしていた。


「でも本当にいいの?

そんなことをしたら私たち以外の全人類を敵に回すわよ?」

「構いやしないわ」

「そう、ならいいけど」


 次の瞬間、かなり遠くからだが、魔女特有の禍々しい魔力が膨れ上がった。

 この魔力は間違いなくミレイナのものだ。

 まさか、前の男か!?


「アセディア、いくぞ」

「ええ。こんなことなら転移できる準備しとけばよかったわ」


 *****


「ミレイナ、避けて!」

「っ!?」

 私とフェリスさんは、イクスさんたちが帰って来るまでいつもの青空教室で授業をしていたが、フードをかぶった黒衣の何者かと先日、イクスさんたちを襲った細身の男に奇襲をかけられた。

先ほどからなんとか避けてはいるが、

不完全であってもかなりの力を手に入れられる結罪を発動し、フェリスさんの的確な指示と支援魔法があっても……互角以下。


「ほう、さすがは憤怒の魔女だな」

「まさか本当に魔女がもう一人いるなんてね」

 フェリスさんは戦闘向きではないため、前の私なら完全に押し切られてしまうが、イラーさんがくれたこの力のおかげで手数では押せている。

 私を囲むようにふわふわと浮いている五本の(つるぎ)と自分が両手に持つ劔が二本。

それを不慣れながらも、なんとか力として行使することに成功していた。

周りに浮かぶ劔たちは頭でどうして欲しいかを思い浮かべるだけで、それを的確に実行してくれる。

「ちっ、めんどくさいわね

一気にケリをつけてあげるわ。

朽ちろ!全てを守り通す金属よ、破砕強羅(ブレイクトーレイト)!」

 黒衣の女性が口にした詠唱文(エンスコート)と共に、彼女の短剣が発光し、異様な速度でこちらに襲いかかってきた。

「ダメ、捌き切れない。

 っ!…しまった!」


 反撃は全くできないものの、この魔力を感じてイクスたちが駆けつけるまでの時間を稼げればいいと思っていた私は、必死に守りを固めていたが、黒衣の女性が発動した魔法により浮いていた剣が全て砕かれてしまった。

 直後、女性は私に追撃をせずに私の横を走り抜けようとした。

「行かせない!」

 左手に持った劔を突き出し彼女の行く手を阻もうとしたが、もう一人の男による強襲を防ぐため左手を止む無く戻してしまった。


ダメだ、イクスさんたちがいる場所からは遠すぎる。

「ダメ、誰か助けてー」

 喉が潰れるほど叫んだ声は、何百もの鋭く尖った光の刃を放った何者かに届いた。

光の刃は黒衣の女性を襲い、身体中に切り傷を負わせた。


「え…ハルト…くん?」

「ここは僕に任せてください」

 黒衣の女性の前に舞い降りた金色(こんじき)の翼を生やしたハルト。

 前回、会った時とは雰囲気がかなり違う。

まるでなにかが吹っ切れたかのように。戦いを見届けたいが、もう意識が…。

 我慢しきれずに手放した意識は、少しずつ薄れていき、身体は力が抜き取られたようにその場で制御が効かなくなってしまう。

「よく頑張ったね」

 最後に聞こえたのはフェリスの声だった。

本当に情けない。

イラー、なんでこんな私に力を?

ねえ、教えてよ……。


 ******


(もう僕は迷わない。

姉を諦めたわけではない、力を諦めたわけではない、元の世界へ帰るのを諦めたわけではない。だけど今は、目の前を見るんだ!)


「だから今は!」


 そう叫んだハルトは腰に下げた剣を瞬時に抜き取り、黒衣の女性に突き立てる。

 フードで顔は見えないが、身体の特徴から女性だと推測できる。

イクスさんと似た力を持つミレイナさんであってもこの二人には勝てなかった。

フェリスさんの支援魔法で、いつもよりかなり身体が軽いし、反応速度も上がっている。

 けどこのままじゃ一人が精一杯だ。

でもやるしかないんだ!

