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ループする悪役令嬢は、ヒロインへ物申す。  作者: 宵紘


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7/8

7話

当初の予定で5話〜6話くらいと言っておいて、7話になってしまいました。反省。


 侍女長に促されるままたどり着いたのは、王族専用の控え室だった。殿下のパートナーとして入場する際に、利用したことがあったわね。重厚な扉の先には、ソファのセットがあり、両陛下がくつろいでいらした。

 私的な場ということもあり、口上は品位を保ちつつ、礼は控えめなものに留める。


「御前、拝謁いたします。メアリー・シュタインフェルト、参上いたしました。ご用件を承りたく存じますが、よろしいでしょうか?」


「まぁ、そう急くな。こちらに座りなさい」


 危ない。レン様のことが気になっているからといって、焦るあまりに礼儀を欠くところだったわ。彼がサプライズプレゼントなどと言うものだから、知らずに緊張していたのね。落ち着かなければ。

 陛下の指示に従い、対面のソファへ腰をおろしたわたくしは、平静を取り戻すために小さく息をつく。もう、大丈夫よ。さぁ、なにが飛び出すかしら。


「話というのはな、そなたとハロルドの婚約についてだ」


「シュタインフェルト家には申し訳ないのだけど、あの子との婚約を、白紙に戻してもらいたいの」


 真っ先に思い浮かんだのは「なぜ?」のひと言。ヒロインの存在がなかったことになっている、というのならば、わたくしと殿下の関係はいたって順調なもののはず。政略的なものを考慮しなくとも、白紙に戻す理由が思いあたらないわ。


「重ね重ね、失礼を承知でお伺いいたしますが、わたくしになにか、至らぬ点がございましたでしょうか?」


「あぁ、すまない。そなたには、何ひとつとして落ち度はないと、余が断言いたす。これは外交の問題なのだ」


 ゲームのエンディングだった頃とは違い、今宵の夜会は同盟国の王太子殿下をはじめとした、他国の賓客がやけに多かった。その理由が、陛下の仰る外交の問題によるものだったということね。

 お互い、唯一無二の同盟国として、持ちつ持たれつな関係を長年維持していた彼の国で、昨年、王太子殿下による国政の改革宣言がなされたことは、わたくしも聞き及んでいてよ。改革の内容は全て内向きのものであり、諸外国にはさして影響がないものと思われていたのよね。


「我らもそのように考えていたのだが……。あの若造は、突然、同盟関係を解消すると言い出しおった」


「それはまた……唐突なことですわね」


 さきほど会場で見かけた同盟国の王太子殿下。彼が曲者、というわけね。

 ソファに沈んでしまうのではないかと思われるほど、深いため息をつく陛下。お隣にいらっしゃる王妃陛下も、眉間に刻む皺の深さが深刻さを如実に表していらっしゃる。


「もっと他の国にも目を向けるべきだなどと、賢しらに口を出しおって、過去に縛られるのは時代遅れだと堂々とぬかしおる。怒りにまかせて縁を切ることもできるが……長年腹を割って付き合ってきたのだ、今更無碍にはできぬ。そこで、あちらの姫を我が国に嫁がせることを条件として、同盟の解消を受け入れるとしたのだ」


 それはつまり……人質、ということですわね。同盟を解消したからといって、すぐに争いが起こるようなことはないでしょうけれど、火種がくすぶりはじめてからでは遅いもの。保険として、あちらの姫を手元に置いておくことを、陛下は選ばれたのだわ。


「そんな事情だからといって、姫を虐げるようなことは断じてせぬ。抑止力として、末永く我が国に居着いてくれればそれで良い」


「なにより、姫は幼い頃よりハロルドを好いていたようなの。あの子はとても驚いていたけれど、この婚姻が国益に適うのならと、了承してくれたわ」


 今宵はその姫も、王太子殿下と共に列席していらっしゃるそうで、ハロルド殿下はそちらのエスコートを優先させたのだとか。なるほどね。だからお見かけしなかったのだわ。夜会には少し顔を出した程度で、あとは王宮内で親睦を深めていらっしゃるといったところかしら。


「ご事情は把握いたしました。わたくしがハロルド殿下の立場であったなら、同じ選択をいたします。ですからどうか、そのような悲しげなお顔はおやめくださいませ」


 王妃陛下の手にそっと触れ、恐れ多くも励ましの言葉を贈る。これは英断と呼べるものですもの。両陛下のお心を、少しでも軽くして差し上げたかった。

 厳しくも優しい彼らの眼差しが、実の娘のように接してくれていた過去のそれに戻る。


「そなたの希望があれば、新たな嫁ぎ先をこちらで用意することを考えている。ハロルドとの婚約を白紙とする対価に、そなたはなにを望む?」


「わたくしの縁談については、お気になさらず。学園も卒業いたしましたし、しばらくはのんびりしとうございます。強いて望みをあげるのであれば……父の説得を、両陛下へ頼みたいですわ」


 この婚約白紙の件で、一番の障害となりうる人物を思い浮かべる。父はきっと、とても渋るでしょうね。両陛下もわたくしの心情を察してくださったようで、お互い苦笑いをこぼした。


