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反逆王と嘘つき魔女の共同戦線  作者: サラト
2巻 消えない炎
11/18

五章 十二人の魔女と十二星座

 寒い。

 重度の魔力欠乏からくる寒気は全身を侵食して震えさせるほどのものとなる。

 もう、こうして走ってるだけで精一杯であり、一度でも止まってしまったら、再び動き出すことは叶わないだろう。


「くっそ。どこにいるんだよ」


 塔が地面に着き崩壊するまで、残された時間はあと十分もない

 切り落とした塔の上層部を散策しているももの、全く終わる気配を見せない。

「さっき、こっちから来たから残るはこっちか。

 うおっ」

 まだ探していない方に向かうために角を曲がると、逆側からきた何者かに衝突してしまった。

「きゃっ」

 声が聞こえた方を見ると金髪の少女が尻餅をついていた。

「フェリス!?」

「え?まさかイクスくん」

 昔と変わっていない綺麗な金髪と人差し指につけられた王家の指輪。

 それを見て、すぐに少女がフェリスだと確信する。

 彼女もなにかを感じ取ったのか、不意に俺の名前を口にした。


「おい、貴様!逃げれるとでも思ってるのか?」

 フェリスの後ろから歩いてきた男は俺もよく知っていた。

「アルファリド・ツェペシュ」

「ほう、俺の名前を知っているとはな」


 筆頭魔法協会の中でも十八人しかいないトップクラスを表す黄金(こがね)色の刻印を刻むことが許された者の一人。

 まずい、こいつと戦う魔力は残ってない。

 また、失うのか。

 またなにも守れないのか。

 結局、俺は何年経っても無力なままなのか?


「くそったれー」

 アルファリドが大剣を俺たちに向かって振り下ろす。

 無駄だとわかっていても、身体が反応してフェリスを庇うため彼女に覆いかぶさる。

 だがいつまで経っても痛みがやってこない。

 聞こえて来たのは金属音と少女の声。


「さっさと逃げてよ!

 僕に勝ったやつがこんな奴に殺されたら、僕が恥ずかしいでしょ!」


 そこには、俺たちを庇うようにして斧でアルファリドの大剣を受け止めているインヴェンジュの姿があった。

先ほどまでのインヴェンジュとは少し雰囲気が変わっているが、そんなことを気にしてはいられない。

ただ何故、彼女が俺を助ける?

そんな疑問も後回しにするべきだと思いながらも、思わず彼女の名前を口にする。


「インヴェンジュ?」

「私のことはいいから、さっさと逃げろ!

