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あなたを追いかけて

 私とカズヒロは行きつけの本屋が一緒で、読む本もだいたい同じだった。

 たまたま、お気に入りの作家の本を手に取ろうとした時、同じ本に手を伸ばしてきたのがカズヒロ。何だか恋愛マンガに出てくるシチュエーションみたいじゃない?好きなマンガの主人公にもそっくりだし。私は運命を感じたわ。

 その日はそれだけだったんだけど、三日後にそこで雑誌を立ち読みしていたら、入り口から彼が入って来た。

 彼、背が高いから目立つの。人混みの中でも彼の顔だけが見える。たとえはぐれてもすぐに見つけられるわ。

 私は彼に気付いて、彼がどの本を買うのか、こっそり見てみることにした。

 彼は初めにマンガの新刊をチェックして、それから小説のコーナー。そして最後に雑誌をちょっと立ち読みして、新刊を買って帰る。

 私は、彼が自分と全く同じルートで本屋を回ることに、驚きと喜びを感じた。

 

 それから毎日、彼がまた現れるのを本屋で待ったの。

 中々来なかったけど、一月ひとつきくらいしたらやっと来たわ。あー長かった……。

 いつものルートで店内を一回り。この前は推理小説一冊とマンガを数冊買ってたわね。今日は……歴史小説か。案外渋いのも読むのね。

 一冊だけ会計をして、彼は店を出た。

 私は思わず彼の後を追ったの。声を掛けようか考えたけど、向こうはきっと私のこと覚えてないと思うから、少し距離を開けて歩いた。

 本屋から五分ほど歩いて電車の駅へ。切符は買わずにICカードで改札を抜けた。良かった、私もICカード持ってるから、すぐに着いて行けたわ。

 彼は電車に乗り込むと、席に座り買ったばかりの本を読み始めたの。私は彼のちょうど向かいに座って、怪しまれないように持っていた文庫本を開いて読んでいるふりをした。

 彼、どこまで行くのかな……。

 本を読んでいる彼の顔、真剣。結構まつげが長い。意外と指は細くて女性的なのね。私より細いかも、ちょっと悔しい。

 もう五つくらいの駅を過ぎた。次の停車駅を告げるアナウンスが流れると、彼は本をしまって立ち上がった。私も本を閉じて、彼に怪しまれないように、彼とは別の扉へ移動した。

 

 電車が駅に着くと、ホームには結構人がいて降りるのに少し時間が掛かっちゃった。彼はどこかしら。……あ、やっぱり頭が他の人より上に出てる。

 離れすぎない距離を保ちながら、私は彼を追いかける。改札を抜けて、割と大きな駅舎を出ると、彼はバスやタクシーには乗らず、歩いてどこかへ向かう。

 駅前は結構拓けていて、デパートや若者向けのファッションビルが並んでいる。でも、彼はそのどれに入るでもなく、どんどん進む。

 十分ほど歩くと、一軒の喫茶店に入った。

 すぐに入るとおかしいから、その辺をぶらぶらして時間を開けて、私も喫茶店へ。あら、混んでる……どうしよう。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか? 只今あいにく混雑しておりまして、相席でもよろしいですか?」


 店員さんが声を掛けてきたので、仕方なく空いているところへ案内してもらった。

 そうしたら……。

 

「恐れ入ります、今こちらしか空いておりませんが……」

 

 彼と向かい合わせの席だったの!

 突然こんなに彼と近付くなんて思ってなかったから、私焦っちゃって。かなり挙動不審だったかも。

 彼は店員さんに相席をお願いされると、快くオーケーしてくれた。良かった……。

 ドキドキしながら座って軽く会釈すると、彼もニコッて笑いながら返してくれた! 嬉しい!

 笑うと唇の隙間から八重歯がちらっと覗いて、とても可愛い。本を真剣に読んでいる時はキリッとしてカッコいいけど、普段は柔らかい顔なんだ。そのギャップが素敵。

 私はコーヒーとショートケーキを頼んで、届くまで本を読むことにした。喫茶店に入って何も頼まないのはおかしいしね。

 私がバッグから本を取り出すと、


「それ、何読んでるんですか?」


 って、彼が話しかけてくれたの!

 どうしよう……緊張して、うまく話せないよ……。

 私があたふたしてると、店員さんが注文したものを持ってきたので、コーヒーを一口飲んで落ち着く。……ふう。


「すみません、急に話しかけて。ご迷惑でしたか?」


 彼が謝ってきた。やだ、誤解させちゃった……。


「いえ、違うんです。ちょっと緊張しちゃって……」


 あー、私ったらバカ! こんなこと言ったら、ますます彼が気を悪くするじゃない!


「僕も、緊張してます」

「え?」

「いきなり可愛い人が目の前に座ったんで……」


 ええー!? 彼ったら、そんな風に思ってくれてたんだ!

 嬉しいけど、もっとドキドキしちゃうよー!


「あの、僕カズヒロです。あなたは?」

「え? わ、私ですか? あ、キョウコです」

「キョウコさんか。綺麗な名前ですね」


 きゃー! そんなに褒めないでー! 心臓破裂しそう……。


「キョウコさんはこの辺に住んでるんですか?」


 ヤバい……あなたを追いかけて来ましたなんて言えない。


「い、いえ……私はここより三つ戻った駅で……」


 怪しい。絶対私怪しいよね……。

 近所じゃない奴がなんでこんなところにいるんだって、絶対思ってるよね。終わった……。


「奇遇ですね! 僕もそこですよ」


 良かったー! とりあえずセーフ!

 ……ん?


「え? 同じ駅なんですか?」


 こんな偶然ってあるのかしら。


「はい。ここへは何となく降りてみたんです」


 そうだったんだ……。

 確かに、うちの周り何も無いものね。

 でも、いくら偶然って言っても、ここまで重なるわけ無いよね。絶対不審者だと思われちゃうよ……。


「そうなんですか。ほ、ホント偶然ですね。私も、何となく……」


 あー、苦しい言い訳……。変な汗出てきた。


「へー! 何だか僕達、気が合いそうですね! この後時間あるなら一緒に食事でもいかがですか?」


 ……え?

 え? うそ……ホントに?

 夢じゃないよね?

 返事は決まってるわ!


「はい! 喜んで!」


 こうして意気投合した私達は、その後デートを重ね、恋人同士になった。

 出会い方はちょっとストーカーみたいだけど、終わりよければってことで!

 いつか、彼と結婚したいな……。

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