「あいわかった。そなたの配慮、痛み入る。シュタインフェルト卿とは、明日にでもしっかりと話をつける故、安心すると良い」


 感謝の言葉を賜り、わたくしは王妃様と別れの抱擁を交わした。この謁見を境に、両陛下と家族になる未来は消えることになるけれど、尊敬すべき主君として、これからも誠心誠意お仕えすることを心の中で誓う。


「……半信半疑であったが、全てあやつの言った通りになるとはな」


 場を辞して会場に戻ろうとするわたくしの耳に、陛下の呟きが届く。王妃陛下と共に陛下へ注視し誰のことを指しているのか伺うも、その答えは返ってこなかった。


「あぁ、そなたは気にせずとも良い。夜会もそろそろ終わる頃であろう。わずかな時間とはなるが、最後まで楽しんでいってくれ」


 両陛下に見送られたわたくしは、控え室を出て会場へと戻る。窓から外を見れば、帰路につく馬車が何台か並んでいた。わたくしも、そろそろ帰らなくてはならないわ。

 レン様は貿易協定を結びに来た使者なのだから、王宮内に用意された来賓用の客室を宛てがわれているはずね。そういった方々は、大抵の場合早々にお部屋へお戻りになるものだけれど、彼はまだ、会場に残っていらっしゃるかしら?


「おかえり、メアリー」


 熱気の引き始めた会場に足を踏み入れると、呼び出された時とほぼ同じ位置で待っていてくれたらしいレン様が、軽く手を挙げてわたくしを出迎える。ほっとして笑顔を向けようとしたのだけれど、彼の手元を見た瞬間、脱力してしまったわ。


「レン様……山のように食べ物を乗せたそのお皿は、いったいなんですか。以前も申しましたけれど、こういった格式のある場では、そのような行いは品がなくってよ」


「え〜? だってもったいないじゃん。こんなに綺麗に盛り付けられて、しかもいっぱい用意されてるのにさ、全然減ってないの。作ってくれた人が可哀想だよ」


「しめ鯖嬢の頃にも、一度ご説明差し上げましたけれど、量を用意すること、見栄えよくすることは王宮という場であれば当然のことなのです。そして食事をすることよりも、社交に専念し、人脈を拡げることを優先するのが貴族というものなのです。……あなた、本当にこれから貴族としてやっていく気はございますの?」


 少し目を離すとこれとはね。ほら、周りをごらんなさいな。自分がいかにおかしなことをしているのかを……。いえ、そうね、そうよね、そうだったわね。他人の評価を気にするような方なら、最初からこうはなっておりませんわよね! まったくもう。立場が変わっても、この方の本質はあの頃となにも変わっていないのだわ。

 わたくしの小言を受けて、追加で軽食をお皿に盛るのはおやめになったようですけれど、「一度手に取ったら食べきらないと、もったいないオバケが出る」などとよく分からないことを仰いながら、食べること自体はやめなかったわ。なによ、もったいないオバケって。


「仕方がありませんわ。食べながらであれば、わたくしの話を聞いていただけるわよね?」


 頬袋でもあるかのように、口の中にどんどん食べ物を押し込める彼は、どう評価しても一国の王子には見えないわよ。咎めるようにジッと見つめていると、目が合ったわね。逸らしても無駄ですわよ。喋れないのでしょうから、勝手に話しを進めますわ。


「今夜のうちに、あなたのお話を全て伺うのは難しいわ。ですから後日、わたくしが王宮を訪ねるか、レン様に我が家へ来ていただきたいのだけど、帰国までのお時間に余裕はありまして?」


 頷きはするけれど、相変わらず手を止めることはしないわね。そんなに焦って食べなくても、追い出されたり取り上げられたりしないわと教えて差し上げると、やっと口の中を空にしたわ。


「あぁもうほら、口の端にソースがついていてよ。そう、そちら側。まったく……あなた確か、以前も今も、わたくしより年上なのではなかったの? これじゃあ子供の世話ではないの」


「いやぁ、基本的に社会人になってからは、24時間365日、仕事に追われて生きてたから、食える時に食っとけっていうのが染み付いちゃって。そうだよな、もう夜中に電話で叩き起されることもないんだから、やめていいんだわ」


 いったい、外の世界はどうなっておりますの? 冗談、ですわよね? ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべていらっしゃるけれど、目の奥が死んでいてよ。レン様の仰るものが日常だというのなら、戦場の最前線にいる見張りの兵士の方が、よっぽど待遇が良いのではと思わずにはいられないわ。


「えっと、それで時間の余裕があるかって話だよね。俺は大丈夫だから、早い方がいいなら明日にでもメアリーの家に行くよ。って、あれか。貴族の家に行くには先触れがいるんだっけ?」


「先触れはなくても問題ありませんわ。明日は、父が早い時間から陛下よりお呼び出しを受ける予定ですもの。わたくしが、使用人にあなたの来訪を告げておけば、追い返されることはないわ」


 明日は焼き菓子や軽食を少し多めに用意しておきましょうか。話はきっと長くなるでしょうから、腰を据えて付き合わなくてはね。

 レン様に、寝過ごさないようにと釘をさして、わたくしは王宮をあとにした。

7話と8話は同時投稿になります。大晦日に間に合って良かった……

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