生きざま。
僕は、必死だった。
留守の家を狙っては中に忍んで入り、金目のものには目もくれず食べ物をただ盗み食う。
僕は、必死だった。
金も家も家族も何もない。僕は、独りだ。そんな僕がみすぼらしい格好で道を歩いてると、石を投げ付け汚い言葉を浴びせてくる子ども達とよく出会った。だから、僕は子どもを見るとすぐさま逃げて隠れるんだ。
僕は、必死だった。
昔はそれなりに食っていけた。今ほど汚い格好はしていなかったし、食べ物を恵んでくれる人もいたからね。
僕は、必死だった。
ある日、どうにも後ろの右足が動かなくなって、ヨタヨタと引きずりながら歩いていると幾人かの子ども達と出会った。いつものように石を投げ付けられるとビクビクしていたら、子ども達は僕を見て何故か恐がって逃げていった。
僕は、必死だった。
数日前、ある一人の優しそうな女性に出会った。出会った…というよりは、そんな女性が遠くのほうからじっと僕を見ていたんだ。優しそう…と思ったのは、僕を見てニコリと笑ってくれたからだった。
僕は、必死だった。
目が霞むようになって、よく前が見えなくなった。とうとう死ぬのか?そうなのか?怖くなって、でも諦めに似た感情も湧いた。あの優しそうな女性の顔も、もう見れないのかな。
思えば、僕の生きざまは醜いものだった。惨めなものだった。親の顔も知らないし、物心付いたときには公園の花壇の下にそっと置かれた段ボールの中にいた。泣いたって、叫んだって、誰も見向きしない。真っ白な毛並みが自慢だったけど雨風に曝されていつのまにか真っ黒になった。
生まれた意味なんて、僕にあったのかな?何のために生まれたのかな?僕は、生まれてきてよかったのかな?
僕は、必死だったんだ。
やがて、後ろの左足も動かなくなって、前足を止めた。
ここはどこだろう?目もよく見えないや。もう、生きれないよ。
クタッと倒れ、目を閉じる。すると、だ。誰かが僕の体をそっと抱き上げたのだ。
「可哀想に」
女性の声だった。僕は目を薄ら開けると、霞んでいたが、確かにあのいつかの優しそうな女性の心配そうな顔が目に映った。
僕、汚いよ?そんな抱き方したら服が汚れるよ?
「うちに、来る?」
僕、足は動かないし、目も見えないよ?いいの?
女性の手は温かかった。
僕は、必死だったんだ。生きるのに。
「ニャア!」
「ふふ。やっと鳴いたね」