そう思った瞬間、男がハルトの横を通過する。

「ダメだ、僕はまた失うのか…」


 何故だか、ハルトの顔を見てから明らかに黒衣の女性の動きが悪くなった。

 その隙を見逃してなるものかと言い表すように彼は、剣に大量の魔力を流し込んだ。

「駆け巡れ、風の剣よ。風剣審判(テンペスト)

 ハルトが左手に持つ剣が風によって包み込まれ魔力を帯びた。

そのまま剣を切っ先を黒衣の女性に向ける。

彼女は短剣でこちらの攻撃を防ごうとするが、ハルトの剣と彼女の短剣が衝突すると、短剣は無残に砕け散り、女性のフードが風で剥がれる。

 その瞬間、僕と彼女はお互い気の抜けた声を漏らしてしまう。

「嘘だろ…」

「っ!」

 ハルトの唖然とした顔から辛そうな顔で目を背ける彼女。だがそんな一瞬の隙で男は子供達に向けて魔法陣を展開し、詠唱文(エンスコート)を口にした。

 男が起動した魔法により発生した岩石が子供達を襲う。


「ダメー」

 フェリスは叫びながら子供達の元まで走り、自らの命を顧みずに盾になる。

骨が軋む音ともに血反吐を吐いたフェリスはその場で倒れ込む。

だが雨のように放たれた岩石はフェリスが倒れた後も続き、子供達の悲鳴を掻き消すように軽々しく命を奪っていく。

 そんな状況であってもハルトは驚きのあまり身動きが取れない。

「おい、撤退するぞ」

「え、ええ。わかってる」

 ハルトと向かい合ったまま動けずにいた黒髪の女性に男が撤退するよう促す。

男は、唯一その場に無傷で立ち竦むレミィを抱えて女性とともにその場から消える。


「なんでだよ…なんで花蓮姉さんがここに…」

 我に戻ったハルトが、瞼から涙とともに吐き出したその言葉は逃げ去った女性の顔を歪ませた。


 数秒後、女性たちとすれ違いでそこに駆けつけたイクスたちは、状況が理解できずにいたが、なによりもまだ息があったフェリスとミレイナの治療にあたった。レミィを除く、子供達は岩石に潰され無残な状態で即死している状況に拳を強く握るアセディアの姿があった。

