第6話
アオイを部屋に移動させ、シンは自分の過去を話し始めた。
「俺は小学生の時、家族で出かけていて迷子になったんだ。親を探していたら、いつの間にか、知らない場所にいた」
「目の前には知らない大人が俺を囲んでいた。その時に言われた、“お前は神の加護を受ける資格がある”って」
「それ聞いたことある。一人でいた子供を拐う宗教団体の事件。……まさか、シン、お前は…?!」
「あぁ、その通りだよ。零兄、俺は小学生の時、その宗教団体に拐われたんだ」
「けど、結局、団体のトップが警察に逮捕されたんじゃなかったか?」
「そうだ。トップの人間の逮捕をきっかけに拐われた子供はそれぞれの親の所に帰った。でも、それはほんの一部の子供だった…」
「残りの子供は施設に入った。俺もその施設にいたんだ。そして、高校生になった時、俺は施設を出た。今はアパートで一人で暮らしている」
シンが話している間、静かに聞いていた色はシンに質問をなげかけた。
「シン、そんな辛い過去を何故隠そうとしてたんですか?」
「別に隠そうとしてたわけじゃない。ただ、忘れたかった。それだけだったんだ…」
その時、リノの目から涙が流れた。
「え?…リノ…どうした?!」
「ごめんね…シンにそんな辛い過去があるなんて知らなかった…話してくれてありがとう」
「いや、俺も悪かった…参ったな。泣かせるつもりはなかったんだけど…」
過去を聞いて、零士はひとつの疑問が思い浮かんだ。
「しかし、気になるな。何で十賀はシンの過去を知ってたんやろか?」
「わからない。わかることはただ、あの時、あの人の目が赤くなったんだ。その後はよく覚えていないけど」
「目が赤くなった…目か…」
「色兄?」
「いや、なんでもない」
シン達を帰らせたあと、部屋からアオイと優子が出てきた。
「話は終わったの?万屋君」
「終わりました。ありがとうございます」
「…それにしても、本当に謎ね。十賀叶子って人は」
「確かに、見ず知らずの人の過去を見破ったりするのは普通は出来ないことです。だけど、彼女はそれが出来る。もう少し調べる必要がありますね」
「私も彼女について調べるわ。何がわかったら、零士を通して、あなたに知らせるわね」
「はい、お願いします。優子さん」
事務所から出た優子は携帯を取りだし、電話をかけた。
「もしもし、優一?これから行くわ。今、終わったところなのよ」
電話を切り、優子は急いでどこかへ向かった。
そして、この電話を最後に優子は姿を消した。
翌日、一人の青年が何でも屋を訪ねた。
「お久しぶりです。万屋先輩、黒田先輩。」
二人は青年に見おぼえがあった。
「先輩?色兄知り合いなのか?」
「はい、彼は優子さんの弟、青木優一さんです。会うのは卒業式以来ですか?」
「はい、学生の時はお世話になりました。で、本題に入っていいですか?」
「そうやった。で、どうした?」
「それが…うちの姉、優子が昨日の夕方から行方不明なんです。一回電話して、それ以来、ずっと電話が繋がらなくて…」
「優子が行方不明?仕事が忙しくて電話出れないとかじゃなくて?」
「昨日、優子さんはここに来ましたけど、特に変わったことはなかったですね」
「お願いします!姉を探してください!真面目な姉が電話に出れないってよほどの事がないかぎりあり得ない事なんです!」
「確かに、優子の真面目ぶりは俺らも知ってるけど…」
「わかりました。必ず優子さんを見つけます。その依頼、受けました」
一方、優子は見知らぬ廃墟で目を覚ました。
「ここは…どこ?確か万屋君の事務所に居たはず…」
その時、身体に違和感を覚えた。
優子は手足を何かで縛られていたのだ。
「あら、お目覚めかしら?青木優子さん」
その時、目の前に十賀が現れた。
