史上最悪最低のデート
ラグナロク:「今から貴方のいるビルの屋上に行きます」
「はははは、そういえばラグナロクは1対1で話せるシークレットチャットの方法教えてもらってなかったよなぁ」
イスに座り直す。
「このままじゃ自分のいる場所も、バルドルの場所も他のプレイヤーにわる分かりじゃあないか」
GuiltyEatersを創立し、そのクランのクランマスターであるヘイル・ダル。
そしてそのヘイル・ダルを操作している倉山総一は画面を見ながらコップに入れられたコーラを飲み干した。
「罠の可能性もある。だがそんなの関係無い!よぉうし!いくぜー!!」
右手をマウスの上に置き、左手を移動キーへ。
武器セット「特攻!!」を装備する。
装備武器リストが表示された。
メイン武器
FN ミニミ ◆ C
サブ武器
USSR スチェッキン APS ◇ C
メイン爆弾
M67破片手榴弾 ◇ A
サブ爆弾
M84スタングレネード ◇ B
接近武器
金砕棒 A
ウェポン発動スキル
アップル(手榴弾爆発範囲+1m)
ベースボール(爆弾投球可能範囲+5m)
鬼に金棒(接近kill毎に攻撃力1.2倍)
称号発動スキル
帰らない弾丸(敵拠点に侵入中攻撃力2倍)
「オレもビルに行ってバトルしてる中に横入り。そして全員倒す。ようし」
軽量型のライトマシンガンをかまえてこのフィールドで一番高くそびえたつビルへ接近する。
ここから先はどこでプレイヤーがいるかわからないので用心して進む。
一階のロビーへ侵入する。
エレベーターは破壊されておらず一階で止まっており、近くの非常階段の扉も開いていた。
「二択か……」
エレベーターは待ちうけられている可能性がある。
ヘイル・ダルは非常階段を選択して扉の奥へ進んだ。
すぐに周囲を警戒する。
そして階段をあがろうとした瞬間。
ヘイル・ダルは足元に注目した。
「ん?これは……」
足跡。
ほこりのかぶった階段を駆け上がった跡だ。
足跡を追いながら二階、三階と、少しずつあがっていく。
四階の踊り場に到着した。
ここだけ妙にほこりが無く綺麗になっている。
罠か……?そう思い警戒しながら5階を進もうとする。
だが、進む過程で何かに気付いた。
「足跡が……途切れた」
ガチャりという金属音が聞こえた
「っ!?」
背後にある踊り場横の扉から音がした。
しまった、足跡の罠に引っかかり背後をとられた、そう思い瞬時に銃弾を連射しながら振り返る。
マシンガンは唸りをあげながら銃口を音のした方へ向けた。
音の原因。
発生源は、プレイヤーでは無かった。
原因、それはどこからか投げられた手榴弾。
投げられた手榴弾が扉にぶつかり音を発生させたのだ。
罠にはまり、更に罠にはまる。
まるで罠の底なし沼。
あがけばあがこうとするほど罠に飲み込まれていく。
弾丸のフルバーストを止めてマシンガンごと手榴弾に投げつける。
マシンガンで手榴弾の爆風を少しでも弱くする作戦だ。
更にマシンガンより軽量のハンドガンを装備してクイックターンをして階段を駆け上がる。
駆け上がる際に下の階の方から階段を勢い良く降りる音が聞こえたが今は無視して上にあがる。
5階の踊り場にいく直前についに手榴弾が爆発した。
どうやらさきほどのとっさの判断は正しかったようだ。
爆風によるダメージは視界を一瞬赤くしたのと同時に体力ゲージを40%くらいに減少させた。
この程度のダメージならまだ、と思った刹那。
グサッとヘイル・ダルの背に何かが刺さった。
それも一回では無い。何度も。
それに対応して視界が何度も赤く光る。
ゲージがいちじるしい勢いで低下してゆく。
そう、先程の手榴弾は通常手榴弾では無く破片手榴弾だったのだ。
飛来物が当たらない場所である上の階に移動する。
刺さった破片のせいでもう当たっていないのに除々に体力が低下してゆく。
「こんな策考える奴が……オレのクランにいたのか……!」
「このビルの下のほうで音がした……のかな?」
辺りが一望できる屋上でスナイパーライフルのスコープを覗いていたバルドルはビルに辺りに響いた振動と音に耳をすませた。
バルドルこと、井上修也は先程のチャット内容を何度も脳内で反芻させていた。
今から貴方のいるビルの屋上に行きます。
これが本当ならば今からラグナロクはここへ来る。
更に他の皆にも居場所が知られてしまったせいでここに進入してくるに決まっている。
ライフルの弾丸をリロードして立ち上がりサブ武器であるハンドガン「ワルサーPP」を装備する。
この屋上へ来るには14階から階段を上がり、踊り場の扉を通過しなければならない。
