第7話
「うーん…どうしよう」
土曜日の昼、リノはショーウィンドウの前で悩んでいた。
その時、後ろから声をかけられた。
「あれ?リノ?」
振り返ると、そこには零士がいた。
「れ…零士さん!?」
「やっぱリノやったわ。こんなところで会うなんて奇偶やな、何しとんの?」
「実は…もうすぐ、兄の誕生日なんですけど、プレゼントを何にすればいいのか、わからないんですよね…」
苦笑いを浮かべるリノに零士は提案した。
「なら、一緒に選びに行くか?」
「え?いいんですか!?」
「ええって、今日バイト休みで暇やったし。
リノさえ良ければな」
こうして、二人は誕生日プレゼントを選びに向かった。
「つか、お前、兄貴おったんやな。ひとりっ子やと思った」
「はい、今年、大学に入ったばっかりなんです」
「ほー、そうなんか」
「零士さんは兄弟はいるんですか?」
「あー、うちは兄貴と姉貴がおるな。二人共家を出て、独り暮らししてる」
話していると、一人の女性が零士に近付いてきた。
「零士じゃん!こんなところで会うなんて奇偶ね!」
「あの、この人は…?」
「あー、この人が今、話した、姉のサツキや。姉貴、こいつは…」
「あらー!!何この子!可愛い!零士!こんな可愛い彼女がいるなら早く紹介してよ!」
零士の姉、サツキはリノに抱きついた。リノは突然の出来ごとで身体が硬直した。
「姉貴!リノが固まっとる!離してやったれ!あと、彼女じゃなくて友達の後輩!」
「え?あー!ごめん、ごめん!可愛かったからつい…大丈夫?えっと…」
「緋川リノです。明るくて積極的なお姉さんですね!」
「ありがとう!やだ!めっちゃいい後輩じゃん!」
「姉貴、俺ら行くとこあるから!じゃあな!」
そう言って、零士はリノの腕を掴み走り出した。
「はぁ、あいつに捕まると話が長いからな…悪かったな。うちの姉貴が」
「いえ、平気です!」
突然、リノのお腹が鳴った
「え?!…すみません…お腹空きました…」
「あはは!そういや、もう昼やな。その辺で飯食うか」
「ちょ…笑わなくてもいいじゃないですか!
零士さん!」
「いや、突然鳴るから…って、リノ!悪かった!飯奢るから、叩くなって!」
昼食を済ませ、二人は再び外を歩いた。
「思ったんやけど、プレゼント、文房具とかどうよ?リノの兄貴、大学生やから、よく使うと思うし」
「それいいですね!さっそく行きましょう!」
その時、零士とリノの前に十賀が現れた。
「あ…あの人」
「こんにちは、緋川リノさんに黒田零士さん」
「こんにちは、この前はどうも」
零士はリノを下がらせた。リノは不安なのか、零士の服を掴んで、隠れた。
「悪いけど、あんたに構ってる暇はない。そこを通してくれへんか?」
「そんなに警戒しなくてもよくない?あなたってけっこう臆病な人なのね」
「なんとでも言え。人の過去が見えるとか言われたら、警戒もしたくなるで」
「へぇ、そうなの」
その時、リノが服を引っ張り、零士に言った。
「零士さん!あの人の目が赤い!零士さんの過去見られてますよ!」
「え…?嘘やろ…!?」
「正解!あなたの過去見させてもらったわ」
十賀は零士に近づき、こう言った。
「…あなた、劣等感を感じているわね。万屋 色っていう人に」
十賀の一言に零士はわずかに動揺した。
「助けた友達がまさか、自分よりも優れた人間だなんて思わないわよね。本当は嫉妬しているんじゃないの?」
「あの、零士さん?」
「あぁ、確かに俺は、あいつに…色に嫉妬していた」
「ねえ、そんな友達に勝ちたいと思わ…」
「けど、それは過去の話や」
「え?」
「確かに、俺は色に嫉妬していた。あいつの方がいろいろ優れていたし、いつか、あいつに勝ちたいって考えていたことがあった」
「けど、いつの間にか、俺はあいつに嫉妬しなくなった。だって、嫉妬してもあいつに勝てるわけないって思ったし、そう考えたら、なんかどうでもよくなった」
「そう…その言葉に嘘はないようね」
零士の言葉に対し、少し残念な表情を浮かべた十賀は、その場を立ち去った。
「零士さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、なんともない。
どうやら、あいつ、俺を洗脳しようとしてたみたいやな」
「洗脳…?!」
「今までの行動を見る限り、過去を見る。そして、相手に不利になるような事を言って絶望的にさせて、自分の方へ誘い込む。これがあいつのやり方や」
「そんな…」
暗い顔するリノに零士は少し乱暴にリノの頭を撫でた。
「ちょっ…零士さん?!」
「そんな暗い顔すんな!さ、プレゼント選び、再開するか!」
「そうですね!行きましょう!」
そう言い、二人は再び歩き出した。