「黒髪、赤い目…あなたが十賀叶子ね?何で私をこんなところに連れてきたのかしら?」
縛られても余裕の優子に十賀は苛立ちを感じた。
「私ね、ある人を探しているの。その為にあなたの記憶を見させてもらったわ」
「ある人?それは誰なの?」
すると、十賀は優子の上着から携帯電話を取り出した。
「あなたの携帯かりるわよ。その人にここの場所を教えるわ」
一方、色は優一と共に優子を探していた。
「どうしよう…もし姉さんに何かあったら…!」
「物騒な事言わないでください。優子さんは必ず見つけます!もちろん、死なせません」
その時、色の携帯が鳴った。
「こんにちは。それとも、はじめましてかしら?」
電話に出ると、知らない女性の声だった。
「誰ですか?電話の番号は優子さんのものでしたが」
「私ね、あなたのお友だちから携帯借りているのよ。どこにいるか知りたい?」
「質問を質問で返さないでください。あなたは誰なんですか?」
「知りたいなら今から言う場所に来ればいいわ。けど、来なかったらあなたのお友だちはどうなるかしら…?」
意味深な一言を残し、電話が切れた。
「先輩、姉の居場所がわかったんですか?」
「はい、わかりました。優一さんは零士に連絡してください。私は先に行ってきます」
「一人で行くつもりですか?!」
「大丈夫。必ず優子さんを助けてみせます」
そう言って、色は走り出した。
指定された場所にたどり着き、色は急いで中に入った。
「優子さん!無事ですか!」
「万屋くん…!来てくれたのね…!」
「あら、もう来たのね。待っていたわ。万屋色さん」
柱から十賀が現れた。
「あなたは確かバイオリニストの…聞きたいことは山ほどありますが、まずは優子さんを返してもらいましょうか?」
「そこの刑事さんはすぐに返してあげるわ。けど、その前に…」
その時、十賀は色に近付いてきた。色は後ろに下がったが、さらに十賀が近付いて、色の頬に触れた。同時に目が赤く光った。
(なんだ…!?身体が動かない?!)
「万屋くん!目を見たら駄目!!」
優子の声を無視して、十賀は色を見続けた。
「あなた、火事でお父様を亡くされたのね…」
「…私の過去を見たんですね?」
「のみ込みが早いわね」
「あなたが人の過去を見れることは、すでに知ってますから」
「そう…でも、これはあなたでも知らないでしょうね」
すると十賀は色にこう言った。
「あなたのお父様は逃げ遅れた子供を助けて亡くなったの…」
「そして、その助けられた子供は私なの」
突然の告白に優子と色は衝撃を受けた。
「父さんはあなたを助けて亡くなった…?」
「そうよ、あの時、私もあの教会にいたわ。突然、焦げくさい臭いが立ち込め、教会は一気に火の海になった。あなたのお父様は私だけでも逃げろって言って、逃がしてくれた」
「そして、自分が逃げ遅れ、そのまま亡くなった…」
「そうよ。あなたのお父様は正義感がすごいとても愚かな人だったわ…」
「それって、どうゆう……」
その時、優一から連絡を受けた零士が現れた。
「色、優子…!大丈夫か?!」
「あら、タイミング悪いわね…」
一瞬で状況を理解した零士は十賀を睨んだ。
「お前、二人に何しようとした?」
零士は声のトーンを下げ、十賀に問いただした。
「恐い顔ね。何もしていないわよ」
「ホンマか?ならええけど…って、あれ?」
気がつくと、十賀は姿を消していた。
「逃げたみたいね…万屋くん大丈夫?」
「私は大丈夫です。優子さんは?」
「私も大丈夫よ。ありがとう。二人とも」
「まぁ、優子は無事見つかったことやし、弟の所にいくか」
「そうですね」
一方、
「本当に愚かな人だわ…万屋仁も、その息子も…」
十賀は一枚の写真を手に呟いた。
彼女は何をするつもりなのか、それはまだわからない
続く