 そう、人間としての姿…いや紛いなりにも人間という存在で生きていた彼らは死んだ。

だが、彼らは感染子である。

なにかしらの実験に使われていたため、一部の命は再び、動き始める…アセディアの妹がドラゴンになったように…。


「なにが起こってるんですか!?」

 驚愕の声をあげるハルトを守るように彼の前にイクスが立つ。

アセディアは応急処置を終えたミレイナとフェリスを抱えて、イクスたちの(もと)まで走った。

ほぼ一ヶ所に固まって死んでいた感染子。

 その中にいた緑髪のキリと呼ばれていた少女の身体がぶくぶくと泡のように膨れ上がり、違う生物へと変貌を始めた。


「変質よ。感染子は暴走したら個体によってよりけりだけど見た目すら人間じゃなくなるのよ」

「アセディア…」

「同情なんていらないわよ。でもこうなって自我がないようならもうどうしようもない。せめて殺してあげるべきよ」

 アセディアの過去を知っているイクスは心配そうな表情を浮かべるが、ミレイナとフェリスをハルトに預け、彼女は槍を召喚し臨戦態勢にはいる。

「ハルトくん、ミレイナたちを連れてここから逃げて。こいつは私たちだけで十分」

「だけど…」

「俺も同意見だ。今のハルトがあいつを殺せるとは思えない」

 その一言を受けて、ハルトは気づいたのだ。

あくまで自分たちの前に立つ獅子のような生物はかつて自分が助けたキリという少女であると。

「わかりました。二人は任せてください」

 ハルトは、ミレイナとフェリスを両手で抱えて翼を利用した低空飛行で木々を高速で掻き分けていった。


「ガアアアアアアァァァァァー」

「あれは完全に自我の欠片もないわね」

 呆れた表情を浮かべるアセディアだったが、妹と似たような境遇の少女を殺せるのかは、彼女自身ですら分からなかった。

「全てを喰らえ、炎牙暴食(クロムフレイム)!」

 イクスは結罪状態に入り、以前とは違い両足に炎牙暴食を纏わせた。

「イクス、ツーマンセルで私が後衛いくわ」

「了解。こんなこと聞くべきじゃないってわかってるが、本当にアセディアはあの子を殺せるのか?」

「わからない」

「わからないってお前…」

「それでも…やるしかないのよ」

 アセディアは無意識に自らの唇を噛み、血を流していた。

 だがその程度の痛みでは、彼女が今立っている現実から受ける心の痛みは霞むことすらない。そんなアセディアに、なにも声をかけられないイクス。

「早く殺して楽にしてあげましょ。

私の前に(ひざまつ)け、ゲイボルグ!ひれ伏せ、グングニル!」

 詠唱文(エンスコート)を口にして、一気に魔力を増大させたアセディアは、両手に槍を召喚する。そしてイクスに続いて結罪状態へと移行したアセディアは、キリと見合う形で立っていた。

「一気に決めさせてもらうわ。

審判の青き炎と紅蓮の赤き炎よ。災禍の名の(もと)(あまね)く力を燃やし尽くせ。業火(フレス)龍炎之雨(ブランティーニ)

 続けて詠唱文(エンスコート)を叫ぶアセディアは右手に持ったゲイボルグに魔力を集結させて槍先から光を放った。その光はキリを囲むように魔法陣を展開させ、青色と赤色が混じり合った無数の光線を放った。