 今のお前じゃ、足手纏いだって言ってるんだ。

 さっさとそいつを連れて消えろ」


「え?」

状況が掴めていないであろうフェリスの手を掴み、もう一度だけと身体に言い聞かせて走り出す。

「わるい」


 その声は、斧と大剣がぶつかり合う金属音によってかき消され、彼女には届かない。

 一度だけ、彼女らの方を振り向くが止まることは許されない。


 そして数分後、塔が崩落するのを外で、フェリスとともに見上げていた。

「ハァハァ、ほんとにイクスなの?」

「あ、ああ」

「よかったっ」


 フェリスは疲れ果てて座り込む俺の胸に顔を押し付けて涙を拭う。

「イクスが反逆行為をしたなんて私には、どうしても思えなかったの。

 でも連絡は全然取れないし、

もしかしてなにかあったんじゃないかと思って」

 俺の服を掴んで泣きじゃくるフェリスは、嗚咽を零しながら額を俺の胸に擦り付ける。

 俺は、彼女の頭を撫でながら未だ、音を立てて崩れ続けている塔を見る。

 インヴェンジュは無事であろうか。

 そんな疑問を浮かべた瞬間、塔の残骸が吹き飛び、一部がこちらに向かって来た。


「まずいっ」

 フェリスは防壁魔法を展開しようとするが、圧倒的に時間が足りないことは、俺も彼女もわかっている。

 だが瓦礫は寸前とところで真っ二つになり、左右へ別れて飛んでいく。


「アセディア!」

「全く、無茶ばっかりするんだから。

 助けに来てあげたわよ」

「イクス、この方は?」

「それはあとで話す。フェリスの妹のことも」

 俺の言葉を聞いてフェリスは、ハッとした表情を浮かべる。

「そういえば、私はミュルトに襲われて…」

「大丈夫よ。

彼女は魔法みたいなもので操られていただけだから。

 小さい憎悪を表に引っ張り出されただけで、今はそれも解けて眠ってる。

 起きるときには隣にいてあげなさい」


「そう…ですか。わかりました」

「それじゃあ戻るわよ」

「ちょっと待ってくれ、インヴェンジュが」


 俺は、崩れ切った塔の方を指差してアセディアを引き止める。

 彼女はため息をつき、一人では立てないほどに疲労した俺に手を差し伸べてきた。


「あの子はまだ地下層で誰かと戦ってる。

 さっき、残骸が飛んで来たのも、そのせい」

「アルファリドか…」

 恐らく倒壊する前にどちらかが地下へと身を引くことで無事に済んだのであろう。

「それに魔女はそう簡単に死なないわ。

 安心しなさい、保証できる。

 だからさっさと戻りましょ。

 病人を二人も置いて来てて心配なのよ」


 *****


 結罪のもう一つの能力として契約している者同士が触れていれば魔力を共有できるとアセディアに教えられ、俺は少しだけ魔力を分けてもらう事でまともに移動ができる程度までは回復した。

 そしてミレイナとミュルトの下まで戻った俺たちは、彼女らが目覚めるのを待つことにした。



 しばらく時間が経ち、あたりはすっかり暗くなった頃にミレイナが先に目を覚まし、その数分後にミュルトも目を覚ました。

 そしてこれまでの状況を説明し終わった後、

 ミュルトのことはフェリスに任せて、俺たちは部屋を後にした。


 *****


 ミュルトは大粒の涙を瞼から零し始める。


「私が、お姉様に、そんな、ことを……。

 我欲に溺れて、私は…私は」

 自分を責める彼女を見て、私はなにを考えるよりも先に彼女のことを抱きしめる。

 強く、強く、もう離さないと自分の心を表すのように。

「お、ねえ、さま?」

「ごめんね、ごめんねミュルト。

 今回は、あなたの痛みに気づけなかった私に非がある。

 あんなに一緒にいたのに、妹の気持ちすらわからないなんてダメなお姉ちゃんよね」

「そ、そんな、こ、と…」

「貴方は私が見てる!

 だから誰も見てくれないなんて言わないで。

 私は貴方のことが…ミュルト・アティーレプスが心から大好きだよ。

 ミュルトはいつも私を助けてくれて、見ていてくれて、支えてくれて本当に助かってる。

 だから…だから!」


 いつも私は妹に助けてもらってばかりで本当にダメな姉だと思っていた。

 お互いが気持ちを理解していればこんなことにはならなかったのに…そう思う私は自分の想いを必死に彼女に伝えようとする。

 大好きだと何回言ってもこの気持ちの本当の大きさは伝わらないと思ったからたった一度だけ、その言葉を口にした。

 一度だけに想いの全てを込めて…。


「私も大好きだよ、お姉ちゃんのこと」

「お姉様よりも千倍いい響きね。さて少し落ち着いたらイクスたちを入れてあげましょう。

気を遣わせちゃったみたいだし」

「うん、お姉ちゃん」

私たちはとびっきりの笑顔を見せ合い、イクス達を部屋に招き入れた。


 *****


 フェリスたちの呼びかけで宿泊施設の部屋に戻った俺たちは、フェリスとミュルトに、アセディアたちを紹介し、魔女や筆頭について説明した。

 そのあとミュルトが話すことがあると言って、俺たちを呼び止めた。


「どうしたんだ?」

「今回、筆頭がお姉ちゃんをさらった理由を話しておきたいの」


 筆頭を倒し続け、塔を盛大に壊したため調べようがないと思っていたが、少なからず気になっていたワードをミュルトが口にした。


「今回、筆頭たちはお姉ちゃんの粒子(ジェクリション)保存(インプルーム)、通称ジェインを目的にしてたみたいなんです」

「ジェインって私が使う、万物を粒子化する魔法のこと?」

「そうだよ、お姉ちゃん。

筆頭は粒子保存をジェインって呼んでて、あの魔法は万物を粒子化してそのモノの情報を粒子の内に保存する魔法。

それを使って筆頭は魔法式を発動ギリギリで留めて、通常魔力タンクとして使う杖に貯めることで瞬時に発動することができる研究を行っていたの。

これなら使用者を選ばないから、今回の実験を止めることができなければ、筆頭の戦力はとてつもないことになっていたと思います」


あんなにもランクが低い筆頭が街に大穴を開けられたのも、杖のおかげというわけか。

試作品ができていると考えるとこれからも障害になりそうだな。

 昔、彼女に粒子保存を見せてもらったことがあるがかなり詠唱文(エンスコート)が長くなっているものの、物体を粒子化し、再び粒子に保存された情報を使って元の形に戻すことまでできる。

