ターニングポイント1
そんなわけで、午前中は優香ご希望の好きな雑貨屋巡りとなった。
何軒か雑貨屋を巡ってウィンドウショッピングを楽しみ、昼が近くなった頃、優香ご贔屓の手作り雑貨とカフェの店【カフェ・アベルトゥラ】に到着した。
街の郊外に何ヘクタールあるかは分からないが、ほとんど手付かずの状態で残された大きな森があり、その森の中に続く遊歩道を歩くことおよそ10分。
森の真ん中が切り開かれて綺麗に管理された広場になっており、その中に一軒だけ建つ、ヨーロッパの古城のような古びた洋館。
ここがカフェ・アベルトゥラだ。
信じられないことに、この店の周りの森も含めた全てがこの店の敷地なのだという。
「何度来てもすごいなこの店は」
「だよねー。はうぅ、素敵」
綺麗に刈り込まれた芝生と何種類もの果樹が整然と立ち並ぶ広場に佇む大邸宅。
外壁に這い回るツタの葉の緑としっくいの白と煉瓦の赤が美しいモザイクを形成し、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
ヨーロッパの城にあるような尖塔もあり、その天辺には錆びて動かない風見鶏。
遊歩道の石畳から続く三段の階段を登りきったところには、分厚い木にたくさんの鋲が打たれた観音開きの扉。
その前に出してあるA型看板のメニュー表がなければ、誰もこの建物を店とは思わないだろう。
僕らも口コミで初めて来たときは本当にこれが店だなんて思わなかったし、あまりにも格調が高すぎるように思えてフォーマルな格好でないと入れないんじゃないかと腰が引けてしまったのを覚えている。
実際はそんな格調が高いわけじゃない、リーズナブルで気さくなカフェ兼雑貨屋なので、今では僕らも入店するのに緊張したりなどしないが。
真鍮のドアベルに迎えられて扉を開くと、中からは芳しいコーヒーの匂いと古い家具の木の匂いが溢れてくる。
扉から入ってすぐ正面にレジカウンターがあり、向かって右側が雑貨屋、左側がカフェになっている。
ちらっとカフェの方に目をやれば、こんな不便な所なのにそれなりに客が入っているようだった。
そういえば、今まで、この店ががらがらという状態には出くわしたことがないな。
そんなことを思いながら、カフェの方で忙しく働いている顔なじみの店員に軽く会釈だけして雑貨屋の方に入った。
優香へのプレゼントのストラップは最初からここで選ぶつもりだったので、午前中に回った雑貨屋では買っていない。
この店の雑貨はすべてオーナーの手作りということで、全てが一品物。同じものは二つとして無いそうだ。
その種類も多岐に渡り、縫製小物や革小物、彫金や象嵌、螺鈿細工や象牙細工に至るまで多種多様。
しかも、それら全てが細部に至るまで精緻に造り込まれている徹底ぶり。
にも関わらず、値段帯はせいぜい数千円~一万円前後というお手頃価格。
正直、こんな値段じゃ原価割れしてるんじゃないか、と思うのだが、この店自体がオーナーが趣味でやっているもののようだから採算は度外視なのかもしれない。
優香はさっそくストラップを選び始めているようだ。
僕自身はどうしようか?
1.優香と一緒に選ぶ http://ncode.syosetu.com/n4294do/1/
2.店内を見て回る http://ncode.syosetu.com/n4701do/