それは獅子となったキリを貫き、無数の穴を開ける。

 とてつもない心象魔法にイクスは唖然としている。

「あれだけの心象。あいつ、どれだけの苦しみを負ってきたんだよ。」

 戦いが終わったと判断したアセディアが少し青ざめた顔でため息をついたが、無情にも獅子はスライム状に変化して再生を始めた。

「嘘…でしょ?ダメだよ…もうやめて」

 彼女が苦しみと戦っている間にも、イクスたちの前にいるキリは、さらに姿を変えて翼を生やし、鋭い牙を彼らに殺意を込めて見せつけた。

 一歩後ずさったアセディアの大きな隙を見逃さず、イクスにも反応できないほどの速度で獅子は容赦無くアセディアに鋭い爪を突き立てた。

辛うじて攻撃に反応できたアセディアは爪による斬撃を槍で防ぐが、踏ん張りきれずに勢いよく後方に吹き飛ばされ、そびえ立つ大木に背をぶつけた。

「ダメよ。私はそんなに強くなれないのよ。

何年…何十年…生きてきたところで私はずっと弱いまま。でも…今は守るものがある。

だから…こんなところで立ち止まってられないのよ」

 フラフラと立ち上がったアセディアはその場に落としてしまっていた槍を再び手に取る。

「やるしかないなら…」

イクスはアセディアの痛みからくる苦痛に表情を曇らせながら槍を持って立ち上がった彼女の前に立つ。

確実に壊れていく彼女の心。それを守るようにして立つイクスもまた、苦しみを抑えられずにいた。

生半可な力では再生してしまうことが目に見えていたイクスはより強い力を求めて、己の中に眠る力に呼びかけた。


 ******


「私は……一体なんなの?」

「俺にはわからない。けど君はどうありたいんだ?」

 真っ白な世界で立ち尽くすワンピースの少女とイクス。

どこまでも透き通って広がっているようで、なにも広がってない世界。

ここは高潔之白龍(ファフニール)の世界。


「私は、あなたの中にいてたくさんのことを知った。この姿になる前の記憶がなかった私だけど、今あなたの隣にいるアセディアっていう女の人が私の姉…なんだよね?」

「らしいな。けど、記憶がないなら今いる君と、アセディアの妹とは違う存在なのかもしれない。

それは、俺に分かることじゃないし、決めていいことじゃない。決めるのは君だよ」

「決めるのは…わたし…」

「あいつは多分、君と一緒にいたいんだと思うよ。

姉妹とかそんな関係は二の次で…」


 少女は無表情で全くもって悩んでいるようには見えなかったが、彼には少女が必死で戦っているように見えていた。少しの沈黙が少女の思考を加速させる。

 彼女がなにであるかではなく、なにでありたいか…そんなイクスの言葉を深く考える。


「ねぇ、私はどこから生まれてきたのかな?」

「それは人間なんだからお母さんがいてお父さんがいて初めて君が産まれたんだろ」

「私はまだ人間なのかな?」

「どうだろうな。それを決めるのも君自身だ。

でも、尊敬できる人から昔聞いたことがあるんだ。

見た目がどうであろうと、その者が人間であろうとするならば、人間であるって」

 誰がなんと言おうと、人間であり続けようとする者は人間なのだとイクスは思う。人間として生きることを諦めるまでは…。

「それなら、パパって呼んでいい?」

「え?」

 予想だにしなかった言葉に驚きを隠せないイクスだったが、そんなイクスを見て少女は言葉を付け足す。

「私にたくさんのことを教えてくれたあなたに、これからも…もっともっといろんなことを教えて欲しいから。それに、あなたは言ったよね。私とアセディアという人の妹は別の存在かもしれないって。

それなら私はそうありたい。

知らない誰かの記憶を求めるより、新しい記憶が欲しいから…そのために家族が欲しい。

ファリアって人の両親じゃなくて、私の両親が欲しい」

 真剣な眼差しをイクスに送る少女は、イクスは、そんな眼差しから彼女の中で固い決意が生まれていくのを感じた。

「わかった。それじゃあ、俺は君のことなんて呼んだらいいかな?」

「パパが決めていいよ。

私はファリア・フレドリカ・ニールセンであって、そうでない。これは自分で決めたこと。

確かにこの身体はファリアという子の物かもしれない。けどね、私の心はファリアじゃないから」

 胸に手を当てて、少女は笑みを浮かべてイクスを見つめる。

再び訪れた沈黙によって、今度はイクスの思考が加速し、必死に彼女の呼び名を探した。

 そして…世界が変わる…。


「それなら、君の名前は…レムリア。

レムリア・クリスタ」

「レムリア…クリスタ…」

 彼女はイクスの提案した名前を復唱すると、これまで見せなかったとびっきりの笑顔を浮かべた。

 それと同時に、何もなかった真っ白な世界に綺麗な花々が咲き誇り、辺りを色とりどりに染め上げた。

その色は、彼女の服や靴…髪までもを明るい青を基調に染め上げる。

「レムリア、俺に力を貸してくれ。助けたい人がいるんだ」

「わかってるよ。私もママを助けたい」

「マ……。さあ行こうか」

「うん!」


 イクスは、グッとなにかを押しとどめてレムリアに手を差し伸べる。

 そのとき、高潔之白龍…いや、レムリアがイクスに貸し与えていた力は、今までとは比べものにならないほど大きなものになる。想いや記憶と言った精神的エネルギーと元々の魔力適正による物理的エネルギーが力に変わるのが魔法。

それならこれは…本来、魔法のあるべき姿なのかもしれない。

まるで何かの枷が外れたようにイクスから莫大なエネルギーが溢れ出す。

 そして強い意志を持つイクスと、自らの固い意志でそれを支えようと決意したレムリアは、手を取り合って現実で目を覚ます。


 ******


 時は進んでいない。

 後ろには見え透いた意地を張ったアセディアと正面には獅子と化したキリ。

「いくよ、レムリア」

「「我ら、闘いに終焉を求める者なり。

ここに示す力は、闘いの象徴なり。

矛盾を孕むこれは、全ての(せい)を守り抜くために振われる力なり。

今ここに姿を見せろ、神龍(プリフェール)憑依(トリマー)」」

 イクスとレムリアの声が重なり合い、頭に浮かぶ新たな詠唱文(エンスコート)を詠み上げた。

 そして新たな存在が生まれる。

この度は17部目を読んでいただきありがとうございます。

今回の展開は個人的にかなり好きなものになりました。(後半)

ですが、パパにしようかお兄ちゃんにしようか、かなり考えましたが、パパに行き着きました。

これは自分に新しい名前を与えてくれたという流れからパパという呼び方にしました。


サブタイトルはレムリアの名前から来ています。

サブタイにしても、今回は自分で納得できるものになりましたし、長い時間がかかりましたが質を求められたという点ではよかったです。


これからも「反逆王と嘘つき魔女の共同戦線」をよろしくお願いします。


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