「今回は実験段階で食い止めることができましたが、またお姉ちゃんが狙われることは多いと思います」

「それならフェリスちゃんも私たちとこればいいじゃない」

「でも…」

 フェリスは悲しそうに俯く。

 やっと分かり合えた妹と、もう一度別れなくてはいけないというのが辛いのだろう。


「お姉ちゃん、行ってきてよ。私は大丈夫だから。

お母さんもわかってくれる」

「けど、ミュルトさんを人質に私たちをおびき寄せるという手に筆頭が出た場合どうするんですか」


 ミレイナのもっともな意見に、全員が言葉を失う。

 ミュルトが人質に取られれば、まず間違いなく俺たちはどんな罠があっても助けに行くだろう。

相手にもそのくらいのことはわかっているはずである。

 ただここにフェリスを残したからと言って状況が変わるわけでもなく、俺たちがいつでも駆けつけられる訳ではない。


「それなら大丈夫だよ。

 僕がミュルトのこと守ってあげるから」

 声が聞こえてきた方を見ると、傷だらけのインヴェンジュがドアを開けて入ってきていた。

 それを見て俺が咄嗟に彼女を支えて、ミレイナが寝ていたベットに座らせた。

「悪いね、あの男を逃しちゃった」

「どういう風の吹き回し?