その扉さえこちらで占拠してしまえばプレイヤーは向かってこれない。
だがワルサーのみでは火力不足だ。
屋上では武器セット変更はできないし弾丸補充できる場所も無い。
かわりに屋上には銃撃戦用の大型木箱などが何個か設置されており、敵の銃弾を回避しながら戦闘できる。
ヘッドショットさえできればこちらのものなのだが、そう簡単にはいかないだろう。
とりあえず踊り場の扉へ向かう。
踊り場から階段を覗くとそこには何かがいた。
赤いハチマキをつけたプレイヤーだ。
頭上にヘイル・ダルと表示されている。
赤い血を階段に垂らし、赤い道を作りながらのぼってきたのだ。
バルドルはその場で銃撃はせずに一旦戻り木箱の裏に隠れる。
その場で銃撃戦をするより安全に、そして完全に倒したかったからだ。
ヘイル・ダルが扉を抜けて落下防止用フェンスに近づく。
フェンスから外の様子をうかがっているヘイル・ダル。
その行為はバルドルに背を向けて実行されていた。
「よし……、今しかない」
しゃがみながら歩くことで足音を出さずにヘイル・ダルの背後まで近づく。
その間残り10m程。
勝った、そう思っていた。
扉からもう1人のプレイヤーが現れるまでは。
「えっ……!!」
黄色の装備で覆われているそのプレイヤーの頭上には☆ロキ☆と表示されている。
先程バルドルが倒したプレイヤーだ。
リベンジバトルに来たのだろう。
とっさの判断でヘイル・ダルへの背後攻撃を中止して木箱の影へ走って戻る。
木箱へ隠れていくのに気付いた☆ロキ☆がショットガンを乱射してきた。
少しだけ銃弾をくらって体力ゲージ60%近くに減少させられながらも戻る事へ成功。
どうやら☆ロキ☆はヘイル・ダルには気付いておらずこちらへ走り寄ってくる。
また、ヘイル・ダルも二人に気付き手負いの状態では勝てないと踏んだのか物陰に隠れる。
優勢だった形勢が一瞬で破壊された。
☆ロキ☆はメイン武器であるショットガンを持っていたが、こちらはサブ武器のハンドガン。
爆弾もこのビルの屋上に来るまでに発煙とデコイ作成爆弾の二つを使用してしまっていた。
接近武器も、あまり攻撃力の高くない鶴嘴。
足音がどんどん近づいてくる。
ついに何もできないまま銃声が鳴り響いた。
死んだ、そう思った。
だが画面が赤で染まらないし体力ゲージも60%近くを維持している。
というより、さっき☆ロキ☆が乱射していた銃声とは違う銃声だった気がする。
サブ武器に変えたのか、それともヘイル・ダルが撃ったのか。
おそるおそる木箱の影から様子を見てみるとそこには銃をかまえている、頭上にオーディンと書かれているプレイヤーが立っていた。
☆ロキ☆は血を流しながら違う木箱の影にしゃがんでいた。
4人。
同じクランの4人のプレイヤーがたった今同じビルの屋上で殺し合いをしている。
なんて光景だ。
多分今一番有利なのはオーディンだろう。
全く傷を負って無く武器もメインを所持している。
オーディンが風を切って歩を進める。
歩音が止まり突然「カシャ」という音が聞こえる。
影から様子を見るとオーディンは黒い球体を振りかまえていた。
その球体の正体は手榴弾。
先程の音は手榴弾のピンが外れた時の音だったのだ。
オーディンは手榴弾を振りかぶった。
次こそやられる、そう思った。
多分ロキも同じ事を考えているのだろう。
優勢が劣勢化。
これほど敗北感に胸をつかまれる場面はそんなに無い。
オーディンが手榴弾をこちらへ投げ捨てる。
その刹那、また別の銃声と共にオーディンの手榴弾が爆発した。
目を疑った。
ピンを引き抜いて約4秒。
たった4秒で爆発する手榴弾なんて危険すぎるし、そんな手榴弾はFBFには無い。
じゃあなんなのか。
背後から放たれた銃弾が手榴弾を貫いたのだ。
じゃあ誰が撃ったのか。
オレはこの木箱で隠れていたし、☆ロキ☆もオレの視界の中で身を潜めていた。
ヘイル・ダルはあの出血量ではもう動くだけで死ぬレベルのはず。だから動けない。
つまり今現在。
動けるのはただ一人。
奴しかいない。
チャット欄が更新された。
(やはりお前か……)
ラグナロク → オーディン
爆煙の中に影が現れる。
除々に煙は上空へあがっていき辺りが晴れる。
煙が晴れるとオーディンのリスポーン待ちの死体が現れた。
そしてもうひとつ。
その死体を踏みつけている黒のコートを纏いし者が立っていた。
「ここはいい見晴らし場だなァ。デートにももってこいだ」
ラグナロクは死体からタイルにひょいと降り、
「まあァお前等にとっては最悪のDEAD場だけどなァ……!!」