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反逆王と嘘つき魔女の共同戦線  作者: サラト
2巻 消えない炎
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四章 高潔の龍と穢れなき誇り

「君は自分の力に振り回されてるんじゃないのか!」

「私が?馬鹿じゃないの!

 この力はミストルがくれた私のための力。

 貴方にはこの快楽がわからないのねぇ」

「わかりたくもないさ。

 それでも俺は、アセディアが友達として信頼したミストルさんが君を選んだのは間違いじゃないって信じたいから!」


 彼女の小さな身体からは想像もできないほどの力が込められた斧が次々と俺の横をかすめていく。

 白桜を使って、なんとか受け流しながら反撃するも全くと言っていいほど戦況が変化しない。


「まだ君が不死身状態にある場面で使いたくはなかったけど、手を抜くわけにも行かないみたいだから」

 そう覚悟を決めた瞬間、インヴェンジュは斧を落とし、胸を押さえながらその場に跪いた。

 チッ、意外とあいつらも頭が回るみたいね。

「まさかあの魔力…憤怒まで従えてるなんて予想外だったけど、いい余興になったわ」

「あいつらがやってくれたみたいだな。

 さて、子供の遊びに付き合うのはここまでにさせてもらうぞ」

 冷たい殺気と共に、白桜をインヴェンジュにむける。


「私もう二〇〇歳くらいになるし、貴方より年上なんだけど」


「精神年齢の話をしてるんだよ。

 時間もないみたいだし本気で行かせてもらう!」


一度、軽く深呼吸して覚悟を決める。


「天界を統括するその気高き存在で、全ての道を照らし、全ての者に機を与え、

黒影の(くう)に牙を立てろ!

 高潔之白龍(ファフニール)!」

 三年前に習得した高潔之白龍の憑依装着は使ったことがなかったためどうなってしまうかは俺にもわからかなったが、ここでリスクを恐れていたら勝てるわけがない。


他種族を自分の身に宿す憑依装着は、失敗すればお互いが死んでしまうほどのものだと言うが、実際のところは俺にもわからない。

 だが使わなかったのは、必要とされる場面がこれまでなかっただけであり、惜しんでいたわけではない。

 これは本当に必要になったときにしか発動してはいけないとある者から言われているからだ。

 虹色の光が三つの大きな輪になり俺を取り囲むと、辺り一面に光を放った。


 *****


 目を開けたときに広がっていたのは真っ白で不思議な空間だった。

 目の前には背景とほぼど同化した真っ白のワンピースを着た少女がいた。


「我の力を必要とするのか」

「ああ」

「汝は、何を成す為に我の力を欲す」

「目の前に守りたい命があるんだ!

 絶対に失ってはいけないものが、

 大切な仲間や、俺に力を貸してくれた人たちの為に負けるわけにはいかないんだよ。

 そして今の俺の力じゃ、彼女は助けられない。

 だから!!」


 俺が彼女と言ったのはインヴェンジュのことだ。

 彼女だって被害者なのかも知れないと俺は思えてしまうのだ。

 嫉妬なんて誰の心にもある感情だし、普通の女の子として暮らしていたであろう彼女が理由はどうあれミストルに選ばれたことで人生が変わってしまったのだ。

 元がどんな子であれ、被害者に変わりはない。


「いいだろう。我が持つ力の一部を汝に貸し与える。

 これは全てを薙ぎ払う無双の一振りだ」


 *****


 光は少年の身体へと収束し、一人の新たなる存在を作り上げる。

  先ほどまでそこに存在していた一人の少年と限りなく姿は似ているが、少し大人びた雰囲気を纏っており、首には白を基調として紫色の模様が刻まれた長いマフラーが巻かれている。


 右頬から首の方にかけて、まるで神話に登場する(ドラゴン)の鱗のようになっていた。

 背中には透き通るほど綺麗だが、どこか力強ささえ感じる四枚の羽、

 そして右手に持つのはまるで灰と黒の剣が糸のように編まれた傷だらけの一本の剣と、左手には結罪前と同じ姿の白桜だった。


 *****


「ありがとう高潔之白龍(ファフニール)