貴方がこんな場所に来るなんて。

それに前に会った時とずいぶんイメージが違うけど」

 アセディアが棘のある言葉でインヴェンジュを攻撃するが、特に気にも止めずに彼女は再び話を始めた。


「実は私、アセディアとかミレイナとは初めましてなんだ。

じゃあとりあえず自己紹介をさせてもらうわね、私はインヴェンジュの姉、ケレン・ヒデンリー。

そして47年前の住人」


 全員が言葉を失いアセディアを除いて皆、唖然だった。

 インヴェンジュの姉と言いケレンという新たな名を名乗った彼女。

 状況が誰も掴めていないままに彼女は話を続けていく。

 だが、アセディアだけは俯いたままで辛そうな雰囲気だけが感じられた。


「これを説明するためにはもう少し魔女について君らに知ってもらわないといけない。

 話していいかい?」

「ごめんなさい。

私は席を外してもいいかしら?」

「わかったよ」

 アセディアは気分が優れないようで、部屋を後にした。彼女のことは気になるが、今は話を聞くべきだと判断して、追いかけようとあげた腰を再び下ろすことにした。


「七人の魔女。

それは君たちが知っての通り、ジャンヌ・オルバートから罪力を受け継いだ者のこと指す。

そしてジャンヌ・オルバートから直接、罪力を受け継いだものを第一継承者と言い、その第一継承者から罪力を受け継いだ者を第二継承者という。まあそのままだよ」

「第一継承者はイラーやアセディアで、第二継承者はミレイナやインヴェンジュを指すのか」


この前にも継承者というワードが会話に登場し、それについて喋ったのを思い出しほぼ確信に近いことを口にしたつもりだったがケレンはゆっくりと首を振った。

「ミレイナさんはまだ第二継承者じゃない。

 魔女になる条件は細かい条件もあるけど大きな条件として二つ挙げられるわ。

一つは、罪力を持つ者が心からその者に託せると思い、受け取る側が心から欲すること。

これは達成してると思う。

貴方が強い力を欲することで一部の力に目覚めたのがその証拠。

だけど二つ目が重要。

二つ目の条件は、受け取る者の最愛のモノを捧げること」

「っ!?」

 ここまでの話を聞いてようやくアセディアが部屋を出て言った理由がわかった。

 すぐにでも追いかけようと思ったが、もっと彼女ら…魔女について知るべきだと思った。


「インヴェンジュは、もともと大人しい子だったんだけど、嫉妬心が深めだったんだ。

 けど彼女はそれをうまく心に閉じ込めて、周りとうまく付き合っていた。

 これはとても凄いことなんだよ。

 それをミストルさんに認められて魔女の話を聞かされた。

 その頃、私たちの母親は石砕病(せきさいびょう)という時間とともに身体が石化して壊れて行く病気にかかっていたんだ」

 先ほどまで堂々と喋っていたケレンは、自分らのことを語るとなると、流石に声が暗くなる。

 ミレイナとフェリス、ミュルトは口を挟まず、黙って彼女の話を聞き続けるていた。


「そしてインヴェンジュ…インジュは、母親を助ける力を求めて嫉妬の力を手に入れた。

そして双子座(ジェミニ)に代償を持ちかけられ、私が対象になった」


「それじゃあ、なんで君は存在している?」

「私の話、聞いてなかったの?

私は捧げると言っただけで死ぬわけじゃない。

ジェミニが代償として要求したのは私の肉体。

インジュは嬉しいことに代償を支払うのを躊躇った。

けど私がインジュに代償払って母親を助けるようにと言い聞かせた。あの時、母親が死んでいたら私たちは死んでいたと思うからね。

一人でも多く生き残るべきと思ったんだよ。

けど私は今こうしてインジュの中で生きている。

どうやら嫉妬の魔女は二重人格になるみたいだ」


「じゃあアセディアは?」

「知らないわ。

 けど黄道十二星座って知ってるかしら?」

「ああ」

 牡羊座(アリエス)魚座(ピクシス)からなる黄道に十三星座あるうちの蛇遣(オフィウ)(クス)を除いた星座のことである。

「黄道十二星座と魔女たちはそれぞれ組み合わさっている。

そして七人の魔女以外にも五人だけ魔女がいる。

憂鬱(ゆううつ)虚飾(きょしょく)羨望(せんぼう)冒瀆(ぼうとく)そして忘恩(ぼうおん)

そしてそれを合わせた十二人の魔女。

もう察しはついてると思うけど嫉妬に該当するのは双子座(ジェミニ)

俺が残念そうな顔を浮かべるとそれを見たケレンが大きくため息をつき、仕方なさそうに再び話を始めた。

 確か、怠惰は獅子座(レオ)…残念だけど、獅子座(レオ)が彼女にどんな代償を支払わせたのかはわからない。それは怠惰の魔女だけが知ることだから」


 その後も話は続き、憂鬱、虚飾、羨望、冒瀆、忘恩を亡罪(ぼうざい)の魔女と呼ぶことや、アセディアたちを主罪(しゅざい)の魔女を呼ぶこと、そして亡罪は主罪に劣っていること。けれどその罪も、他でもないジャンヌから生まれたこと。

 やがて話は終わり、俺は何をするよりも先に部屋を出てアセディアを探す。


 そして宿泊施設を出て、裏手にある枯山水に似た庭の近くにあるベンチに一人座っているアセディアを見つけた。

 アセディアはこちらの足音に気づいてこちらを確認すると、再び俯く。

 俺はそっと彼女の隣に腰を下ろす。


「魔女の代償について聞いてしまったみたいね。

イクス、ごめんね。私はずっと嘘をついてた。

貴方に接触したのは勿論、イラーを止めて欲しかったのもある。けど本題は別にあったの」

「別にいいさ。嘘くらい誰だってつく。

でも理由を聞かせてくれないか?」

高潔之白龍(ファフニール)

この名に聞き覚えは?」

「っ!?」


 アセディアに思いがけない名を口にされ、思わず息を飲む。高潔之白龍に俺が出会ったとき、奴はこう言っていたのだ。

「初めて他の生物に知覚された…」っと。

 その言葉に嘘偽りは感じられなかった。

ならば何故、高潔之白龍を知っている?


 そんな疑問は彼女が次に発した言葉で思いがけぬ形で明らかになる。

「私の代償は妹。

名前はファリア・フレドリカ・ニールセン。

そしてファリアの身に起こったものは…」


やっと魔女の正体について紹介できます。

もう少しファリアの正体は引っ張りたかったですが、次で出すことにしました。

一巻に比べると二巻はだいぶ長くなってしまいましたね。

ですが次で終章となるのでよろしくお願いします。

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