雑貨屋巡りをしよう。
短大の卒業式を翌日に控えたその日、優香はちょっと落ち込んでいた。
まあ、それも仕方ないだろう。
なにしろ、卒業までに就職の内定が取れなかったのだから。
母子家庭の彼女は母親にこれ以上の経済的負担をかけたくないと常々口癖のように言っていて、実際、大学でも一生懸命勉強して、就職活動も頑張っていた。
ただ、見知らぬ人、とりわけ自分の父親ぐらいの年齢の男性を前にするとひどく緊張してしまってしどろもどろになってしまう損な性格が就職面接でマイナスになってしまったらしい。
慣れれば普通に話せるのに。
僕の仕事が休みの日だったから久しぶりに二人で出かけることができたのに、朝から優香の顔は浮かなかった。
一応、今日のプランは考えてはいたけど、それはこの際白紙にして、優香の気が済むまでとことん彼女の希望に応えて甘えさせてやろうと方針転換する。
「今日は優香がシンデレラの日」
唐突な僕の言葉に助手席に座った優香が怪訝そうに振り向く。
「え? どういうこと?」
「今日はとことんまで甘やかしてあげます。どこに行きたい? なにがしたい? プリンセスのお望みのままに」
理解が追いついたらしい優香がくすりと笑う。
「むー……魔法使いさんの懐具合を熟知しているシンデレラとしてはあまり無茶な要求はできないね」
「……お手柔らかにお願いします」
結局、彼女のお願いは堅実な彼女らしいささやかなものだった。
「今日はね、雑貨屋さん巡りがしたいなー。それでね、賢斗があたしに可愛いストラップを買ってくれるの」