もう何も失わないってそう決めたから、俺はこの力で戦い抜いてやる!」

「姿をコロコロ変えて忙しいやつね。

 でもただの人間が、魔女である私に勝てるはずないのってことを教えてあげるわ」


 無駄な感情を心の奥深くに沈ませるように、今必要な感情だけを呼び起こす。

 今、必要とされるのは怒りでも正義感でもない。

 沈ませた感情は浮かんでこないように何かがそれを捕まえる。

 恐らく、これも高潔之白龍の手助けだろう。

目を閉じて精神を統一し、集中に集中を重ね続ける。


 インヴェンジュが斧を振り回しても、俺にはかすりもしない。

 避けようと思考を働かせる前に、もう既に体が反応して避けているのだ。

 そして余裕を持って攻撃を避けたタイミングで、俺は初めて彼女の斧に軽く剣を振るう。

 初めて振るうその剣は、斧をまるで(くう)を切るかのようにすんなりと切り落とした。


「なっ!?なにをしたのよ!」


 彼女は驚愕の声を俺に投げかけるが、それに対して返答はしない。

 何故なら既に、俺はインヴェンジュの背後に回り込んでいるからだ。

白桜に雷撃魔法を乗せて峰で攻撃することで彼女を気絶させ、もう片方の剣を持った腕で抱え込んだ。

「お疲れ様、インヴェンジュ」

  ゆっくり地面に寝かせて正教連合塔に侵入した。

 彼女を置いて行くのは本意ではないが、今はそれに構ってる暇など一切ないのだ。


 *****


 どれだけ走ったであろうか、どれだけの人を斬ってきただろうか。

 高潔之白龍(ファフニール)は役目を終えて、もう俺の呼びかけには応じない。

 結罪状態にもかなり限界がきている。

 どれだけ走ってもフェリスの姿はない。


「塔がこんな高いわけがない。

幻術系か、転移魔法によるループか…。

いずれにせよ、こうすれば!」

 意を決して、俺は残った力のほとんどを込めて体を中心に白桜を一回転させる。

 白桜から放たれた一撃で塔は斜めに切り込みが入り、崩落し始める。

「アセディアーーーーーーー」


 *****


「無理言ってくれるわね」

 ミュルトとミナを寝かせたベットの前で座っていた私は膝に手をついて仕方なく立ち上がる。

 イクスが助けを求めているのだ。

 助け方も知っていて助けない理由などないのだから、私は一切の躊躇いを見せずに魔法陣を展開する。


「駆けろ!生きとし生ける者の時よ。

 その誇り高き存在をかけて歩みを止めるな、

 生命(アリファルド)加速(ブルーフェス)


 イクスが正教連合塔の周辺にあらかじめ設置したポインターを中心に異空間を広げる。

その中にいる生命のみの時間を加速させる。

あとは任せるわよイクス。

 今の貴方ならもうその手に握った物も、欲した物も零れ落ちないようにする術をいくつも持ってるはずよ。

 そのための手助けだったら私はいくらでも手を貸して上げる。


 私のかけがえのない者を守ってくれた貴方にできるのはこれくらいだから……。

「ファリア・フレドリカ・ニールセン…か」


 *****


 塔が崩落する刹那、地面スレスレのところで塔は崩壊をやめた。


 これはアセディアの生命加速だろう。

時が止まったわけではない。

相手が、この状況を理解する前にフェリスを連れて脱出しなければ。

 そして疲労で動こうとしない身体を無理やり突き動かし足を止めずに走り続ける。

次回予告です。

フェリスの元に向かうイクスは、魔力のほとんどを失った状態で進み続ける。

そしてフェリスの元へたどり着いたイクスだったが、彼の前に立ちはだかるには筆頭魔法協会のトップクラスである黄金色の紋章が刻まれた魔導士だった。

だがそこに駆けつける一人の少女。

そして戦いは終焉を迎え、崩れ去る正教連合塔。

果たしてイクスとフェリスは無事、脱出することができるのか。

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