読切短編 視線
私の予感は、外れたことがない。
就職活動を始めたとき、「この会社は落ちる」と感じた企業は全滅した。内定をもらった三社は、面接室に入った瞬間に「ここだ」とわかっていた。彼氏と別れる二週間前、理由もなく胸がざわついた。事故のあとで思い返せば、あの日は妙に胸騒ぎがしていた。
だから私の第六感を、私は信じている。
入社初日。エレベーターを降りた瞬間に、嫌な予感がした。
オフィスに足を踏み入れると、空気がわずかに変わった気がした——そういう感覚に私は敏感だ。受付で名乗ると、総務の田中さんという女性が立ち上がり、笑顔で案内してくれた。廊下を歩きながら、彼女の背中を見ていた。
嫌な予感が、強くなった。
(この人じゃない)
席に案内され、チームメンバーに紹介された。隣の島の先輩、向かいの同期、奥のデスクの課長。
一人ひとりと目が合うたびに、私は無意識に相手を観察していた。声の調子や視線の動きに、意識が向いてしまう。これが私のやり方だ。こういう違和感だけは、昔から外れない。人を見る目だけは、ずっと私を守ってくれた。少なくとも、私はそう信じている。
どこかに、引っかかるものがある気がした。昔、一度だけ、その違和感を無視して痛い目を見たことがあった。
(課長かもしれない。あの作りすぎた笑顔は信用できない。)
(同期の男は目が泳いでいた。何かを隠しているように見えた。)
実際、彼は私と視線が合うたび、すぐに目を逸らした。
(目が合うたび、彼女はすぐ別の方向を向いた。田中さんはさっきから私を避けている。なぜ)
昼休み、一人で近くのコンビニに行った。誰かに声をかけるタイミングを逃したまま、私は一人で外に出た。戻ると、給湯室のドアが少し開いていた。声が漏れていた。私の名前が聞こえて、足が止まった。
「——感じ悪くない?」
「ちょっと、声」
「でも最初から品定めするみたいな目でさ、なんか」
「まあ初日だし、緊張してたんじゃ」
「緊張であの目になる? 田中さんもそう思わなかった?」
しばらく間があった。
「……正直、ちょっとだけ」
私は廊下で立ち止まったまま、コンビニ袋を握りつぶしていた。
違和感だけは、間違っていなかった。
ただ——向けられていたのは、私のほうだった。




