三章 忘れられた聖戦
たくさんの感想ありがとうございます。
一巻での固有名詞が多いことは自分でも薄々、気づいてましたが、対策ができずにいました。
っということでこの機会に
用語辞典を作成しようと思ってるのでよろしくお願いします。
「それでも俺たちは!」
目から血を流す少年は、ナニカと戦う。
それを何もできずに見上げる者たち。
「僕たちがっ!私たちがっ!俺たちが、自分たちで未来を切り開く!作られた未来じゃなく、決まった運命なんかじゃなく、俺たちは俺たちの意思で未来を掴む!!」
少年の声は世界に変革をもたらした。
かつて闘いが無くなれば誰も苦しまないからと奮闘した少年は、闘いも人間の形として受け入れ始めていた。
ボロボロの身体で全身から血を流しながら、なんとか保ち続けている意識と気力で闘っている。
「そんなものは自己満足だ!
なぜ貴様らは苦しい道を自ら選ぶ」
「確かに自己満足かもしれない。それでも俺たちは馬鹿なんだよ!
苦しみを知らなくちゃ、他人の苦しみさえ分からずに、本当の意味で支えあえない弱い存在なんだ。
だから、目を背けるわけにはいかないんだ」
少年は決意を口にして、ありったけの力を込めて刀を振るったが、それは空を斬る。
空中で闘っていた少年は、飛ぶ力さえ失い落下を始め、刀は形を維持できずに魔法霊粉となって消えていく。
これは何千年もの長い時間、語り継がれた歴史の1ページ。
かけがえのないものを守ろうとした彼らは永遠に語り継がれる歴史を作り上げ、それを伝えために生き続ける者。
限りなく続く人々の歴史は…消えた。
そして……。
*****
「ねー、なんでミレイナおねえちゃんはいないの?」
「ちょっとお仕事があってね。だから今日はお姉ちゃんと、こっちのお兄ちゃんと遊びましょ」
「わかった!あそぼー」
子供達と初めてあった時から、もう半年が経つ。
俺たちの計画も着々と進み、子供達もたくさんの知識をつけて成長しつつある。
今は、ミレイナとアセディアとは別れてリンダスの計らいで貸切にしてもらったビーチに来ている。俺とフェリスも水着に着替え、子供達と遊んでいた。
「悪いな、フェリス。付き合ってもらっちゃって」
「いいよ、イクスくんとこうして遊んでると昔のことを思い出すなぁ」
「そうだな」
俺は、フェリスの発言をきっかけに昔を思い出す。昔はよくフェリスとお城を脱出して好き放題やっていたものだ。
そういえば海に行ったこともあったか。
「それより、どう?この水着」
「ああ、似合ってると思うよ」
フェリスは黄色のビキニを着て、くるりと回転してみせた。
彼女の一つに結んだ金色の長い髪は、風に乗りながらゆらゆらと踊っていた。
俺は少しの間、フェリスに見惚れていると、横から異様に冷たい海水が飛んできた。
「フェリスせんせーとイクスおにいちゃんも、早く遊ぼーよー」
子供達のあまりに無邪気な姿に、俺とフェリスは顔を見合わせて笑みを浮かべた。
そんなフェリスが浮かべた笑みの可愛さに、少しだけ身体が熱くなるのを感じつつも、子供達の元へ向かった。
あの時、失ってしまったモノは帰らぬモノばかりではなかったと今は思う。
「さーて、遊ぼっかー」
「「「「おーー」」」」
子供達は拳を俺たちを照らす太陽に向かって突き上げ、遊び始めた。
俺は、適当に生成したネットとボールを使って一部の子供達とビーチバレーを始め、レスティは残りの子供達と泳いで遊び始めていた。
「いくぞーキリ」
「こいやーー」
俺が軽く上に放ってから手加減して打ったボールは、ゆっくりとキリに吸い込まれるように飛んでいく。
それをキリは片手で力一杯、打ち上げると他の子供達はボールに群がりだし、とてもバレーとは呼べない謎の競技が始まってしまった。
レスティは、砂を使って謎のセンスを発揮した子供達とよくわからないナニカを作っていた。
「せんせー、かき氷食べたい」
「それじゃあ、みんなあそこの屋台まで競争してこい!」
「おーーー」
あたりが少し暗くなって来た頃、未だあたりを燃やすように充満する暑さに耐え兼ねて、かき氷をねだりはじめたため、すぐそこにある屋台へ買いに行くことにした。
そして一斉に走り出した子供達の後を追うように、俺とフェリスはゆっくりと歩いていた。
「子供って凄いわね…体力が半端じゃない」
「ほんとだよ。手加減ってものを知らないし」
苦笑しながら話している俺たちに、屋台についた子供達が、早く来いと手を振っていた。
「あー、美味しかった。せんせーありがとー」
「それはよかったわねー」
「あ、ミレイナ先生とアセディアお姉ちゃんだ」
夕焼けが俺たちを照らす頃、アセディアとミレイナが水着姿で俺たちの下に着いた。
アセディアは真っ白のビキニでミレイナはピンク色のフリフリを着ていた。
そして手にはなにやら大きなビニール袋を持っており、かなり重そうで、アセディアはかなりお疲れの様子だった。
「はい、これ。バーベキューするためにいろいろ買い出ししてきたわよ」
「わー、すごーい」
「ほら、キリ。お礼は?」
「アセディアお姉ちゃん、ミレイナ先生ありがとーーー」
たくさんの子供達に飛びつかれたアセディアは、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっていたが、どこか嬉しそうだった。
最初は妹のことを思い出して辛くなってしまうのではないだろうかという心配も、今はない。
程なくしてバーベキューが始まり、俺は焼くことに専念し、出来上がりが待ちきれない子供たちの世話を他の三人がするといういつもの絵面だ。
あっという間になくなってしまった肉や野菜が入っていたパックなどを片付けていると、ミレイナと子供達が楽しそうにはしゃいでる姿が見えた。
「なんか良いわね、こういうの」
「そうだな」
「もうあの子達と会ってから半年にもなるのよね。ほんと早いものよ」
お互い、年寄りくさいことを口にしながら片付けを手伝ってくれるアセディアに心で感謝した。
「あそこにいるレムニットちゃんなんだけど、口調がほんと妹に似ててね、懐かしくなっちゃう。
あの子が大きくなって、どうなるのか最後まで見届けたいのよ」
アセディアは、ちょうどミレイナに飛びついていた白髪の少女を指差した。
確かに、高潔之白龍を呼び出したときに迷い込んだ不思議な空間で出会った白いワンピースをきた少女によく似ている。
あの子が本当にアセディアの妹ならだが…。
「かなり自分たちの魔力も隠せるようになってきたし、暴走もよっぽどすることはないだろうから、もう街に出ても感染子というのバレないだろうな」
「そう…ね」
このときやらなければならないことがあるのにもかかわらず、俺はこう思ってしまった。
こんな時間が永遠に続けばいいのに…っと。




