表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

読切短編 視線

作者: 黛 文彦
掲載日:2026/05/20

 私の予感は、外れたことがない。


 就職活動を始めたとき、「この会社は落ちる」と感じた企業は全滅した。内定をもらった三社は、面接室に入った瞬間に「ここだ」とわかっていた。彼氏と別れる二週間前、理由もなく胸がざわついた。事故のあとで思い返せば、あの日は妙に胸騒ぎがしていた。


 だから私の第六感を、私は信じている。


 入社初日。エレベーターを降りた瞬間に、嫌な予感がした。


 オフィスに足を踏み入れると、空気がわずかに変わった気がした——そういう感覚に私は敏感だ。受付で名乗ると、総務の田中さんという女性が立ち上がり、笑顔で案内してくれた。廊下を歩きながら、彼女の背中を見ていた。


 嫌な予感が、強くなった。


(この人じゃない)


 席に案内され、チームメンバーに紹介された。隣の島の先輩、向かいの同期、奥のデスクの課長。 

 一人ひとりと目が合うたびに、私は無意識に相手を観察していた。声の調子や視線の動きに、意識が向いてしまう。これが私のやり方だ。こういう違和感だけは、昔から外れない。人を見る目だけは、ずっと私を守ってくれた。少なくとも、私はそう信じている。


 どこかに、引っかかるものがある気がした。昔、一度だけ、その違和感を無視して痛い目を見たことがあった。


(課長かもしれない。あの作りすぎた笑顔は信用できない。)


(同期の男は目が泳いでいた。何かを隠しているように見えた。) 

 実際、彼は私と視線が合うたび、すぐに目を逸らした。


(目が合うたび、彼女はすぐ別の方向を向いた。田中さんはさっきから私を避けている。なぜ)


 昼休み、一人で近くのコンビニに行った。誰かに声をかけるタイミングを逃したまま、私は一人で外に出た。戻ると、給湯室のドアが少し開いていた。声が漏れていた。私の名前が聞こえて、足が止まった。


「——感じ悪くない?」

「ちょっと、声」

「でも最初から品定めするみたいな目でさ、なんか」

「まあ初日だし、緊張してたんじゃ」

「緊張であの目になる? 田中さんもそう思わなかった?」


 しばらく間があった。


「……正直、ちょっとだけ」


 私は廊下で立ち止まったまま、コンビニ袋を握りつぶしていた。


 違和感だけは、間違っていなかった。


 ただ——向けられていたのは、私のほうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