序章 無力な災禍
ある国の幼き王族の少年は、
暗殺者に一つの問いを投げかけられた。
「この女以外の貴国民、全ての命と、この女の命、どちらを捨てる。
助けてやれるのはどちらかだけだ」と。
暗殺者がナイフを突き立てた先は、当時の第三王子であった少年が一番大切に思っていた少女の首元だった。
少女は必死に、「私を殺して」と少年に訴えかけるが、彼の心には一切として届くことはなかった。
「どちらも守りたい」と思うことはできても、口にすることができても、実行する力がないのであれば、そんな思いや言葉など何の意味も持たない。無力とはもっとも罪だと彼は、心の奥に何度も何度も刻み込んだ。
「僕が選ぶのは……」
そしてこの日、世界に四つある領域の一つである、ランドリア領の端に立国していたミリアード国は滅亡し、第三王子イクス・ミリアードが自国の民を虐殺するために、闇ギルドを雇った罪で八歳という若さにして国家反逆者としてその名が世界に晒されることとなった。
その後、十年という長い月日が流れることによって人々から少しずつミリアード国についての記憶が薄れてきた頃、イクス・ミリアードは魔女と名乗る者と対面し、これによって世界は一つの転機を迎えることになった。