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五月蝿い沈黙と予想外のトラップ

「え……今オレ……プレイヤーを倒したのか?」

 それはあまりに突然で、意表を突く様に訪れた。

 画面に映し出される1killの文字。

 本当は記念すべきファーストキルのはずなのだが、その文字は達成感も喜びも与えてはくれなかった。

 それよりも、謎の孤独感らしきものが芽生えてきたくらいだ。

「と……とりあえず倒したプレイヤーの階を見に行ってみよう……」

 ラグナロクは再び銃をその手に構えてビルの方向へ走りだした。

 銃弾で破壊された自動ドアを突き進み、ビルの一階へ侵入した。

 辺りは散乱していておびただしい数の銃弾の痕も存在した。

「うわぁ……」

 その痕々が激しい戦いを物語っていた。

 辺りを見回しているとエレベーターを発見した。

 おっ、と思い反射のようにエレベーターに近づいた瞬間。

 背後で爆発音がした。

「うわっ!!」

 遊徒は思いっきり背後をバッと向き、左クリックの体制に入った。

 背後といっても正確的にはこのビルよりももっと遠くにある建物からだ。

 多分何者かが違うプレイヤーとの戦闘で強力な爆弾でも使用したのだろう。

 冷静に考えれば簡単にわかるはずなのだが、黒葉はそこまで思考が働かなった。

 何かが近くにいたら撃つ、と考えていたからだ。

 5、6秒近く構えたまま静止しているとだんだん考えがまとまってきた。

「はぁ……はぁ……こんなんでビビってたらこの先どうなるか……」

 完全に冷静を取り戻した遊徒はまた後ろを向き、エレベーターへ歩み寄る。

 エレベーターは13階で停止してあった。

 電力は落ちていないようで、小声で「よし」と発しながらボタン目掛けて右クリックをした。

 銃の持ち手の部分でエレベーターのボタンを殴り壊した。

「え・・・?」

 どうやらエレベーターのボタンを押すのは右クリックではなかったらしい。

 それに気付かず右クリックを連打する。

「ちょ、動いてくれよ」

 殴りすぎたせいでエレベーターの配線コードを傷つけたらしく、

 突如黄色い電撃が画面全体に走る。 それと同時にラグナロクの痛みの声。

 おまけにまた赤ゲージが減少。 エレベーターが使用不可能化。 ふんだりけったりだ。

「エレベーターはもう一生使わねぇ」

 逆ギレした遊徒は他のルートを探す。 よくよく見るとエレベーターの近くに非常階段を発見した。

「おいおい。 あるなら最初からあるって勧めてくれよ。 エレベーター君」

 エレベーターは返事をしない。ただの壊れたエレベーターのようだ。

 非常階段の扉は最初から開いており、ほこりでよごれた階段を駆け上がる。

「ん? これは……FBFすっげえなぁ。 こんな細部まで」

 黒葉は階段に注目した。 いや、正確には階段のほこりについている足跡に注目した。

「さっきオレが倒したプレイヤーの足跡か?」

 いやおかしい。 オレが来る前ならまだエレベーターは使用可能なはず。

 ならばエスカレーターで8階まで登ればよかったはず。

 他のプレイヤーの待ち伏せを不安がったのだろうか。

 恐る恐る階段を登る。

 4階の踊り場についた。 何故かこの4階の踊り場だけほこりがなく綺麗だ。

 気にせず階段を登ろうとした瞬間。

「足跡が5階の踊り場から降りてきているような跡になっている……」

 背後から銃を構える音が聞こえた。

「ッ!?」

 踊り場横の扉から突然プレイヤーが出てきて背後をとられた。

 しまったとそう思う時間もなく発砲される。

 足跡は誘導のためのトラップ

 黒葉は突然の事にパニックになりながらもラグナロクを6階へと駆け上がらせる。

 後ろのプレイヤーも後を追いかけてきた。

 一気に踊り場の扉から6階へと流れるように入る。

 だがここは一方通行。 この部屋にあるのはさきほどラグナロクが投げた通常手榴弾の爆発痕と多くのダンボール。 あと大きなソファやタンスなどで他の道は塞がっていた。

 完全に八方塞。 いや、一手だけ奴から殺されない方法を見つけた。

 それは窓から飛び降りる事。

 この高さから落ちたら現実なら死ぬ。 だがここはゲームの世界だ。

 落ちても生命力1以上で生き延びるかもしれない。

 幸い先ほどの男の銃撃は一発も当たらなかったので生命力は90%近くある。

 どんな事が起きてもすぐ対応できるように窓際まで走る。

 ほぼオレが窓際に走り着いたのと同時くらいに相手プレイヤーが部屋に入ってきた。

 入っていきなり相手プレイヤーは銃撃をしてくる。

「うおぉお!?」

 生命力を落下時のために残しておくためにも窓際を走り銃弾を回避して行く。

 立体音響ヘッドフォンが頭の真後ろで銃弾と窓ガラスの割れる音を再現する。

 部屋の隅まで走りきった。 もう逃走できるスペースはない。

 窓落下作戦を捨てこの部屋で逃げ切りながらどうにか反撃をしてみるか。

 それとも窓落下作戦を実行するか。

 考える時間がほしい。 だが飛んでくる弾丸は待ってくれなかった。

 弾丸はラグナロクの脇腹に被弾した。

 そして苦痛の声が聞こえた。

 だが、それなのに今だラグナロクは部屋の隅に立っていた。

「何故だ……?」

 答えを教えてくれたのは生命力ゲージだった。

 生命力は35%程を維持していた。

「当たり所が良かったから一発では死ななかったのか!!」

 すると敵プレイヤーの銃から引き金を引く音が部屋に何度も響き始めた。

 が、銃弾は発射されない。

 その時。 黒葉は気付いた。

「こいつ……弾切れだッ!!」

 黒葉はそう思った瞬間には左クリックをしていた。

 その役は銃撃。

 果たしてちゃんと当たっているのだろうか。

 そんな事は考えていなかった。

 撃つ。 とにかく撃つ。

 黒葉の目は左下にある弾薬ゲージを発見した。

 だがそれは目が発見しただけであり脳は気にも留めなていかった。

 撃つ。 無造作に。

 撃つ。 例えそれが有限でも。

 撃つ。 撃つ。 撃ち続ける。

 先程まで銃の悲鳴が聞こえていたこの部屋に死ぬほどうるさい沈黙が訪れた。

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